ハチと聞くと、ミツを集める様子を思い浮かべる方が多いだろうか。ミツを求めて飛びまわる彼らは、送粉者や受粉媒介者と呼ばれ、植物の花粉交配を助ける重要な役割を担う。ハチをはじめとした、蝶や蛾、甲虫などの送粉者は、地域の自然を繁栄させる立役者となっている。
だが近年、送粉者の数は大幅に減少していると言われる。原因としては、生息地の喪失、害虫駆除剤・除草剤・殺菌剤などの農薬使用の増加、寄生虫や病原体の増加、気候変動が挙げられる。このようにハチなどの生態が脅かされることで、地域の生物多様性は弱体化し、自然環境の維持が難しくなっていく。
そんな状況に立ち向かうべく、2019年にアメリカのミネソタ州で、ある計画が発表された。ハチを中心とした送粉昆虫を地域に呼び戻し増やすための環境を整備するパイロットプログラム “Lawns to Legumes” である。
同プログラムは、地域住民の庭や家庭菜園で、ハチを中心とした送粉者を呼び戻す植物や作物の栽培を促すもの。参加する個人や世帯に補助金が付与されるほか、専門家によるワークショップ、コーチング、栽培手引きなども提供される(※1)。
取り組みのコンセプトは、「ハチのための庭」の実現だ。シロツメクサや、ヨウシュイブキジャコウソウ、ウツボグサ、グラウンドプラムやタンポポなどの植物や花で庭づくりを行う。これらの植物は、従来、除草剤などで除去されがちだが、実は地域の送粉昆虫に必要な栄養素を多く持っているのだ。ハチが人を刺すことを懸念する声もあるが、野生の種は、脅されない限り滅多に人を刺さないため、注意さえすれば安心して進めることができる。
また、このプログラムに参加できるのは、庭付きの一軒家の世帯だけではない。マンションやアパートに付属する庭やコミュニティガーデンなどの利用者が、共同でプログラムに参画できるのも特徴だ。
ミネソタは本来、450を超える種類の野生のハチの生息地。ミネソタ大学の研究によると、この地域では特にマルハナバチが欠かせない送粉者だ。同州では、かつて州内で広がっていたプレーリー(大平原)が、農地などの商業利用にあてられ縮小。他の地域と同様に、マルハナバチをはじめとした種の減少が見られている。そんな今、都市部や都市郊外部で、種を保護し増やしていく必要性が改めて訴えられているのだ。
類似する取り組みは、アメリカで最もハチの多様性が見られる土地の一つ、ユタ州でも検討されている。同州でも減少が懸念されているものの、法案はまだ可決されていない。野生種の一部は、実際に表に出て活動を始めるまで最長で7年ほど巣や土の中で眠っているという研究報告があるが、その生態を踏まえ、真にハチが住みやすい環境づくりのためには長期的な計画や潤沢な予算が必要なのだ。
地域環境における循環の大きな役割を担い、自然の繁栄の要となるハチやその他の昆虫たち。本来であればその土地に住んでいた彼らの減少が問題視される今、ハチたちにとって住みやすい場所を作り栄養を提供することは、私たちにとっても大切な自然を守ることにつながる。個人レベルから参画できるローカルな環境づくりに、今後さらに注目が集まるだろう。
※1 2020年春から開始する予定だったが、施行は一旦停止されている。
【関連サイト】“Lawns to Legumes: Your Yard can BEE the change”
【参照サイト】“Program to Pay Minnesota Homeowners to Let Their Lawn To to the Bee”
【参照サイト】“More Bees in the Beehive State? Utah Lawmaker Says a Pilot Program Could Boost Pollinator Populations”
【参照サイト】Planting for Pollinators
Edited by Tomoko Ito