2020年7月から日本全国のお店で始まった、レジ袋有料化。大手スーパーやコンビニなどでは、これまで無料だったレジ袋が2円~5円で販売されるようになりました。1か月以上経ってみるとさまざまな反響があり、今までもらっていたレジ袋をもらわなくなった人もいれば、便利さから使い続けている人もいます。また、有料化の効果に懐疑的な声、批判的な声も出ています。
欧州の多くのスーパーではレジ袋は有料ですし、国内の一部のスーパーでも有料でした。今回、政府がそれを全国で適用しよう、と踏み切ったのはなぜなのか。本記事では、レジ袋有料化の理由や背景をおさらいするとともに、今まさに出てきている課題や、有料化のこれからについてわかりやすく解説していきます。
レジ袋有料化の理由・背景は?
全国のレジ袋有料化の背景には、国際社会の脱石油、脱プラスチックへの流れがあります。2018年、主要国首脳会議(G7)により、各国が取り組んでいくプラスチックごみによる海洋汚染問題への対策をまとめた「海洋プラスチック憲章」が採択されました。
また、近年は欧州を中心に、ごみを出さないサーキュラーエコノミー (廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組み)を取り入れる企業、自治体が増えてきています。ペットボトルを例に挙げるなら、使った後に再利用する… というよりは、ペットボトル自体を出さないようにする動きが活発化しているのです。こうした流れの中では、レジ袋を使わないことは一般的になりつつあり、実際に世界69か国がプラスチック製の袋の使用を何らかの形で禁じています(※1)。
日本でも「SDGs(持続可能な開発目標)」を掲げる企業が増え、特に環境面では脱プラスチックに取り組んでいる企業が増えてきました。国際社会の動きから取り残されないよう、まずはレジ袋を有料化することによって、日本も脱プラスチックに向かっていることを示しているのです。経済産業省は、今回の取り組みについて以下のように説明しています。
プラスチックは、非常に便利な素材です。成形しやすく、軽くて丈夫で密閉性も高いため、製品の軽量化や食品ロスの削減など、あらゆる分野で私たちの生活に貢献しています。一方で、廃棄物・資源制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化などの課題もあります。私たちは、プラスチックの過剰な使用を抑制し、賢く利用していく必要があります。(経済産業省ウェブサイトより)
※1 ドイツの統計ポータル「Statista」より
目的は環境問題解決の「きっかけ」となること
今回の有料化のポイントとして、政府が強調しているのは、根本的に国内のプラスチックごみを大幅削減するというよりも、人々のライフスタイルを見直すきっかけとなることです。
普段何気なくもらっていたものが有料になることで、購入してまで欲しいかどうかを一旦立ち止まって考えるようになる。ひとりの人が消費するレジ袋が年間300億枚を超える日本で、まずは生活に身近で取り組みやすいレジ袋から見直し、よりごみを出さない生活を考える。
レジ袋有料化は、気候変動や海洋プラスチック問題などの解決に向けた「第一歩」と位置付けているということですね。
有料化の対象とならないレジ袋もある
経済産業省のウェブサイトによると、有料化の対象となったのは「プラスチック製買物袋を扱う小売業を営むすべての事業者」。スーパーマーケットやコンビニだけでなく、ドラッグストアや書店、洋服屋など私たちが日々の生活で利用するほとんどの店でレジ袋が有料になりました。
ただし、このようなお店が提供しているものでも、以下のような袋は有料化の対象になりません。
- 紙袋
- 布の袋
- 持ち手の付いていないプラスチック袋
また、環境性能が認められ、その旨の表示がある以下の3点も対象外となっています。
- プラスチックのフィルムの厚さが50マイクロメートル以上のもの(繰り返しつかえる)
- 海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの(微生物によって分解できる)
- バイオマス素材の配合率が25%以上のもの(温暖化対策に寄与する)
レジ袋の有料化の課題
今回のレジ袋の有料化には、さまざまな反論も出ています。ここでは主な三つの課題と、その解決のヒントをお伝えします。
エコバッグがエコではない?
