晴れの日も雨の日も、滞ることなく回収されるごみ。新型コロナウイルス感染症が拡大してもいつも通り回収され、感謝の念を覚えた人たちが「回収してくれてありがとう!」「身体に気をつけて」といったメッセージをごみ袋に書いている、といった報道も聞かれた。
そんな中、お笑いコンビ「マシンガンズ」のツッコミ担当であり、ごみ清掃員でもある滝沢秀一さんが、ごみ回収のリアルを描くエッセイまんが『ゴミ清掃員の日常 ミライ編』を出版した。
生計をたてるため、お笑いコンビを続けながらもごみ収集会社に就職した滝沢さん。日々感じたことをまとめた書籍『このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景(2018年)』を出版したところベストセラーに。その後、文字が苦手な人にもごみの問題を知って欲しいと思い、絵が得意な妻、滝沢友紀さんと共に『ゴミ清掃員の日常(2019年)』を出版している。
今回のミライ編はその続編で、家庭を持ちながら働くお父さんとしての日常ドラマを交えつつ、清掃員からみたごみ問題を伝えている。滝沢さんが出会った、驚くようなごみの数々やさまざまなごみの捨て方のエピソードに笑ったり、考えさせられたり、しんみりしたりする一冊だ。
ごみの大幅な削減は、SDGs(持続可能な開発目標)の定められた目標の一つでもあり、長年取り組まれてきた世界的課題と言える。そこで本記事では、改めてごみ清掃員の視点で考えた「いま」のごみ問題、そして解決のヒントについて滝沢さんにお話を伺った。
ごみ問題は、心のあり方の問題
国内で1人が1日に出すごみの量は、平均918g(※1)。不燃ごみを埋め立てるための最終処分場の数と容量は減り続けており、このままいけば日本全体の最終処分場の余年は約21年しか残っていない。学校ではリユース・リデュース・リサイクルの「3R」について学び、自治体の分別収集も増え、企業の取り組みも前進してきたように思えるが、それでもごみが減らない原因は何なのだろうか。
滝沢さん:いまの豊かな生活スタイルが当たり前と思っている人が多い。そのことが引き起こすさまざまな問題に気づいていないことが、ごみ問題の課題です。ごみを回収していると、ときどき「え?なんでこんなものが捨てられているの?」と驚かされることがあります。
エッセイまんがによると、高級メロンや箱に入った熨斗(のし)つきのゼリーセットが捨てられていることもあるという。「自分で買ったものだから、あとはどう処分しようと勝手でしょ、という心理なのかもしれません」と滝沢さんは続ける。モノにあふれた現代だからこその課題だろう。
一方で、滝沢さんは「モノが多いこと=幸せ」という価値観が変わってきたことも感じるという。
滝沢さん:僕が芸能界に入ったときは、ベンツに乗ってお抱え運転手をつけて、というのが夢でした。でも最近の若い芸人と話していると「車はシェアでいいじゃないですか」と言われるんです。こうした若い人たちの価値観の変化に、企業が気づくことも重要ですよね。最近発売された「ラベルレス」のペットボトルのように、よく知られた飲料であればラベルはいらないはず。つくる側の努力が、ごみを減らすことにつながります。
人は生きている限り、さまざまなモノが必要になる。モノは本来ごみではないが、その人がごみと思った瞬間にごみになる。まんがでも、一昨日もらった送別会の色紙がごみとして捨てられるシーンが出てくる。「ごみ問題は行きつくところ、人の心の問題。私たちの心のあり方が、ごみ問題としてあらわれているのではないかと思います」と滝沢さん。
インタビュー中、昔の人はモノを使えなくなるまで使い、捨てるときにも手を合わせて「ありがとう」とモノに声をかける習慣があったという話が出た。いま一度、そんな謙虚さを一人ひとりが思い起こすときが来ているのかもしれない。
気を付けるべき、ごみの出し方
ごみの量と共に課題となるのが、ごみの出し方だ。ペットボトルや紙類などが「燃えるごみ」として捨てられたり、ペットボトルのキャップやラベルが外されないまま捨てられたりする。ときにはスプレー缶が分別されておらず、清掃車で火災が発生してしまうことも。キャップやラベルを付けた状態で捨てられると、清掃工場に持ち込まれたあと手作業で外さなければならなくなるのだ。
滝沢さん:僕も清掃員になるまでは、キャップやラベル外しについてよく知りませんでした。やる時は1日8時間、ベルトコンベアが止まるまで外す作業をします。夏場はペットボトルのごみが多いので、それだけで残業してしまうほどです。
たかがキャップ。されどキャップ。本来は一人ひとりが気を付けていれば不要な作業なのだが、積もり積もれば誰かが残業をしなくてはいけないほどの作業量になる。滝沢さんがおすすめするのは、浄水ボトルだ。外出中に水がなくなっても、水道水を足して飲むことができるので、お金の節約とペットボトルごみの削減につながる。
また、興味深いことにごみの捨て方は地域ごとに似通うのだという。捨てる際に他の人のごみを見て、分別がされていなければ「これくらいでいいのか」と思い、分別されていれば「自分もきちんとしなくては」と思うのだろう、と滝沢さんは語る。だからこそ、積極的に「良い見本になっていく」ことが大切である。小さなことかもしれないが、きちんと分別をし、捨て方のルールを守ることがごみ清掃員さんに負担をかけず、環境も守る近道なのだ。
未来を変えていくために
滝沢さんの夢、それは「日本からごみをなくすこと」だ。この壮大な夢を実現していくために「今後さらに、Youtubeや歌、映画などを通じてごみ問題を伝えていければ」と野望を語った。また、今回ご紹介したまんがと同時に、『ゴミはボクらのたからもの』(幻冬舎)という絵本も出版している。
滝沢さん:未来を見るということは、いまを見ること。だから「いま」のごみ問題を広く伝え、私たちの未来を変えていきたいです。
今後も滝沢さんが清掃員目線で発信する「いま」に注目し、ごみのない未来をつくるためのヒントを見出していきたい。
※1 環境省 一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成30年度)
Edited by Kimika Tonuma