ジーンズからジーンズへ。land down underが投げかける循環ファッションの未来

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「循環するジーンズ」を提供するland down under。代表の池上慶行さんは、「廃棄物をなくす」さらにいえば「廃棄物という概念をなくす」ことを念頭に、ジーンズづくりと循環の仕組みの構築に励む。

今、コロナ禍でアパレル業界が苦境に陥る一方、サステナブルファッションが全盛期の時代を迎えようとしている。そんななか、何をもって「サステナブル」なのか。land down underは、その答えを見出すために歩みを進める。「『サーキュラーエコノミー』には、循環の「円」を実現するというわかりやすいゴールがあるため、この言葉を採用しています」と池上さんは語った。クラウドファンディングを通じて、ブランド立ち上げに奔走するその姿から、サーキュラーファッションが業界を持続可能にしていく未来が垣間見える。

「循環するジーンズ」が目指す仕組みとは?

land down underは、すべてのライフサイクルにおいて、一本のジーンズの価値を高めることを目指すブランドだ。「循環をまず描いて、その循環にジーンズという製品をのせていった」と語るように、まずは「小さい円」すなわちリペアやリメイク、再販などを通じて、一本のジーンズを「いかに長く使ってもらうか」に焦点を当てる。それでも使えなくなったものは、最終手段として「ジーンズからジーンズへ」生まれ変わらせる水平リサイクルへ。特定の段階のみに注力するのではなく、製品のゆりかごから墓場への道のりで「廃棄物が出ない」ジーンズを提供し、さらにリサイクルを通じてゆりかごへと循環させることが大きな目的だ。

循環する設計

どのようにそれが実現できるのか。ヒントはその設計にある。

まずは素材。ジーンズの耐久性と経年変化を楽しめるように、赤耳セルビッチ・デニム(14.5oz)」を導入した。織るのは広島県福山市にある生地メーカー、篠原テキスタイル株式会社だ。「生地の風合いや色落ちの味が出る生地は、古い織機でしか作り出せない。」池上さんは、「TOYOTA製旧式シャトル織機」という、50年以上前から使用されているいわゆる旧型の織機で織る同社の生地を採用した。ジャパンデニムとして注目されるデニムは、この織機で作られたものだという。旧型は1時間で2本を織ることができるが、最新型の織機はこの6倍ものスピードがあるそうだ。あえて旧型にこだわるのは、経年変化が味わえ、耐久性が高まるからだ。そのほか、この織機からでしか生まれないセルビッチという赤い耳を「表情」(池上さん)として楽しむことができる。

工夫は、生地にとどまらない。単一素材を目指して、ジーンズに使われる綿の割合を限りなく100%に近づけるように設計している。多くのジーンズには、耐久性を確保するため、ポリエステルを芯にして綿を表面にコーティングしたコア糸が使われている。「綿100%から綿100%に生まれ変わらせたいため、綿100%の糸を使う」ことに決めたという。これを可能にしたのが、創業100年以上の縫製会社である角南被服有限会社だ。綿だけでできた糸は、糸自体の経年変化を味わえるという利点もついてくる。

しかし、「尻ぐり」の部分に綿糸を使うことは難しい。16枚の生地が重なるため、製造過程ですぐに糸が切れてしまうからだ。工場の負担も大きくなることからこの部分のみコア糸を使うが、代わりにそのコア糸の色を黄色にしておく。これにより、リサイクル時に黄色のコア糸を抜くことで、易リサイクル性が向上するという。

次にジーンズの代名詞ともいえる金属リベット。「素材が複合化すればするほどリサイクルしにくくなるだけでなく、補強具としての機能性にも疑問が残ると判断したため、思い切って採用を見送りました。」それも「循環」が念頭にあるためだ。

一方、現時点での妥協点は金属製のタックダウン。段階を踏んで、取り外し可能あるいは再利用可能なタックダウンの採用を模索している。

B/C反が問いかけるもの

B反やC反とは、一定距離内に見つかった「キズ」のある生地のことを指す。キズが微細であるため、素人ではなかなか見つけることができない。たとえキズがあっても、生地は職人が手塩をかけてつくった価値のあるもの。一部は手芸品用に買い取られることがあるが、最終的にはそのほとんどが廃棄される運命にある。なぜなら、大量生産の仕組みでは、キズを避けて生地を使うと効率が悪くなるからだという。「循環を生み出すために新しい環境コストを生み出すのは矛盾があると思ったので、すでに廃棄される運命のB/C反を使うことにしました。」経年変化を楽しむジーンズには、むしろ個性として映る。

これまで使い道がなかったB/C反を利用することに、生地工場の反応は良い。縫製工場は当初、キズのない生地を使うことに慣れていたため、最初はキズのある箇所を避ける手間がかかるのではという認識があった。むしろ「キズのある箇所も含めて、全ての生地を使ってください」と、話し合いを重ね、理解を得た。

