【イベントレポート】コロナショックで影響をうけた生産者のために、私たちができること

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世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。長期間に及んだ外出自粛要請の影響で打撃を受けた飲食店や農産物の生産者を救うために、消費者として何かできることはないか、考える方も多いのではないでしょうか。

そんな問いを皆様と考えるために、IDEAS FOR GOODは、Yahoo! JAPANが運営する「エールマーケット」と共同で、ゴールデンウィーク直前の2020年4月30日にオンラインイベント「コロナショックから生産者を救うために、私たち消費者ができること ~世界の取り組みに学ぶエシカル消費の可能性~」を緊急開催しました。

イベント前半では、世界各国に在住するIDEAS FOR GOODのライターの皆様と、日本国内の飲食店の皆様をお招きし、各国や飲食店の現場でのコロナウイルスの影響とそれに対する取り組みをシェアしていただきました。後半では、「エシカル消費」の観点から今私たちに何ができるかについて、参加者からの質問も交えながら議論を行いました。

イベントはZoomで開催され、同時にYouTubeでライブ配信されました。直前の告知にもかかわらず、当日は100名以上の方にご参加いただき、「コロナウイルス×エシカル消費」というテーマに対する関心の高まりが伺えました。

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本記事では、イベントの中から特に印象的だった部分をご紹介します。
(※記事の内容は、イベントを実施した2020年4月時点の情報です。)

飲食店は補助金やテイクアウトで持ちこたえている


飲食店を展開する植村昭雄さん(株式会社CAN代表取締役)と吉田慶さん(Tregion株式会社)からは、コロナウイルスによる外出自粛要請が直撃する飲食店の実態を伺いました。

植村さんは居酒屋とカフェを運営していますが、居酒屋は18時以降の営業停止により売上が前年比8割減、カフェは完全に営業停止しているため売上ゼロだといいます。

「売上が立たない中で従業員を守らなければならないので、融資を受けることにし、さらに3~4種類の補助金・助成金の申請準備をしています。短期的に少しでも利益を得るためにテイクアウトを行っていますが、居酒屋と弁当販売ではビジネス構造はまったく異なるので、長期間にわたってテイクアウトで売上を立てていくのは難しいと考えています」と植村さんは指摘します。

「それでは緊急事態が終わればよくなるかというと、それも厳しいと見込んでいます。大人数の宴会がすぐに再開するとは考えられず、今後も売上は前年の半分程度に留まると予測しています。ですので、中長期的には新しい対策を考えていく必要があり、物販の商品開発などを行っています。」

「生産者に関しても同じ状況で、タイを釣っても1匹2円にしかならないという話を聞きました。『物が売れない』『値段が下がっている』という状況の中で、どうすればよいか一生懸命考えながらやっている状況です。」

東京と東北で合わせて6店舗の飲食店を経営する吉田さんは、コロナ収束後に使える飲食券や年会費制の会員証をクラウドファンディングで販売したり、オンライン飲み会を行ったりと、新しい取り組みに取り組んでいます。

「コロナ以前からさまざまな変化が起きていましたが、コロナショックによって時代が加速したという感覚を持っています。我々もビジネス街に店舗を持っていますが、リモートワークやオンライン飲み会が普及し、感染症の不安もあるなかで、飲食店に来る人数は相当減るだろうと予測されます。実際にオンライン飲み会をやってみると楽しいんですよね。」

「ただ我々は、リアルの場で食を通して東北の魅力を伝え、そこで人と人の出会いが生まれるということを大切にやってきました。リアルの価値は変わっていくかもしれませんが、今後もあくまでそこを追求していこうという覚悟を持って飲食店をやっていきます。また、そういう思いで、コロナ収束後に使える飲食券を販売したりしています。未来のお客様がいるというのは、飲食店の希望になります。」

欧米各国での状況と、生産者を支援する新たな動き


日本以上に感染が広がっている欧米各国に在住するIDEAS FOR GOODのライターの皆様の話からは、ロックダウンの程度はさまざまとはいえ、いずれの国でも農業や飲食店が大打撃を受けている状況が明らかになりました。

西崎梢さんの住むオランダはアメリカに次ぐ農業大国ですが、中でもチューリップをはじめとする花き産業が大打撃を受けています。また、外国からの季節労働ができないため、農作物の収穫時期の人材が不足するという事態も発生しました。

鎌倉佑子さんの住むスペインでは、農業はコロナ感染拡大以前より大規模なストライキが行われるなど厳しい状況にあり、コロナショックでさらに追い打ちがかかっている状況だといいます。

また、COOKIEHEADさんの住むアメリカ・ニューヨークでは、3月以降急速に感染が拡大し、スーパー、薬局、金融機関などの必須業務以外禁止となりました。アメリカ全体で中小企業向けの補助金支給がスタートしましたが、本当に小規模のマイクロビジネスが申請を出す前に、補助金の予算が尽きてしまうという事態が生じました。マイクロビジネスに関わる方には移民も多く、言語の問題や文化の違いから情報が行き渡らなかった可能性もあり、移民の多いアメリカならではの問題が伺えます。

