固定観念にとらわれない「わたし想い」なウェルネスを実現するショーツ

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昨年2019年に世界経済フォーラムが「Global Gender Gap Report 2020」を公表し、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数を発表した。この指数は、経済、政治、教育、健康の4つの分野のデータから作成され、2020年の日本の順位は153か国中121位であった。

その背景には女性が自分自身で人生を決断をする選択肢の少なさがあるのではないだろうか。女性には仕事、結婚や出産といった様々なライフプランの可能性があり、人生を選択するタイミングは多岐にわたっている。一方で、「女性はこうあるべき」という固定観念が未だ色濃く残っているのも事実だ。本当の意味で女性一人一人が活躍するには、従来の固定観念から抜け出し、自分自身の意思で人生を選択していくことが大切なのではないだろうか。

こうした女性にまつわる社会課題に対して、かねてより活動を展開している江連千佳(えづれちか)氏を中心にしたチームが、女性のウェルネスを実現するきっかけとして、女性の心と身体をいたわるショーツの開発を目指している。そのためのクラウドファンディングが2020年9月に開始された。

女性のウェルネスに寄り添うためのショーツ

おかえりショーツ

開発リーダーの江連千佳(えづれちか)氏は、高校生の頃ニュージーランドに留学して以来、ジェンダー問題に関心をもち、様々な活動をしてきた。 しかし、高校1年生の頃から徐々に体調を崩し始め、急性低音障害型感音性難聴、耳管開放症、うつ、子宮内膜症、子宮腺筋症などの病気を抱え、今でも治療を続けている。頑張りたいのに思うようにいかない身体に何度も嫌気がさすなか、江連氏は自身の経験する病気の多くが女性に特有の病気か、統計的に女性の有病率が高い病気であるということを知った。

そんな時に出会ったのが「ウェルネス」という考え方だった。ウェルネスとは、「前向きに生きようとする心」や「自分に適したライフスタイルの確立」など、より自発的な健康促進に重きを置く概念である。 ウェルネスのためには自分自身の身体を知り、心と向き合い、自分自身で選択できる環境にいる必要がある。

江連氏は、ウェルネスという言葉を知った当初、特に女性のウェルネスの実現はハードルが高いと感じたそうだ。例えば、子宮頸がんの20歳代の検診受診率はわずか26.5%であるといったデータからも、女性が自身の身体に向き合えていないことがわかる。結婚や出産と仕事との両立の難しさなど、知らないうちに固定観念に縛られていることも多いのではないだろうか。

woman

Image via Unsplash

その後、女性のウェルネスは自分だけではなく日本社会の問題であると考え、個人のTwitterアカウントからウェルネスについて発信を始めた。Twitterは半年で約4000人のフォロワーを獲得し、現在江連氏はウェルネスや性教育についてのライター活動も行っている。 さらに、発信だけでなくコミュニティづくりで女性のウェルネスに取り組もうと、学生団体苗ぷろ。を立ち上げた。女子大生の野菜摂取、性教育、ライフプランなど多岐にわたるテーマを取り扱い、活動の輪を広げている。

プロジェクトメンバー

そういった活動をする中で、女子大生だけでなく、もっと多くの人にウェルネスについて知ってもらいたいと思うようになった江連氏。ある時、婦人科で手にとった雑誌に「ピタッとしたショーツで炎症を起こす女性がいる」という記事を読んだことから、 なぜショーツはデリケートゾーンを圧迫する形なのか疑問を持ったそうだ。

調べていくと、西洋の「女性の身体を補正する」という概念からショーツの形ができ、日本人が履き始めたのは明治時代からであることを知った。いつの間にか当たり前になったショーツが、女性の身体に知らず知らずのうちにストレスを与えていたのだ。それならもっと身体に優しい形のショーツがあってもいいんじゃないか。そして、女性の身体に優しいショーツを販売することで、より多くの女性に自分の身体のことやウェルネスを阻む固定観念について知ってもらうことが出来るのではないか。そう思った江連氏は、2020年7月に「“おかえり”ショーツ」の開発を始めた。

おかえりショーツ2

実際に、20〜35歳女性にヒアリングを行ったところ、93%もの女性が下着に関する悩みを抱えていた。具体的に、黒ずみや生理中のムレ、肌荒れや締め付けなど、様々な悩みを抱えながらも、「アウターに響かない下着を選ぶ」など、多くの女性が他人の目線を気にしてショーツを選んでいることを知ったそうだ。そこから江連氏らは、社会の「当たり前」の声を優先し、自分自身の身体の声を無視してしまい、最もデリケートな部分に触れている下着においてベストな選択をできていないことに問題意識を持つようになった。

そうした問題意識から、足のつけ根やデリケートゾーンを締め付けないデザインにすることで、肌に食い込みにくく、デリケートゾーンの蒸れや黒ずみ、かゆみの悩みを解決しようと考えた。また、ゆったりしたデザインだからこそ、フリーサイズで体型の変化があっても使用し続けられるように工夫した。素材は伸縮性のある天竺ニットを使用しており、通気性が良い。デリケートゾーンに直接触れる部分は、化学薬品の影響を防ぐため、染色していないコットンを使用するなど、細部にまでこだわりが詰まっている。

