もし、明日故郷が消えたら?パタゴニアが描く「気候難民」ドキュメンタリー

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気候変動によって国内移住者が発生するという話に、リアリティを感じるだろうか。

世界銀行の2021年の報告によると、気候変動の影響により、2050年までに2億1,600万人が自国内での移住を余儀なくされる可能性があるという(※1)。水不足、作物の生産性の減少、海面上昇などの理由で、人が移動せざるを得なくなるのだ。

住み続けることが困難になるほど、地域の環境が悪化する様子を眺める住民は、どのような気持ちを抱えているのか。そして、コミュニティ全体が移住することがいかに難しいか。そのことを学べるのが、アウトドア衣料品メーカーのパタゴニアが制作した、約100分のドキュメンタリー映像「Newtok」だ。

作品で取り上げているのは、永久凍土の融解と浸食が原因で2019年に国内移住を開始した、米アラスカ州ニュートック村の住民だ。気候変動による移住は、アメリカではこれまでほとんど例がない。人類に危機が迫っていることを、強く認識させられる出来事だ。

同村が、土地が消えていくことに危機感を抱き、村ごと移転することを決めたのは1996年。しかし、政府からの資金協力がなかなか得られず、待っている間にも土地が消え続けた。Newtokは、2016年から2019年にかけての村の日常を映している。

村に暮らすのは、ユピックと呼ばれる先住民族だ。彼らは狩猟をしたり、果物を摘んだり、子どもを育てたり、学校に行ったりして、一見穏やかな日常を送るが、その合間合間に、土地をめぐる不安な様子が挟み込まれる。

巻尺で土地の広さを調べて「これだけ土地がなくなった」とため息をついたり、嵐が来そうだと分かって「またこれだけ土地がなくなる」と頭を抱えたりする様子が印象的だ。

終盤では、マータービックという場所への移住が何とか始まり、明るい未来を予感させる部分もあるが、2019年に移住できたのはコミュニティのわずか3分の1。住民たちは2022年現在も、コミュニティ全体が移住できるよう働きかけを進めており、問題は完全には解決されていない。

さらに憂慮すべきなのは、気候変動による移住を迫られる村は、ニュートック村以外にも多くあると予想されていることだ。弁護士のマイク・ワレリ氏は、作品中で次のように語る。

「奇妙に聞こえるかもしれないが、ニュートック村が”ラッキー”なのは、気候変動で土地が崩壊すると見込まれている最初の村であることだ。しかし、アラスカにはこの他にも、今後20年で崩壊すると言われている村が37もある。政府は、こういった問題をすべて解決するための資金を出せるのだろうか。誰が支援を受けられるかをめぐって、大きな争いが起きるだろう。」

ニュートック村の人口は、約380人だ。その数十万倍の人数が移住する状況がどのようなものか、Newtokを見ると想像がつきやすくなるのではないだろうか。

▶︎ 本編はこちら(YouTube)

※1 Groundswell Report
【参照サイト】Newtok – Patagonia
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