動画で社会をもっとよくする。ソーシャルグッドなドキュメンタリスト・高島太士に学ぶ、共感のレシピ

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日ごろから社会課題の解決に取り組んでいるNPOや企業の広報・マーケティング活動に関わっている方々のなかには、自分たちの活動やサービスなどをできる限り多くの人に知ってもらいたいと考えているものの、情報発信に課題を感じている方も多いのではないだろうか。

ますます多様化し、複雑化している社会課題に立ち向かうためには、多くの人からの支援や協力が不可欠だ。そのためには、単に問題の存在を知ってもらうだけではなく、共感を生み、実際に行動に移そうと思ってもらえるようなコミュニケーションの設計が必要となる。

そこで、今回IDEAS FOR GOOD編集部では、これまでソーシャルグッドな動画作品を数多く手がけ、海外でも多数の受賞歴を持つドキュメンタリストの高島太士さんに、人々の共感を生み出し、心を動かす映像の作り方について詳しく話を聞いてきた。

話者プロフィール:高島太士(FIRST APARTMENT代表/ドキュメンタリスト。演出家)

ソーシャルグッドなアイデアで共感をよぶ映像演出を得意とする。代表作はP&Gパンパースの「ママも1歳、おめでとう。」など。過去に手がけた作品はCanne Lions、One Show、New York Festival、AdFest、Spikes Asia、AD STARS、PR AWARD ASIA、ACCなど国内外の広告祭で受賞歴多数。直近ではSDGsや幼児教育の分野において映像の知見を活用した取り組みを進めている。

人は、勇気を出す瞬間が美しい

Q:動画に関わることになったきっかけは?

もともとはVJ(ビデオジョッキー)をやっていたのですが、ある日アルバイト先のワインバーで自分の映像を流していたところ、その作品が映像会社の社長の目にとまり、「よかったらうちで働かないか」と誘われたのがきっかけです。それが今から18年前の話で、以来ずっと動画をやっています。

最初は広告の世界に入ったので、ひたすら広告を作っていました。テレビCMというよりもイベント用や店頭用の動画など地味なものが多かったです。当時は映像の力を信じていたというわけでもなく、クライアントである企業の方々に納得してもらえる動画をつくり、それでモノが売れれば評価されるという感じだったのですが、少しずつ時代が変わり、YouTubeなどが出てきた頃から、徐々に自分らしい作品が作れるようになってきました。

高島太士さん

Q:高島さんらしい作品とは?

広告の世界でやるべきことは商品の良さを伝えることなのですが、僕の場合は「人間が人間らしく映っていること」を表現するというのに長けているようです。僕はもともと人間に興味があって、誰かと話しているときもその人の目を見ればどんなことを考えているか分かるし、嘘をついたり取り繕ったりする人も分かるようなところがありました。そのため、YouTubeが広まり始めたころから、人間のよい部分や美しい部分を映像に落として、それを見た人がなにか一歩を踏み出すきっかけになるような作品をつくることに楽しみを覚えるようになりました。

Q:「人は、勇気を出す瞬間が美しい」をコンセプトにしていますよね。

映像の仕事をしていると、カメラで撮ったものをモニター越しに見るのですが、長年やっていると、その人の顔の筋肉の動きまでよく分かるようになります。普段対面で話していてもなかなか分からないですが、人間の顔は感情が揺れるときにすごく反応をしていて、そこには日常の会話などにはない美しさがあります。たとえば、教室でなかなか手を挙げられない子どもが勇気を出して手を挙げたその瞬間の顔はとても美しいのです。

その人が変化する瞬間や、興味がなかったものに興味を示す瞬間、心が晴れる瞬間などにできる限り多く出会いたいですね。その人の気持ちが少しでも変わるとそのときの顔も変わってすごくいい顔になるので、ただそれを見続けていきたいなと。

動画の可能性に気づいた代表作「ママも1歳、おめでとう。」

Q:特に思い入れのある作品は?

代表作になったのは、パンパースの「ママも1歳、おめでとう。」という作品です。この作品をつくったときは家族も子供もいなかったのですが、一緒のチームのみんながこういうものを創りたいというゴールを明確に持っていました。普段はあくまで広告なのでクライアントの意思を尊重することに徹するわけですが、このときは少し違っていて、チームで「ママも1歳を祝うというのがテーマとして新しいし、同じような境遇のなかで日々苦労したり悩んだりしている人たちがちょっとでも救われるのでは?」と話していました。

そして実際につくってみて世の中に出したとき、「広告でも人を救える」と実感できたのがこの作品でした。振り返ってみると、「こうしたほうがもっと人に響くのでは?」「こうしたほうが映像に出ている人が幸せになるんじゃないか」というのを一番強く言っていたのが僕だったので、自分にも人の心に響く映像を創ることができるという確信を持てたんです。

※パンパース「ママも一歳、おめでとう。」子供が一歳になる時、それは、ママの一歳でもある。「1歳児健診」に訪れたママたちへ、パパ達から贈られた感謝の気持ち。

Q:どんな反響があったか?

