「私たちは、設立当初から愛情を込めて一つ一つバッグを扱ってきました。なので、売って終わり、そしてケアして終わりという仕組みを、どうしても止めたかったのです。」
そう話すのは、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念としている株式会社マザーハウス代表取締役の山口絵理子さん。
同社は2006年の設立以降、バングラデシュをはじめ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマーの計6か国で、それぞれの国の素材や文化を活かして、途上国の可能性をモノづくりを通じて世界に届けている。そんなマザーハウスが2020年7月22日、新たなプロジェクト「SOCIAL VINTAGE(ソーシャルビンテージ)」と「RINNE(リンネ)」を発表し、オンラインプレス会を開催した。
⼀度⽣み出した商品を、ただお客様の手に渡して終わりにしない。使われなくなった商品を回収し、その先にまた新たな商品としての価値を⽣み出すことが、作り手の責任であると考えて生まれたのが、今回のプロジェクトだ。
代表取締役副社長の山崎大祐さんは、今回のプロジェクトに対して次のように語る。「これは、僕たちにとっても非常に重要なプロジェクトです。世界的にコロナが広がっている中で私たちの生産工場の中でも、稼働できなくなってしまったところもありました。僕たちはモノを作ってきた会社です。モノづくりで僕たちに何ができるだろう?そして、循環型社会をつくるために、お客さまとつながり続けてきた私たちだからこそできることは何だろう?──そう考え続けてうまれたのが、今回のプロジェクトです。」
モノを生み出すだけではなく、終わり方までデザインする「SOCIAL VINTAGE」
今回マザーハウスが始めたのは、製品購入後の3つのトータルサービス「SOCIAL VINTAGE(ソーシャルビンテージ)」だ。具体的には、バッグをきれいに使い続けるために必要な「ケア」、経年劣化で発生するほつれや破れを、マザーハウスとパートナーシップを組む修理工房で修理する「修理」、そして使われなくなったマザーハウスのレザーバッグの「回収」である。
これまでも同社ではケアと修理に力を入れていたが、今回の新たな挑戦であるのが、この中の「回収」だ。お客さまから回収されたバッグは工場で解体され、その革を再利用して新たなシリーズ「RINNE」の商品に生まれ変わる。回収に協力すると、ソーシャルポイントカードに通常の買い物に使えるポイント1,500円分が還元され、別途1,000円分を途上国の公衆衛生対策に寄付できる仕組みだ。
「VINTAGE(ビンテージ)はモノを長く使うという意味です。SOCIAL(ソーシャル)をつけることによって、社会との循環、社会とのつながりを表します。」と、山崎さんはSOCIAL VINTAGEのサービス名への想いを語った。
新しいモノを置くために古いモノに息吹を吹き込む「RINNE」
SOCIAL VINTAGEで回収されたレザーバッグで作られた新プロダクト「RINNE」。RINNEの名前は、「輪廻」「循環」を意味する。回収してリメイクをする作業は、そもそも作り手がいないと解体するのが難しいため、難易度が高いという。そんな中で、「修理をしてくれている方々だったら可能なのではないか?」と、これまでマザーハウスのバッグの修理を手掛けていた日本の工場とタッグを組んで作られたのが、今回のRINNEのバッグだ。
マザーハウスの代表でありチーフデザイナーでもある山口さんが今回目標としたのは、お客様に届けやすい価格で、同社に今までなかったような新しい息吹を感じるデザインだったという。RINNEは二色以上の革が使われた鮮やかなデザインに仕上がっており、回収された商品からこんなにもユニークなデザインのバッグを作ることができるのだと証明している。
「サステナブルやリメイクと言わなくても、お客様に買いたいと思ってもらえる商品なのか、自分の中で何度も自問自答を繰り返しました。RINNEがマザーハウスの中で、ヒット商品に入ることが目標です。」(山口さん)
お客様とのコミュニケーションを大切にしてきたマザーハウスだからこそできること
山口さんは、今回のプロジェクトのきっかけを次のように語る。「マザーハウスの商品を何十個も持っているお客様がいて、『新しいモノが欲しいけれど、クローゼットがもういっぱいです』という声をイベントでいただいたんです。そしてマザーハウスは、お客様のそうした気持ちにも寄り添えるブランドでありたいと思いました。コロナ禍で、私たちにできることはケアだけなのかな?と悩み、新しいモノを提案するのではなく、今すでにある素材を蘇らせ、息吹を吹き込むことがお客様に必要なのでは?と思い立ち、回収を始めました。」
「回収するバッグの中には必ずと言っていいほど、お客様の想いが込められた手紙が入っていて、お客様が商品と共に歩んできた思い出や、バッグに対する愛情をたっぷりと感じたんです。商品への愛情をお客様からバトンタッチされた気分で、デザインへのやる気に満ち溢れました。」
山崎さんは、「正直、やってみないとわからない。解体にはコストの負担も大きいです。でも、やってみたら思った以上にモノが集まってきているので、期待は大きい。」と、オンラインプレス会を締め括った。
新型コロナの影響で海外でのモノづくりが難しくなったとしても「自分たちに今できることは何か」をひたすら考え抜いて生まれたこの新しいプロジェクト。商品を回収するためには、売った後もお客様と長くつながり続ける必要がある。今回のSOCIAL VINTAGEとRINNEは、マザーハウスがこれまで愛情を込めて、大切に積み重ねてきたお客様とのコミュニケーションがあったからこそ、実現できた循環の仕組みなのではないだろうか。
【関連記事】 山崎大祐さんに学ぶ、「Being」を大切にするこれからの生き方【世界サステナブルトークツアーレポ#5】
【参照サイト】 マザーハウス公式ホームページ