そういった状況のなか、生産者を支援する新たな動きも各地で生まれています。上述のオランダの農業人材の不足の問題に対しては「収穫手伝って」という名前のオンラインプラットフォームが立ち上がり、すぐに数千人以上の農業人材が集まったそうです。その他にも、オランダではさまざまな動きが生まれていると西崎さんは話します。

「『ショートチェーン』と『ローカルサポート』を合言葉に、消費者が地元の農家から直接買う動きが大きくなっています。直接購入できる地元農家をマッピング表示するサイトもありますし、オンラインで購入して農家にデリバリーしてもらうような仕組みも出てきました。その結果、オンラインだけでも売上が2~3倍に増え、生産者としても仲卸を挟まない分、収入が増え助かっているようです。また、別の事例として、出荷先のなくなった野菜や果物を発酵食品にして売ろうというプロジェクトも、アムステルダムで立ち上がっています。」


スペインでも同様に、農家から個人が直接購入する動きが広がっています。同時に、感染状況が落ち着きつつあり飲食店の再開の目途も立つ中で、新たなサービスも出てきていると鎌倉さんは話します。

「コロナウイルスによるロックダウンが明けて、飲食店を再開するときに、どういったことが必要かを支援するコンサルティングサービスや、スタッフのトレーニングのサービスを提供する法人も出てきています。感染拡大の収まりによって少し気持ちに余裕が出てきたことにより、止まってしまった経済や困っている個人事業主をどう支えていくかという議論が、政府レベルでも個人のレベルでも始まっています。」

アメリカ・ニューヨークでは、州政府が主導する酪農家支援の取り組みが決定したと、COOKIEHEADさんは話します。

「ニューヨーク州はマンハッタンのイメージが強いですが、実は大きい州で、郊外にはたくさんの牧場や農場があります。牧場では、コロナの状況でも毎日牛の搾乳をしなくてはならず、余った牛乳は捨てられています。一方で、都市部には今、貧困に悩む人たち、失業者がたくさんいます。そこで、州政府が余った牛乳を買い取り、フードバンクに寄付して、こういった人たちに届けるという取り組みが行われることが決まりました。ニューヨーク発の乳製品を作る会社もこのプログラムに参加し、州が買い取った牛乳の一部を乳製品に加工し、寄付を行います。このような、州の中で余っているものを足りないところへという動きが、他の産業でもできないか話し合われています。」

エシカル消費のキーワードは「つながり」

飲食店の状況や各国での支援の事例を踏まえ、私たちが今できることは何でしょうか。イベントでの議論では、「つながり」がキーワードとして見えてきました。テイクアウトやデリバリーの利用、店主催のオンライン飲み会への参加などにより、従来のつながりを生かす動きと同時に、今の状況をきっかけとした新たなつながりも生まれています。

植村さんは、東京都足立区で栽培されている給食食材の「あだち菜」の事例を紹介しました。「私のいる足立区では、地元産のあだち菜が、学校給食の中止によって大量に余ってしまいました。そのときに、地元スーパーや居酒屋などで販売することによって、足立区の中で消費しようという動きが出てきました。私の店でも、あだち菜パスタやあだち菜うどんを作って、サポートしていこうとしています。足立区は実は農業が盛んですので、これを機に地産地消が進むことを期待しています。」

また、吉田さんは、オンライン飲み会をすることで普段なかなかお店に来てもらうことのできない遠方の人とつながることができるようになったといいます。「お店では、例えば沖縄の人にはなかなか会えませんが、オンライン飲み会をすることですごく距離が近くなりました。そういった点では、オンライン飲み会もすごく意味があるなと。今後は、福島の焼酎とおつまみを事前販売して、皆で一緒に飲み食いするというイベントを企画したりしています」

日本在住のIDEAS FOR GOODライターでエシカル消費コーディネーターの有川 真理子さんは、ITを軸に消費者と事業者が主体的に支え合う動きが急速に進んでいると指摘します。

「コロナの状況をきっかけに、これまでは変われないと思っていたことが、どんどん変わってきています。例えば、農家と漁業、生産者と小売事業者、生産者と消費者などが直接つながり、これまでのボーダーを越える取り組みが日々起こっています。」

「そのなかで、事業者にとってもエシカルを意識することは強みになります。厳しい状況下でエシカル、サステナブルといったことに取り組む余裕はないと思われるかもしれませんが、今こそエシカルを意識し、消費者とのつながりや強固なコミュニティを作っていくことが重要になるのではないでしょうか。」

また、吉田さんは「生産者側は、消費者の方の『応援したい』という気持ちの出口をできるだけ用意したい」と話します。「必ずしも対応できる店ばかりではないと思いますが、現在の補償や融資の制度だけでは苦しい飲食店がほとんどです。飲食店側はテイクアウトやデリバリーを用意したり、クラウドファンディングを行ったりして、常連のお客様にはそれを購入いただくということが支えになります。」