一番覚えているのは、仲間とバーベキューをしているときのことです。そこで、知人が僕のことをとあるお母さんに「ママも一歳の監督さんですよ」と紹介してくれました。すると、そのお母さんから半泣きになりながら握手をしてくださいと言われて。その方からすると、感極まるぐらい自分の一年と重なったということなのだと思います。子育てをしているママさんからすると、子育てのつらさや自分の気持ちはやっぱりなかなか外に共有しきれないですよね。それが映像と言う形で広まって、子育ての最初の一年は本当に大変なんだということが男性も含めて広まったのはとても大きくて、それが嬉しかったのかなと。このときは僕もすごく嬉しかったですね。

「自分にもできる」と思ってもらえるアイデアを

Q:多くの人の心を動かすうえで大事にしていることは?

YouTubeなどで動画を見たときに、「すぐに真似できる」と思ってもらえるような、誰にでもできるアイデアを入れるようにしています。「ママも一歳、おめでとう」の動画であれば、大変な一年を過ごした奥さんがいて、その様子を一番そばで見ていたのは旦那さんなので、旦那さんは「ちゃんと見ていたよ」ということを奥さんに伝えてあげる。これって絶対に誰でもできることじゃないですか。

僕が作品のなかでとったのは「写真を飾る」という手法でしたが、別の方法でもいい。このように、アイデアを考えるときは「誰にでもできることかどうか」というのを意識しています。そのほうがジブンゴト化してもらえるし、チャレンジしてみようと思ってもらえるので。

Q:どのように共感を生み出すのか?

音楽などをつくるときによく話すのですが、ポジティブとネガティブの間に線があるとしたら、音楽はちょっとネガティブなところから少しポジティブな線の水面に顔を出すぐらいが気持ちいいのです。あまりにゴージャスにしすぎると他人事になってしまうので。

たとえば、映像のなかで「勇気を出した人」を描くとすると、その人と音楽が歩み寄る距離感はとても気にしています。「本当はこうなりたいんだけど、できないだろうなあ」とみんなが勝手に思っていることも、実際には少しの勇気があれば意外とできるんですね。だからこそ、その瞬間はあまりドラマチックに描きすぎないようにしています。それが共感につながるのではないかなと。

そうした動画を見てくれる人がいて、実際にやってみたいという人がいて、それを実際にやることでその人たちの問題が解決して、幸せになってもらえるのが嬉しいですね。

※高島さんの代表作の一つ。クラシエ「# feel the Warmth 〜人はぬくもりで会話できる〜」会話をしなくても、人は気持ちが通じ合うのだろうか、感情を表に出すことはできるのだろうか。オキシトシンがもたらす効果を検証した。

Q:社会課題や自分たちの活動を伝えていく際に心がけるべきことは?

動画に限ったことではないですが、あまり自分たちがしたいことを高く掲げすぎない方がよいと思いますね。掲げることで、逆に距離が離れてしまうこともあると思うので。僕も含めて、最近のひとたちはみんなあまり何かに帰属するという意識が低いと思っていて、「こっちに行こう」と言われても「僕は行かなくていいや」というか、自分は自分らしくありたいという考えを大事にしていますよね。

だから、「私はこうしたい」と伝えるよりも「あなたはどうしたいのか」を聞きながら、その人の力になれるように歩み寄りつつ手伝ってもらうという姿勢で導いていかないと、行きたい方向には行けないのかなと感じています。本人のやる気さえ出れば、わざわざ行き先を伝えなくても勝手に走り始めると思うので。そのほうが共感を得られますし、広告の世界でも広告主を主語にしないほうが圧倒的に共感を得やすいですね。

問題も、あまり重く見せすぎないほうがよいのかなと思います。人は興味を持てば自分で調べて問題の深さを知りますし、それによって興味も深まっていくので。映像のなかで問題のことを伝えすぎると、逆に自分には関係ないと思われてしまうし、情報を与えすぎると「自分がやらなくても誰かがやるかな」と思われてしまうので。考える余地を与えるということが大事ですね。

動画の魅力は、大きく見せられること

Q:「FAST FOOD AID」の動画も非常に印象的だったが、どのようにアイデアを考えたのか?

