2019年10月末、アメリカのファストファッションブランド、FOREVER 21が日本から撤退したことを皮切りに、ファストファッションが次々と撤退を迫られている。そんな中、逆にミレニアルやZ世代の消費者を中心に盛り上がりを見せているのが「エシカルファッション」だ。しかし、いざ人や環境に配慮されたサステナブルな服を買いたいと思っても、高額でなかなか手を出せない、自分に合ったデザインやブランドが見つけられないといった経験を持つ方も多いのではないだろうか?
そんなファッション業界の現状を変え、エシカルファッションをより多くの人々にとって身近な存在にしたいと立ち上がったブランドが、「Enter the E」だ。Enter the Eは、人や環境に配慮し、デザイン・品質・経済性を兼ね揃えた服を世界中からキュレートし、日本向けに販売しているアパレルブランドで、人や環境配慮型のファッションが特別なことではなく、当たり前になる社会を構築することを目的に展開している。今回、Enter the Eを創業した植月友美さんにお話を伺った。
話者プロフィール:植月友美(うえつき・ともみ)
GEORGE BROWN COLLEGE(ジョージブラウンカレッジ)FASHION MANAGEMENT卒。
18歳からファッション業界に入り古着のバイヤーなど経験。グローバルビジネスを学ぶため渡加、渡米。COLLEGE卒業後 NYで就労を経験、帰国後12年間日本の大手小売企業で店舗運営、バイイング、商品企画、事業開発、マーケティングなど担当。2009年、杜撰なファッション業界の環境破壊を目の当たりにし、人や地球に迷惑をかけずに洋服を楽しめる社会をつくること決意。人生をかけて、「地球と人が服を楽しめる社会の両立」実現を挑む。2019年ジャパンソーシャルビジネスサミット 審査員特別賞受賞。2019年ビジネスで社会問題を解決する集団、株式会社ボーダーレスジャパンにジョイン。
失敗をへて辿り着いた「自産自着」
Q. アパレル業界に興味を持ったきっかけは?
洋裁が得意な母がよく手作りで洋服を作ってくれていて、幼稚園時代から自分で洋服を選んだり、当時大学生の叔母が読んでいる雑誌を読んだりしていました。母や姉の服や帽子を組み合わせてアレンジしていたことから創意工夫が生まれ、古着が流行った90年代頃からアパレルにのめり込みました。古着屋の会社で働き始めた時、初めて壮大な廃棄された服の山をみて宝の山のように感じ、それらをまた着られるように蘇らせることにすごくやりがいを持って働いていました。その後も海外のことも知りたいと留学もしつつ、ずっとアパレル関係に携わっていました。
Q. サステナブルファッションに関心を持ち始めたのは?
実は私、服を買う欲が抑えきれずに好きなだけ買い続けた結果、借金をしたことがあるのです。ファッションは自己表現できるものだから誰にも迷惑をかけずに楽しんでいたつもりだったけど、人様に迷惑をかけてしまった。それに気づいた時、何のために生きているかわからなくなり、「ファッションってなんなんだろう?」、「人生って何だろう?」と初めて自分のイズムを考えるきっかけになりました。考えた結果、自分のために生きるのではなく、誰かのために生きたいと思うようになりました。そして、そういう思いが実現できる商品って何だろうと「服 問題」と調べた時、服の製造過程や廃棄時には人や環境に悪影響なことをしている事実を初めて知りました。大量生産をするために綿がまだ青い時に収穫し、薬品を使って脱色させ、さらに新しく植えるために農薬を蒔いて、その薬品が農家さんの生活や健康状態にも悪影響があって・・・この事実を知った時には、人や地球にこんなに迷惑をかけていたんだって絶望的な気持ちでしたね。
Q. Enter the Eを立ち上げるまでの道のりは?
最初は、服の製造現場が身近にないから私たちは現状を知らないのだと思い、畑で棉から育て、自分で服を作る「自産自着ビジネス」を提案しましたが、一筋縄では行きませんでした。何度か新規事業コンテストに応募し入賞はしたものの受け入れられず、社会にリジェクトされた気分になり一度は諦めかけたこともありました。しばらく会社員として忙しくしていたら、震災をきっかけにソーシャルビジネスという単語が出て来始め、SDGsが出て来てソーシャルビジネスというワードも注目され、社会の考え方が変わってきたのを感じました。そしてあるイベントでボーダーレス・ジャパンを知り、代表の田口さんの話を聞いてスイッチが入りました。今ならできると思い、長年働いていた会社を退職しました。
ボーダーレス・ジャパンに参画し、試行錯誤した結果、今まで持っていた自産自着のアイディアは変えることにしたんです。「自産自着を体験した人たちはその後、サステナブルな服をたくさん買うようになるの?」と聞かれた時、日本にはサステナブルブランド自体が指で数える程しかないことに気がついたのです。日本と世界の現状を調べてみると、ヨーロッパでは10年前と比べてサステナブルブランドが700社くらいに増えていたのに比べ、日本はかなり遅れていることがわかりました。この現状だと服作りの体験を提供しても意味がないので、まずは選択肢を増やすことにしようと決断しました。
サステナブルファッションの裾野を広げるうえで大事なのは、選択肢を増やすこと
消費者のみなさんが求めてるものって服のテイストの幅だったり、価格の幅やシーンだったり様々だと思うんです。日本にあるサステナブルブランドはどんなものか調べてみたら、フェメニンなものかスポーティーなものしかないことがわかりました。いわゆるビジネスシーンで着られるようなクールなものが少ない。しかも価格は2, 3万円代が多く、確かに10年ほど着れるかもしれないけど、そんな値段で買える人たちはそんなにいませんよね。このように種類と価格が極端に限られていたので、まずはテイストの幅と価格帯を広げ、サステナブルな服の選択肢を増やそうと思いました。それがEnter the Eの最初の役割です。
