しなきゃ、なんてない。ブランドパーパスを体験する場としてのオウンドメディア「LIFULL STORIES」

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様々な社会課題が深刻化する昨今では、その解決主体として企業に対する期待がかつてないほどに高まっているが、いざ企業が素晴らしいビジョンやパーパスを掲げたとしても、それを社内外に浸透させていくのは想像以上に難しい。社会や一般消費者のその企業に対するイメージはすぐには変わらないのはもちろん、内部にいる社員に対してでさえも、方向性を理解してもらうことに苦労している企業は多いのではないだろうか。

そんな課題に対し、オウンドメディアを上手く活用しながら社内外に対してブランドパーパスの浸透を進めているのが、住まいや地方創生、介護などの事業を手掛ける株式会社LIFULLだ。2018年に「しなきゃ、なんてない。」をテーマにオウンドメディア「LIFULL STORIES」を立ち上げ、以来、既成概念に囚われない生き方をしている人のインタビュー記事などを掲載する中で、今後LIFULLがどんな社会を目指しているのかというメッセージを発信し続けてきた。

多くの人から共感を得て、LIFULLのブランディングにつなげている「LIFULL STORIES」の強みはどこにあるのだろうか。「LIFULL STORIES」の戦略・運営を担うブランド戦略部の畠山大樹さんと、コミュニケーショングループの遠山佳子さんに、「LIFULL STORIES」の狙いや今後の方向性についてお話を伺った。

「企業イメージがないこと」が課題だった

LIFULLは、もともと住宅情報サービス「HOME’S」を展開する、「ネクスト」という名前の会社だった。2017年4月、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージのもと、社名をLIFULLに変更し、それまでバラバラに展開していた各サービスブランドの統合を行った。しかし社名変更当初は、何をする会社なのかイメージしてもらえないという状況が続いていたという。
あらゆるLIFEを、FULLに。
畠山さん:社名変更の宣言、およびコーポレートメッセージである「あらゆるLIFEを、FULLに。」を伝えるべく、CMなどでもコミュニケーションを行ないました。しかし、社名の認知度だけは上がったものの、どんな会社かという理解にはつながりませんでした。消費者や様々なステークホルダーの方と信頼・絆を作っていくためには、どのような企業か理解されるということが必要です。そこから、ブランドパーパスを定義する動きが始まりました。

ブランドパーパスを考える上では、一方的に発信するメッセージにするのではなく、むしろ世の中から見てLIFULLにどのような存在意義があるのかということが大事になります。そこで、LIFULLの歴史・背景を踏まえ、様々なステークホルダーの意見を聞きながら、議論して決めていきました。そこでできたのが、「手つかずの問題でも、視点を変えた発想で豊かさに変える。その結果として、あらゆる人が無限の可能性の中から自分の生きたいLIFEを実現できる社会へ。」というブランドパーパスです。

遠山さん:ブランドパーパスは決まりましたが、これは事業などを行う上での根幹となるものなので、社外により伝わりやすくするための言葉として、「しなきゃ、なんてない。」というメッセージが生まれました。ブランドパーパスにある「視点を変えた発想で」という言葉に含まれる「既成概念を越えていく」という要素が、「しなきゃ、なんてない。」という言葉に凝縮されています。

オウンドメディアは、ブランド体験を蓄積していける場所

その結果、「しなきゃ、なんてない。」というテーマのもと、「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」「定年で退職しなきゃ」など、人生の枠に囚われない生き方を応援するメディア「LIFULL STORIES」が生まれた。ブランドパーパスを体現するメッセージを伝える場として、なぜLIFULLはオウンドメディアを選択したのだろうか?

畠山さん:ブランドパーパスを体現するコミュニケーションを複数展開していく上で、IR(企業が株主や投資家向けに経営状態や財務状況、業績の実績・今後の見通しなどを広報する活動)という役割があるコーポレートサイトとは別に、パーパスに基づくすべてのブランドアクションのハブが必要でした。また自社でテーマを編集し、コンテンツを管理して運営していける点も考慮し、オウンドメディアが最適であると考えました。

「LIFULL STORIES」は、ブランドをより深く理解していただける場として位置付けています。これまでのインタビューを通して見えてくる多様な生き方や、LIFULLの様々な事業に携わる人の思いや企業姿勢、過去のイベントなどがすべて蓄積してたまっている場でもあります。その積み重ねがある意味、多様なLIFEを見せる「LIFULL」そのものであると言えますね。

LIFULL STORIES

株式会社LIFULLのオウンドメディア「LIFULL STORIES」。「しなきゃ、なんてない。」をメッセージに、社内外のインタビューを通して多様な生き方を提示している。