FAST FOOD AIDは、最終的にはオチがお好み焼き屋の広告なのですが、お好み焼きの栄養価はとても高いということを知ってもらうために、あなたが普段している食事の栄養価は低いということを伝えたい。それがどのようにすればもっとも伝わるかを考えた結果、栄養についてまったく何も考えていない人に対して恐怖を訴求していくという形になりました。

※道とん堀「FAST FOOD AID」。「新型栄養失調」と呼ばれる社会問題をキッカケに、東京原宿の若者に訴えかけた実証実験。

実際に原宿にお店を建てて、ファーストフードを食べてレシートを持ってくると、サプリメントと交換してもらえるという企画を考えました。原宿を歩いている人に声をかければ、だいたいその日の昼はファーストフードなので、よかったら店に来ませんかと声をかけて入ってもらって。

店の中にいるのは実際の栄養士なのですが、恐怖を強く訴求したいので、器を「カン」という音がするアルミ製にする、少し青っぽい光で実験室っぽくする、質問が来ないように栄養士さんにはすごく早口で話してもらう、レシートをわたしてすぐに帰れると思ったらものすごい量のサプリメントを見せられるなど、企画というよりも映像演出について特によく考えました。

一日で建てたお店なので、実際にはイベント会場の延長みたいなレベルのものなのですが、そこにそれなりの音楽をつけて、それなりの数の人が体験して、編集をすると、「コト」が大きく見えてきて、それをYouTubeなどでウェブの世界に広めていくと、たいそうなことをやっているように見えてくるのです。それが動画のいいところだと思いますね。

Q:動画の場合、メッセージを拡張して伝えられるということですね。

地雷を撤去するために、竹でできた風で転がるプロダクトを開発し、数分の動画で紹介している方がいるのですが、その動画では、実際に地雷が爆発するシーンや、開発した方のインタビューが見られるようになっています。何がすごいのかというと、もしかするとそのプロダクトは実際には5個ぐらいしか作っていかないかもしれないし、地雷も自分で埋めた地雷かもしれない。嘘をついているわけではないのですが、動画だと、問題とその解決策をより大きく見せることができるのです。

しっかりと企画を考えて動画を作り、人々に知ってもらえば、それが本当にやるべきことかどうかを実験することができるので、新規事業をやるうえではテストマーケティングをするよりも動画を作ったほうが早いということもあります。

ドキュメンタリストという仕事を広めたい

Q:社会の課題を伝えるうえでも動画は効果的ですね。

僕は、社会の課題を解決する企画と演出を、動画でアウトプットすることを前提に考えられる人のことを「ドキュメンタリスト」と定義していて、このドキュメンタリストという職業を広めていきたいなと思っています。動画でアウトプットするためには共感力が高くないといけないし、企画や演出能力も備えている必要があります。これからの時代の若者は当たり前のように動画に触れていくので、動画ができるのは当然として、そのうえでそれらの能力を高めてもらい、社会課題にも興味を持って動画でのアウトプットを前提にその解決法を考えられる人が増えていくとよいなと思っています。

Q:今後、ドキュメンタリストとしてどう活動していきたいか?

今後はドキュメンタリストとしての活動を少しずつ増やしていって、「こういう事業があればよいのではないか」というのを企業の皆さんと一緒に映像で表現していけるとよいなと思っています。おそらくそれが一番のコーポレートPRにもつながりますし、どこに予算をつぎこむべきかについても明確に分かりますので。

また、こういう活動をしていると最終的には「教育」につながるのですが、映像を使って社会の課題に貢献していくドキュメンタリストという職業になる人をすごく増やしていきたいし、育てていきたいですね。また、映像の持つ力を使うという意味では、ショートムービーを通じて人の教養を育てるといった活動もしていきたいですね。

まとめ

相手の心を動かすためには、ジブンゴト化してもらえるように、誰にでもできることを素材に使うことが大事。共感を得るためには、相手が自分で考えたり調べたりできる余地を与えてあげて、伝えすぎないことが大事。高島さんのお話には、ソーシャルグッドなメッセージ発信をする際にぜひとも心がけたいコミュニケーションのエッセンスが詰まっていた。

また、動画は現実よりも課題や解決策を大きく伝えられるのが強みで、だからこそ事業開発にも活用できる、という考え方も勉強になる。動画を単なるPRとして使うだけではなく新しい事業のフィジビリティとして活用することもできるのだ。

動画でのアウトプットを前提に社会課題の解決法を企画するドキュメンタリストという職業を世の中に浸透させていきたいという高島さん。お話をお伺いしていて強く印象に残ったのは、人の弱い部分やそれを乗り越えようともがく人間らしい姿に美しさを見出そうとする、その優しい眼差しだ。そんな高島さんだからこそ、人のこころにまっすぐ届く作品を作れるのだろう。

高島さんの考え方に共感し、ともに映像の力を扱って社会をもっとよくする事業を創っていきたいというNPOや企業の方は、ぜひコラボレーションをしてみてはいかだろうか。たった数分の動画が、自社と社会の未来を大きく変えるきっかけになるかもしれない。

【参照サイト】note「人は、勇気を出す瞬間が美しい。」高島太士