“今だから欲しい”タンスへ。富山発、定額制でアップサイクル家具を貸し出す「yes」

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「タンスって価値があるものなのに、現代の生活様式に合ってない。だから僕はアートや、装飾としてのタンスを作ろうと思って」

富山県で起業し、100年前の古い家具の再生を行う伊藤昌徳さんはそう語った。伊藤さんが多くのアーティストと共に再生させたタンスはどれも洗練されており、洋室にも合うデザインとなっている。

アップサイクルされたタンスたち

これらのタンスを月額2,300円~で利用できるサブスクリプション(以下、サブスク)サービス「yes」が、2020年6月から始まった。日本の古い家具に価値がつかず、毎日捨てられている現状を打開すると同時に、高級なイメージを持つ家具へ気軽にアクセスできるようにすることで、人々の生活の質を上げるサービスだ。

古いものと新しいものを掛け合わせ、新たな価値を作り出す伊藤さんの想いに迫る。

話者プロフィール:伊藤昌徳(いとう まさのり)

伊藤さん株式会社家‘s代表。北海道出身。大学卒業後、IT・インターネット領域のベンチャー企業の幹部採用支援を行う、人材ベンチャー企業の創業期に参画し、役員も経験。2017年9月に富山県高岡市に移住し、株式会社家’sを創業。「古いモノ×新しいモノ=本当に新しいモノ」を体現するために古い家具やオブジェをアップサイクルする活動を行う。

デザインの力で捨てられる家具を救済

サブスクリプションサービスを始める前から、家具の再生事業を行っていた伊藤さん。いわく、タンスに目をつけたのは「たまたま」だという。東京から富山の古民家に移住し、多くの古い家財を捨てるうちに、家具の廃棄問題に目がとまったのだ。特にタンスは日本古来の家具だが、和室を持たない都市型の生活様式には合わず、地方の蔵に眠っていたり、代が変わるときに捨てられたりしている。

こうして時代を経たものをアップサイクルし、デザインの力で魅力を引き出す。伊藤さんが自身の家財廃棄を後悔しながらも立ち上げたのは、職人やアーティストの力で家具の価値を再定義する会社、家’s(イエス)だった。事業のことが地方メディアに載ってからは、かなりの反響があったそうだ。

以前富山の新聞に取り上げてもらったときに、70代~80代のおじいちゃん、おばあちゃんから電話が殺到して。100個ぐらい一気にタンスが集まったんですよ。タンスを代々使っていて、捨てるに捨てられない人や、資産を売却したい人、息子が東京に出て終活の準備をしたい人など、さまざまでした。そんな方々のニーズに応える形で、古いタンスを引き取らせてもらったんです。

タンスのアップサイクルの際に重視したのは、アート性だ。日本全国の6人のアーティストと連携し、白壁やコンクリート打ちっぱなしの建物にも合うようにリ・デザインした。和室以外にも思わず置きたくなるこれらの「作品」には、飲食店やホテルのロビーに置きたいという声が寄せられている。

yesで提供するタンス

yesで提供するタンス

伊藤さんがサブスクのサービスを始めたのは、これらのタンスを個人にも広く使ってもらうためであり、一度使ってデザインに飽きた後も捨てずに循環させるためだった。個人ユーザーの「高額な家具をいきなり買うのは難しい」「古い家具に興味はあるが、使ったことがないので不安」という声を拾い、月額制でレンタルできるシステムを作り出したのである。

サブスクによる家具循環のしくみ

サブスクサービス「yes」では、アップサイクルされた家具を月々2,300円~で借りることができる。日本の伝統文化を体験するために数か月だけ使ってみてもいいし、気に入ったら買い取ることも可能だ。古いものを日常に取り入れてみる、良いきっかけとなるだろう。

サブスク仕組み

ユーザーが使っている間に壊れたり、乾燥で割れたりすれば、家’sが再び引き取って修理をする。もともとが長い年月を経た家具なので、ある程度の劣化は当たり前だと考えているようだ。取っ手をひいたときにギィと軋むような音がすることもあるという。伊藤さんはたとえボロボロの状態で引き取ったタンスでも、極力無駄にせず使うという志を持っており、どうしてもタンスとして使えない場合は床材などに活用している。

また配送に関しては、現在は近場であれば伊藤さんが何度も使える布に包み、トラックに積んで運んでいる。直接一人ひとりのユーザーに会い、声を聞くことを大切にしているためだ。今後の課題として、いかに梱包材を減らして無駄なくスマートに運べるかを考えていきたいという。

「yes」のこれから

伊藤さん

地元の人が捨てるに捨てられない古びたタンスを引き取り、装飾として新たな価値を生み出し続ける伊藤さん。秋にはロンドンで個展が開かれるなど大活躍だが、一方で「時代に合わないものを販売する事業には、葛藤もある。」とも語っていた。

最近の住宅では、ウォークインクローゼットが流行っていますよね。まわりの友人もみんなAIやブロックチェーンなど最新のテクノロジーで課題解決をしている中で、あえて使い手が少ないタンス…… でも、使えば使うほど愛着がわいてくるんです。経年劣化して完璧じゃないのが今、逆にイイというか。今後は、ブロックチェーンで所有者同士のストーリーを共有するなど、さらなるイノベーションを起こしていけたらと思います。

今後、家’sは家具の再生にとどまらず、空間づくりの事業にも取り組んでいく予定だ。最近はあまり見かけなくなった「木彫りの熊」を、アーティストと協働でリメイクするRe-Bear Projectも始めた。

古くは嫁入り道具の一つとして使われたタンス。日本文化を象徴する家具の一つであり、金具や木材ひとつひとつに作り手の想いが詰まっている。これは、デザインを変えることで洗面台下の収納スペースや、化粧台、テレビ台に使うこともできる万能な家具なのだ。古い家具を廃棄する前に、何か使い道は無いだろうかと考えさせられる取材だった。最後に伊藤さんのメッセージを共有したい。

普段古いものに触れる機会が無くて、高級家具を扱うハードルも高いと思っているなら、ぜひサブスクで使ってみてほしいです。時代を経たものを愛おしく思えるかもしれないし、使ってみたら案外好きじゃないってことがわかるのかもしれない。試してみて、好きじゃないなと思ったら手放せばいい。僕らはまたそれを捨てずに、循環させます。


【参照サイト】yes

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