B/C反の発生原因をたどっていくと、私たち消費者にたどり着く。地域おこし協力隊として活躍していた池上さんは、「B/C反の発生リスクを負い、廃棄の負担をするのは工場側で、発注側やブランド側は負担をすることはありません。世の中ではサステナブルファッションが流行していますが、国内の生産地は、とても『サステナブル』だといえる状況にはないと、ずっとモヤモヤしていました。このギャップに対して、何かメッセージを発したい」という思いを持っていた。B/C反が発する問いかけは、現在の生産慣行と私たちの消費文化に対する問いかけでもある。

デザインへの影響はないのだろうか。「B/C反になった時期によって、色ブレが起こり、日焼け度合いなども変わります。あえて前後で違うロットの生地を使っているのですが、これを面白いと言ってくれる方もいます。何度か洗うと青みが増し、馴染んでいくのでほとんど気になりません」という。B/C反はジーンズとの相性が良い。

リサイクルへの挑戦

land down underの挑戦は始まったばかりだ。B/C反を使い続けることは真の解決策ではないと池上さんは認識する。次なる挑戦であるリサイクルジーンズの開発を大阪の紡績会社の新内外綿株式会社とともに取り組む。

「リサイクルコットン含有率の限界は、50%から60%といわれています。第1弾として提供するリサイクルジーンズのリサイクル率は、20%から30%になる予定です。まずは横糸だけリサイクルコットンが入った糸でジーンズを作ります。その後、ブランドの規模が大きくなれば縦糸にもリサイクルコットンを採用して、リサイクル率を50-60%に高めて、残りはオーガニックコットンを混ぜることなどを考えています」

リサイクルをするには、回収が鍵になる。現在は郵送でジーンズの回収を行っているが、今後サブスクリプションを開始し、郵送とサブスクリプションの回収率を比較・検証していく予定だ。

利用

利用段階でのサーキュラーエコノミーへのアプローチは、リペアやリメイク、PaaS(製品のサービス化)などがある。提携先を増やしながら、それらすべてにトライしていく。

さらに、いかに長く使ってもらうかという観点から、最適な利用方法もユーザーに提示する予定だ。履き方、お手入れの仕方、洗濯方法など、ユーザーに届けたい情報は多々あるという。このような情報発信の強化や、ユーザーとつながれるようなアプリなどのプラットフォーム開発にも取り組んでいく。

サーキュラーエコノミーの観点から

land down under自体がサーキュラーエコノミーを目指すアパレルブランドではあるが、サーキュラーエコノミーの3つの観点から改めておさらいをしたい。

製品ライフサイクルの全段階で価値を最大化

素材や回収に焦点が当たりがちであるファッションのサステナビリティ。今回ご紹介したのはland down underの取り組みの一部だが、これまで見てきたとおり、全てのライフサイクルにおいて、価値を最大化することに主眼が置かれる。

価値を最大化していくというのは、経済面からもいえるかもしれない。池上さんは、「新しい製品を作ることでお金が生まれると思ってしまいがちですが、仕組みさえできれば、まとまった量でリペアやリメイクの仕事が始まります。お金を発生させるポイントを分散させていくことが重要ではないでしょうか。循環が安定していけば、工場にお支払いする賃金を上げていくことにもなります」という。

「製品」と「仕組み」の設計が鍵

設計は、「製品」の設計だけではなく、循環する「仕組み」の設計も含まれる。製品の設計では、単一素材利用に近づけていくことや循環ができるような設計が施されている。さらに、風合いや経年変化を楽しめるようにもなっている。今後、製品自体の循環性を高めていくのは、池上さんから繰り返し強調された。

もう一方、仕組みの設計には、パートナーの存在が不可欠だ。地域おこし協力隊の活動時に、池上さんが自然と築いていたパートナーとの関係が今回の仕組み設計において重要な役割を担う。今後も、リペアやリメイク業者との関係を構築しながら、仕組みを整えていく。

既存の仕組みを活用

「真新しい技術を開発して提案しているわけではなく、今まである技術を組み合わせて循環を作っていくことが大切だと考えます。このブランドは、新しい技術を打ち出していくことに注力していません。今ある国産技術を使って、国内で(サイクルを)回していけることを証明することに関心があります」と言い切るように、もうすでにサーキュラーエコノミーが実現する環境は整いつつある。land down underはアパレルブランドでありながらも、それらの既存の国産技術を紡ぐプラットフォームとでもいえるのかもしれない。そのプラットフォームの上に、ジーンズが動いているというイメージだろうか。

「できていること」「できていないこと」を明確にし、次に進む

ジッパーや尻ぐりのコア糸利用など、技術的な観点から「できていないこと」もある。それらを課題として認識し、全てオープンにする。「できていないこと」で解決できるものは、目標達成時期も明確にすることも忘れない。その姿勢が共感を呼んでいる。クラウドファンディングでは、2週間でゴールを達成。次なる目標達成に挑む。「『自然環境に配慮』というレベルではなく、それを第一基準にしなければものをつくってはいけないくらい、差し迫った状況になってきています。世界のなかでもサステナブルな服が作れるのは日本だという状態に持っていくために、何ができるかを考えています」と語る池上さん。「循環するジーンズ」は、ファッションのあり方を変えるものになるかもしれない。

【参照サイト】land down under

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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