編集体制としては、単体の編集部のような形にはせず、ブランド戦略部とコミュニケーショングループと社内のデザイナーが一緒になり、クリエイティブまで管轄して作っています。そのため、ブランドの中長期的な戦略の部分から、それをいかにお客様に届けるかというコミュニケーションのところまで、一緒にやっていくことができます。この一貫性は、ブランドパーパスを体現するコミュニケーションを行う上ではかなり大事な要素なのではないかと思います。

多様な生き方を取り上げるために、取材対象は社内に限定しない

「LIFULL STORIES」では、社外の人を中心に取材して取り上げている。企業のオウンドメディアにもかかわらず、取材対象者を社員やステークホルダーに限定しないのには理由がある。

畠山さん:LIFULL社員に限定してしまうと生き方の選択肢がものすごく狭められてしまいますし、「あらゆる人」からの共感が得られません。そこで、あえて社内外問わず、いろいろな人の生き方を見せていくようにしています。ただ、誰でもいいのではなくて、ブランドパーパスに基づく選定基準をしっかり設定することで、LIFULLの意思や想いを伝える必要はあります。具体的には、既成概念に囚われない生き方をしている方、自分らしい生き方を選択をしている方に取材をしています。

また、インタビュー対象者が取り組んでいる既成概念や課題に対して、LIFULLがどんな取り組みをしているかということも、記事の中で同時に伝えています。その点で、LIFULLが関わっている領域からはあまり外れないようにはしていますね。

LIFULL STORIES

社員を取り上げることが、ブランドパーパスの社内浸透にもつながる

「LIFULL STORIES」を継続して運営してきていることで、社内でも良い効果を生んでいるという。

畠山さん:社員から、「この人に取材してみたら?」と提案を受けることもあるんですよ。社内でも「LIFULL STORIES」を通じて、ブランドパーパスの定義や「しなきゃ、なんてない。」というメッセージが社員に浸透している結果だと思います。

また、社員の取り組みを取材して取り上げた際には、取材対象者の社員から「取材を受けて話したことで、改めて企業の考えやパーパスを踏まえて、自分たちが何をしようとしているのか整理できてよかった」と感謝されました。自社の取り組みの目的や意義を改めて考える機会を作れているんだということは、自分にとっても新しい発見でした。

遠山さん:記事にはLIFULLとしての想いがまとまっているので、社員が社外の人にサービスを説明する際に、「LIFULL STORIES」の記事が名刺がわりになるという面もありますね。

畠山さん:LIFULLの社員は、新規事業ややりたいことに率先して取り組んだり、事業提案したりする人が多いんですよ。そういった、いろいろな取り組みをしているLIFULL社員にもスポットライトを当てられるし、名刺として使ってもらえます。それも「LIFULL STORIES」の存在価値の一つとなっています。
LIFULL STORIES

メッセージに共感してくれる人を増やしていきたい

「LIFULL STORIES」は、どんな人に読んでもらうことを想定しているのだろうか。

畠山さん:「しなきゃ」という既成概念で生き方が狭められていると感じている人、自分らしい生き方は諦めなきゃと思っている人に、「LIFULL STORIES」の記事を読んでもらいたいです。実際に、LGBTQや引きこもりについて検索した結果、「LIFULL STORIES」に来訪してくれている方も多いです。

LIFULLを詳しく知りたいと思って来てもらうのではなくて、「既成概念に囚われない」というテーマに興味を持って「LIFULL STORIES」に来てもらい、その中で初めて「LIFULLってこういうことやってるんだ、こういう会社なんだ」という理解につなげていく、という流れで考えています。

LIFULLは、どうしても「LIFULL HOME’Sの会社」というイメージが強いんですよ。でも、「LIFULL STORIES」では他の様々なサービスがあることを知ってもらえる。実際に、「LIFULL STORIES」に来てくれている人は、他にもいろいろな事業やテーマを扱っているということを知ってくれている人が多いです。

今後はさらに踏み込み、社外の方も巻き込んで社会を変えていくために、メッセージに共感して一緒に変えていこうと思ってくれる人にも読んでもらえるようにしていきたいと考えています。

「しなきゃ、なんてない。」のコミュニケーションキャンペーン

2019年9月からは、「しなきゃ、なんてない。」というメッセージをより社会に伝えていくためのコミュニケーションのキャンペーンを実施した。TVCMやツイッターでの投稿企画を通し、多くの人への発信を行いながら、これまでの「LIFULL STORIES」の記事に訪問してもらうことでメッセージをより深く理解してもらう、ということを狙ったという。