エシカル消費を通じてお互いに支え合う

イベントを通して、コロナショックによる厳しい状況も明らかになりつつも、生産者と消費者のさまざまなつながりを強くしていくことでの新たな可能性も見えてきました。

消費者としては、つながりのある生産者をさまざまな形で支援していくこと、この状況をきっかけに新たなつながりを見つけていくことが生産者を救うことにつながっていくのではないでしょうか。今後、エシカル消費はより盛んになっていく、そんな期待が膨らむ時間となりました。

エールマーケットとIDEAS FOR GOODは、今後も「エシカル消費」をテーマに据えながら、コロナにより影響を受けている生産者の方々を支える方法をともに模索していきます。

【イベント内容はYouTubeで視聴いただけます】

イベントにご参加いただいた皆様

植村 昭雄さん(株式会社CAN代表取締役)

教育事業と整骨・鍼灸(しんきゅう)事業(7院)を経営していたが、東日本大震災を契機に、メディア事業(足立経済新聞、インターネット放送局Cwave)と飲食事業(東北うまいもの酒場プエドバル、東北カフェPOSSO)をスタート。また、ラオスの女性障がい者を雇用し、アクセサリー(千寿てまり工房)の製造販売も行う。

吉田 慶さん(Tregion株式会社)

東日本大震災を機にボランティアに参加し、復興支援団体で働く。しかし、相次ぐ支援団体の撤退を目の当たりにして「復興文脈」ではなく「ビジネス」で東北と関わり続けることを決意、飲食店を開業した。現在は、東京に3店舗、東北に3店舗の合計6店舗の飲食店の他、東北各地の地域PR事業を展開している。

西崎 梢さん(IDEAS FOR GOODライター/ オランダ・アムステルダム在住)

オランダ在住サステナビリティ・スペシャリスト兼ライター。旅行、ワイン、海、太陽をこよなく愛す。得意なテーマはサーキュラーエコノミー、女性エンパワメント、インクルージョン&ダイバーシティ。地球に優しくみんなに優しい社会のヒントを探します。

COOKIEHEADさん(IDEAS FOR GOODライター / アメリカ・ニューヨーク在住)

ロンドン経由東京育ち、2013年よりニューヨークのブルックリン在住。Parsons でファッション・マーケティングを専攻後、ラグジュアリー・ファッションの世界で働く。ファッション、ビューティ、ライフスタイルにおける「好きなものは好き」と「自分にできるサステナビリティ」の実現が人生のテーマ。 ヴィーガン。

鎌倉 佑子さん(IDEAS FOR GOODライター/ スペイン・バルセロナ在住)

世界5大陸35カ国以上へ渡航し、イギリスとアメリカで留学&勤務。現在はスペインで、スペイン発の「からだや環境に良いプロダクト」を発信するオンラインショップを立ち上げ中。ピラティスとヤムナが日課。メーカー勤務。

有川 真理子さん(IDEAS FOR GOODライター / エシカル消費コーディネーター)

環境NGOやオーガニックの食品会社を通じて、グリーン購入やエシカル消費を推進する事業を多数コーディネート。消費から持続可能な社会をつくる市民ネットワークの「企業のエシカル通信簿」プロジェクトに参加する他、2019年からコミュニケーションを通じてサステナブルな世界をつくる「SWAVE」を立ち上げ、PRプランナーとしても活動する。

司会

小玉 弘子(ヤフー株式会社/エールマーケット サービスマネージャー)

2007年1月Yahoo!ショッピング企画職として入社。さまざまなカテゴリを担当後、モバイル/スマートフォンリーダー、プロジェクトマネージャーとして活躍。同時期に、全社横断スマートフォンプロジェクトにも兼務。2013年10月からリスクマネジメント室にて、全社ERMをプロジェクトマネージャーとして立ち上げ。その後、東日本大震災の販路支援のために立ち上がった復興デパートメントを担当。サービスマネージャーに就任後、2018年10月復興支援含むエシカル消費をテーマに、今現在のエールマーケットにリニューアル。前職からコマース暦は10年以上、消費者目線のサービスを根本から考えるサービスづくりを実装中。

加藤 佑(IDEAS FOR GOOD 編集長 / ハーチ株式会社 代表取締役)

1985年生まれ、大学卒業後、大手人材サービス会社を経て、サステナビリティ専門メディアの立ち上げ、大企業向けCSRコンテンツの制作などに従事。2015年12月に Harch Inc. を創業。翌年12月、世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」を創刊。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格保持者。

共同企画Partner

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ヤフージャパンが東日本大震災後、東北の商品を揃えてネットで販売を始めた「復興デパートメント」。今は「エールマーケット」と名前を変え、全国の商品を取り扱っています。自然環境や人、地域に優しい社会を応援(エール)する、本当にこだわった商品を販売するモールです。

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