全ての人が等身大で輝ける社会をつくりたい

今回、”おかえり”ショーツ開発チームのリーダーである江連千佳(えづれちか)氏に、お話を伺った。

Q. 「ウェルネス」という言葉自体聞き慣れない人も多いかもしれません。実際にこれまで苗ぷろ。にて発信や活動をする中で、どのような声がありましたか?

「ウェルネス」ってなんか聞いたことあるけど、なんのことかよく分からないって人の方が多いですよね。有名人がヨガやっているイメージというか(笑)健康や美への意識が高い人の使う言葉で、全ての人にとって重要な身近なものとは捉えられていない印象です。

だからこそ、苗ぷろ。では、ウェルネスを「10の視点から自分と向き合うこと」として、わかりやすく定義しました。

<苗ぷろ。ウェルネス10の視点>

  • 身体[日々を快適に過ごそう]
  • 心[感情に正直になろう]
  • 人生[人生のベースを創ろう]
  • 他者[自分の心地好い距離感を探そう]
  • お金[人生計画の実現可能性を考える]
  • 地球[環境のために出来ることをやろう]
  • 知的好奇心[学びで人生を豊かにしよう]
  • 好き[好きは全ての原動力]
  • 社会課題[社会とのつながりを知って踏み出そう]
  • 不調[心と身体のもやもやを晴らそう]
Q. プロダクトの開発にあたって、一番工夫した点は何ですか?

「わたし想いの“おかえりショーツ”」というコンセプトですね。ただのゆったりとしたショーツというだけでなく、「自分のために選択を」というメッセージを込めたものにしたくて、すごく悩みました。ショーツ本体は、綿で通気性の良い生地を選んだり、体調の変化に合わせられるようリボンでウェストを調節できるようにしたりと、工夫を凝らしています。今回のクラウドファンディング は「開発費」を集めていることからもわかるように、プロダクトの形自体はまだまだ開発途中です。リターンでショーツの販売もしていますが、ディテールに関しては、ご購入いただいた皆さんにアンケートを取りながら完成させていくので、私たち自身も完成形が楽しみです!

Q. プロダクトに、「わたし想い」や「おかえり」という言葉をつけた理由は何ですか?

「わたし想い」には自分の身体を想った選択をして欲しいという意味が込められています。また、「おかえり」というのは、「仕事から帰ってきた女性の、早く締め付けが強いストッキングや服を脱いでリラックスしたい欲求」というインサイトから発想し、「おかえり」という言葉で帰宅した後のリラックスタイムを連想するような安心感やあたたかさを表現しました。

Q. このプロダクトを通して、女性たちにどうなって欲しいと思いますか?

ショーツの形という小さな問題提起ではあるんですが、自分たちが知らないうちに固定観念に縛られていたことに気付いていただけたら嬉しいですね。 “おかえり” ショーツのコンセプトにも「わたし想い」という言葉を入れていますが、固定観念から解放され、自分自身にとってベストな選択をしていってほしいと思います。ショーツだけじゃなくて、日々の行動、もちろんライフイベントでも。

Q. 今後、プロダクト開発以外にやっていきたい活動はありますか?

“おかえり”ショーツを販売するだけでは終わりたくないですね。この“おかえり”ショーツを媒体にして、ウェルネスの輪をどんどん広げていきたいと思います。販売しているのは女性向けのプロダクトですが、ウェルネスという考え方は男性も共感する部分があるのではないでしょうか。今回のクラウドファンディングでも、実は男性からプレゼント用途での購入も多くいただいています。ターゲット層以外の方にもウェルネスに共感していただけているからこその結果だと思っています。“おかえり”ショーツをとっかかりに、自分の体や側にいる大切な人とのコミュニケーションを誘発できる購入体験を作り上げ、「全ての人が等身大で輝ける社会」をつくり上げていきたいですね。

インタビュー後記

女性のエンパワメントが注目されている昨今、何をもって「エンパワメント」なのか筆者自身疑問に思うことがある。ジェンダーギャップ指数をはじめとしたデータを見ると、男女に与えられた機会や境遇は平等ではない。もちろんジェンダー平等を達成することは重要ではあるが、数値的にジェンダー平等を目指すことが「エンパワメント」の本質なのだろうか。自分は何を必要としているのかを自分自身で選択できること、すなわち自分自身の心と身体の声を聞くことが何より大切なのではないだろうか。

このクラウドファンディングの一番の目的は、“おかえり”ショーツの資金集めではなく、性別問わずより多くの人に、「あなたの身体はあなたのもの。あなた自身を幸せにする選択をしよう。」というメッセージを贈ることだという。“おかえり”ショーツへの支援や拡散を通して、女性にまつわる固定観念から個人を少しずつ解放し、そのままの“わたし”で輝ける社会への流れを創り出したい。そんな江連さんの思いは、これからの「エンパワメント」に繋がるはずだ。

【クラウドファンディングページ】
女性のカラダに寄り添う【”おかえり”ショーツ】を頑張る女性に届けたい!
(募集:10月31日(土)まで)

Edited by Megumi Ito

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