遠山さん:「しなきゃ、なんてない。」というメッセージを多くの人認知してもらうことを目的としたCMは、反響が大きくて、ブレーンの「読者が選ぶ広告グランプリ」でセカンドプライズの賞をいただくなど、大きな反響を得ることができました。同時に、ツイッターでは「#しなきゃなんてない」というハッシュタグで、いろんな人から声を集めるというキャンペーンを行いました。インフルエンサーの方や有名人の方にも「~~しなきゃ、なんてない」といったツイートをしていただき、それに反響する形でツイートを募集しました。
#しなきゃなんてない
TVCMを中心としたマス広告とツイッターでのキャンペーンでメッセージを発信しながら、「LIFULL STORIES」に訪問してもらい、既成概念やイシューに対してLIFULLはどんな取り組みをしているのかを知ってもらうという流れを作りました。具体的には、Webのバナー広告やFacebook広告を使って、これまでに取り上げた記事に誘導しました。その記事に興味を持ってくれそうな人に配信ターゲットを絞ったこともあり、かなり多くの人に記事を閲覧してもらうことができ、さらにサイト内の回遊率も高くなりました。

畠山さん:「LIFULL STORIES」がブランド体験を蓄積していける場としてあるからこそ、TVCMなどすべての導線を「LIFULL STORIES」につなぐ構造を作ることができ、課題であったブランド理解につなげることができたと考えています。

遠山さん:「LIFULL STORIES」の存在は、ブランドコミュニケーションのベースになっていますね。ここにさえ来てもらえればちゃんとメッセージを伝えることができるというサイトが一つあるというのは、コミュニケーション活動を進めていく上での安心材料となっています。

LIFULL STORIES

議論を通して、生き方や価値観を広げていく場へ

今後「LIFULL STORIES」は、既成概念や社会課題に対して問題提起し議論を生む場としての役割も目指していくという。

畠山さん:LIFULLのコーポレートメッセージのように「あらゆるLIFE」が「FULL」になる状態は、LIFULLが今後さまざまな社会課題を解決していくことで実現できます。社会課題は、既成概念から生まれている構造的な問題です。それを解決するためにどうしたらよいかということを、「LIFULL STORIES」の中で議論できるようにしていきたいですね。さまざまな議論が重なったうえで、どのような選択もありだと思うんです。LIFULLは一つの生き方や価値観のみを支援するのではなくて、これまでの生き方でも新しい生き方でもどちらもありで、選択肢が広がるのがいいと考えています。生き方や価値観を広げていけるようなメディア、みんなで一緒に新しい社会価値を作っていくようなメディアにしていきたいですね。

今、新型コロナウイルス流行をきっかけに、暮らしの価値観が変わりつつあります。働き方や住まいといったこれまでの暮らしにまつわる既成概念が崩れると、既成概念に囚われている生き方自体も変わっていきます。そういた価値観の変化やこれからの生き方についても「LIFULL STORIES」の中で扱っていきたいですね。

実際に、新型コロナウイルス流行の影響で生まれた価値観の変化の調査記事や、著名な方やインフルエンサーの方へのインタビュー、座談会、皆さんの暮らしの変化を教えてもらうツイッターの企画などを始めています。「LIFULL STORIES」の編集テーマにおいても、暮らしの価値観がどういうふうに変わったのかを念頭に置きながら、生き方の選択肢の広さをますます見せていきたいと考えています。

現在実施している「From MY HOME」のキャンペーン。https://media.lifull.com/campaign_2020061903/

LIFULL STORIES

ブランド戦略部の畠山さん(右)とコミュニケーショングループの遠山さん。

編集後記

さまざまな方のインタビューを通じて、「しなきゃ、なんてない。」というメッセージを発信し続けている「LIFULL STORIES」。多様な生き方を提示するために、取材対象を社内に限定せず、社外の人にも積極的に取材を行っているのが印象的だった。さらに、今後は読者を含めた様々な人に参加してもらい、議論の場にしていくことを考えているという。あらゆる視点を社内に限定せず、常に外からの視点や意見を取り込もうとしていると感じた。その姿勢は、ブランド移行の方法に悩む他企業の方にとっても参考になる点が多いのではないだろうか。

理想とする方向性を定めても、そのとおりに会社を変えていくのはすぐにできることではない。それならば、理想とするあり方をすでに体現している人に話を聞き、そのエッセンスを抽出することで、企業が目指す社会の輪郭を見出すことから始めてみる。ただ言葉だけで伝えるのではなく、インタビューを通じて示していくことで、社外だけでなく社内での理解も深まる。企業のコミュニケーションの新しいあり方になっていきそうだ。

LIFULL STORIES×IDEAS FOR GOOD

IDEAS FOR GOODは「LIFULL STORIES」の記事編集に協力しています。

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【参照サイト】LIFULL STORIES
【参照サイト】From MY HOMEキャンペーンサイト

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