レジ袋の代わりにエコバッグを持参するとしても、エコバッグ自体がプラスチック由来の素材でできていると、結局捨てるときは「プラごみ」になるのでは、という声があります。また、レジ袋とエコバッグの1枚あたりのCO2排出量を算出・比較した日本LCA学会の報告『環境配慮行動支援のためのレジ袋とマイバックのLCA』によると、買い物回数が50回未満の場合、レジ袋よりもエコバッグの方が環境負荷が大きいという調査結果も出ています(※2)。
そのため、エコバッグを選ぶときはポリエステルやナイロンなどの石油由来ではなく綿などの天然素材でできたエコバッグやふろしきを選び、それをできる限り長く使い続けることが重要だと言えます。また、一番よいのは新しいものを買わないことなので、すでに家にあるバッグがあるのであれば、素材に関わらずそれを使い続けるのがよいでしょう。
プラスチック製のごみ袋を、生活のために購入することになる
次に、レジ袋をもらわなくなっても結局ごみ袋を購入する需要が増えたら意味がない、という点について。レジ袋はよく伸びて密閉性もあるため、日々の生活で出るごみや犬の散歩時のエチケット袋として再利用していた方もいるかもしれません。レジ袋有料化後には、スーパーで無料配布されている半透明のポリ袋を大量に持ち帰る「ポリ袋ハンター」の存在も、多くのメディアで報道されています。
根本的な対策ではないかもしれませんが、最近では、サトウキビ等の素材でできた生分解性のごみ袋などが出てきています。栽培方法が明らかではない場合、生分解性だからといって必ずしも環境に優しいとは言いきれませんが、化石燃料由来ではないという点ではおすすめです。また、最近では事業者向けですが99%再生材でできたごみ袋「FUROSHIKI」も登場しました。ごみ袋は必然的にシングルユース(一度きりの使用)となってしまうため、バージン素材ではなく再生材からできているという点は意義があると言えます。
レジ袋削減の環境インパクトの少なさ
最後に、廃棄プラスチック問題について考えてみると、そもそもレジ袋がプラごみ全体の中で締める量はとても少ないことが挙げられます。環境省による海洋ごみの調査(※3)では、全国各地に漂着したプラスチックごみのうちレジ袋(ポリ袋)が占める割合はわずか0.3%しかなく、ペットボトル等の飲料用ボトル(12.7%)などと比較すると大変低いというデータが出ました。
また、経済産業省の委託調査によると、2017年度の素材別容器包装使用量(49万7538トン)のうち、プラスチック製の袋は8万1867トン、袋を除くプラスチック製の容器包装はその2倍以上の18万7447トンでした。レジ袋以外のプラスチックごみを減らす取り組みの強化の必要性がわかります。
他にも、包装資材メーカーの清水化学工業が「脱プラ、脱ポリ、紙袋へ 切り替えをご検討のお客様へ」という声明を出しています。ポリエチレンは石油精製の過程で自然と出るものなので、石油そのものの使用はなるべくしないほうが良いものの、すでに採掘してしまった以上は資源を有効活用したほうが良いという点など、あまり知られていないポリ袋の実情について詳しく説明しています。
とはいえ、廃棄プラスチックごみ問題全体へのインパクトが少ないからレジ袋の有料化には意味がない、というわけではありません。たとえ比率は低くてもプラスチックごみの削減には、しっかりとつながっています。また、世界的なプラスチックストローの禁止もそうですが、取り組みやすく消費者の目につきやすいものから有料化・禁止をしていくことが、私たちが問題に気づき、ライフスタイルを変えるきっかけになっていることは確かです。
レジ袋の有料化のこれから
さまざまな課題はあるものの、レジ袋の有料化は環境問題について考えるきっかけとなり、世界の大きな流れである脱石油・脱プラスチックに沿っている、という面から考えると意義深い取り組みです。実際、NHKの報道によると大手コンビニではレジ袋の辞退率が70%を超えたといいます(※4)。
筆者の経験では、以前はコンビニなどで「袋は要りません」と言うタイミングを逃し、気づいたら勝手に袋に入れられることがよくあり、それを断ったり、場合によっては諦めてもらうことにしたり…… というのが小さなストレスでしたが、今はそれがなくなり楽になりました。また、エコバッグは重い物を入れても破けにくく持ち運びがしやすいので、日々の買い物がより快適になりました。小さなことですが、レジ袋をたたんでキッチンの引き出しに入れる手間がなくなったのも嬉しいです。
小学5年生の娘は、学校の授業で3Rについて学ぶとき「リサイクル」よりも「リデュース」「リユース」が大事だと学んでいます。このレジ袋有料化は、大人が体験を通して「リデュース」「リユース」の意義を学ぶ機会となるかもしれません。今後は、より多くの人がプラスチック問題について知り、プラスチック削減の他の取り組みの後押しになっていくことを願っています。
※4 レジ袋の辞退率コンビニで70%超 一方ネット通販では購入増も
【参照サイト】経済産業省 – レジ袋削減にご協力ください!
【参照サイト】脱プラ、脱ポリ、紙袋へ 切り替えをご検討のお客様へ
Edited by Kimika Tonuma