Q. 持続可能な服選びで意識していることは?
100%サステナブルなブランドはまだありません。ただ、それを目指しているブランドは実際に多いのが現状です。ストイックなブランドから、まだ出始めのブランドも含め、サステナブルなブランドであれば応援したいと思ってます。選択肢を増やすという目的を軸に選び、今は9割くらいが日本未上陸のブランドで、基本的に選定基準は素材や取引方法、製造過程に関連した8つの項目があり、その中のいくつかが当てはまるものを選定しています。また、これらの基準の他にアフォーダブルであることと、ファッショナブルであることがとても重要だと思っています。
選定基準
・天然素材
・有機素材
・リサイクル素材
・生産余剰素材
・公正取引
・経済権限の付与
・伝統の職人技
・手作り
合わせて、サステナブルな服であるためには環境、経済、社会性の3つのバランスが大事だと考えています。つまり、環境にもよくお客様が求めやすい価格でもあり、生産者側にも十分支払われる仕組みで、真っ当な商品であることが重要です。環境ばかり考えたり、人に配慮しすぎたりすると価格が高額になり、結局売れない商品になってしまう。なのでこの3つのバランスが綺麗に保たれることが持続可能であることの鍵です。そういう商品が作れるように、私も直接作り手にフィードバックをするし、お客様の求められているものも伝える、中間翻訳機の役割も担っています。
エゴでもいいから、作り手のストーリーを伝えたい
Q. こだわって選んだものを消費者に伝えるための工夫
ターゲットとしては、まずはサステナブルやエシカル製品に興味や好印象を持っているけど、今までデザインや価格のために購入できなかった人たちに届けたいと考えています。そんな方達へEnter the Eの服を購入することによって起こる社会的インパクトを可視化させ、ストーリーや背景を知った上で購入してもらうための工夫をしています。
私は服を仕入れる際、直接現地へ会いに行き、人となりを見て判断しています。素敵な人は魅力的なんです。「あなたにとってサステナブルとはなんですか?」「なんで始めたのですか?」「消費者は何をすべきですか?」といった質問をして動画を取り、ポップアップイベントの際にトークイベントで映像を見てもらっています。
確かに、製造の背景や思いを伝えることは売り側のエゴとも捉えられますが、私は素敵なエゴだと思っています。生産者や販売者の魂や思いがわかれば人の心は動くので、きちんと背景となるストーリーや配慮、取り組みを知った上で服を買ってもらいたいんです。そうすれば、選んだ服に愛着を持ち、長く使ってくれると思っています。
他には、ポップアップイベントでは似合わせサービスも行なっています。多くの人が服を捨ててしまうのは似合わなくなった、もしくは自分に似合うかよく考えずに衝動で買ってしまったという理由が多いんです。まずは好きなものと似合うものが違うことを理解してもらい、無駄買いを減らすのと同時に新たなテイストを発見してもらう。そうすることによって無駄も減らせるし、長く大切に着てもらうことができます。
Q. 今後Enter the Eはどう展開していきたい?
2020年2月にも新宿・渋谷や銀座・有楽町エリアでポップアップイベントを開催予定です。今はオンラインやポップアップで販売してますが、いずれは年内に拠点を1つ作り、イベントやワークショップも継続的に行いたいですね。拠点を置く理由としては、服を購入する時に接客や試着が大事だと思っていて、直接コミュニケーションをとった上で自分に似合うか、継続して着れるかを吟味してから購入できるような場所を提供したいからです。3年目以降には選択肢を増やし、それでも足りないところを補いたいです。現状のやりたかはエネルギーを大量に使っているので、いずれは国内で生産したいとも考えています。そして将来的にはサステナブルファッションNo.1といえばEnter the Eといってもらえるよう目指しています。
Q. 読者へのメッセージをお願いします。
まずは、今自分が持っている服をできる限り長く着て欲しいです。そして服を新しく購入する際、自分にとって持続可能なのか、10年先も使いたい服なのか自問自答してみてください。あとは、最初の一歩として、10枚の中の1枚でもいいので長く着れて、環境にいいものを選んでいただけるといいなと思います。
取材後記
普段服を買う際は価格やデザインを見て、何気なく選んでいる場合が多い。しかし、生産者の人柄や服に込めた思いを知れば、その服に愛着を持ち、長く着続けることができる。サステナビリティを意識して作られた服を着るだけで、少しでも環境や社会に貢献できるのであれば、一つ買ってみたいと思えるきっかけになった。
「サステナブルな服の選択肢を増やしてから、自産自着の体験を通して物を大切にする心を養う機会を作り、環境に配慮する社会を実現したい。」そんなサステナブルファッション業界でNo. 1を目指す植月さんの挑戦を応援したい。
植月さん
【参照サイト】Enter the E