スペイン北部・サンタンデールにある、使われなくなったたばこ工場が、ヨーロッパ最大の屋内垂直庭園へと生まれ変わった。
垂直庭園とは、高さのある建築物の階層や、傾斜面を用いて植物を育てる「垂直農法」を用いた庭園だ。都会の限られたスペースで農作物を生産できるため、食糧不足やフードマイレージ(食料輸送に伴うCO2排出量)解消として注目が集まっている。また、植物があまり見られない都市でも、緑の景観を作り出すことができる。
この旧たばこ工場を生まれ変わらせた垂直庭園の庭園内には、32種類に及ぶ植物がおよそ2万株植えられている。栽培される植物は屋内でも生存できるよう、太陽光学に基づいた緻密な計算のもと選ばれたものだ。手がけたのは、垂直庭園や都会の緑化を専門とする、スペイン・セビリア大学発のスタートアップ「Terapia Urbana」である。
自然光が届かない場所にも光が行き渡るよう、人工の光源が整備され、センサーで感知して太陽光を補う技術を導入。さらに、作物の根元だけに水を補給することで肥料分が流出するのを予防する「点滴潅漑(てんてきかんがい)システム」を導入し、最低限の水を効率よく使用している。
昨今の研究では、植物が私たち人間のストレスを解消し、メンタルヘルスを改善する力を持つことが明らかにされている。米ペンシルベニア大学がフィラデルフィアで行った比較実験を行ったところ、緑地区画の付近に住む住民の約41%は気分の落ち込みが減り、無気力状態は約50%削減されたという。
建築デザインを手掛けたルイス・フェルナンデス・デ・アルコ氏は同社の公式サイトで「パンデミックによって、身の回りの環境を改めて考えるようになりました。そうして私たちは、都会の景観が自然とのつながりを失っていることに気づいたのです。」と、人間には自然とのつながりが欠かせないことを語っている。
この垂直庭園は、カスティージャ・エルミダ市民センターとして、人々が集う場所になる予定だ。新型コロナのパンデミックが人々のメンタルに影響を及ぼしている今、都会に緑の景観を生み出す垂直庭園は、多くの人の心を和ませることになるだろう。
【参照サイト】 Terapia Urbana
Edited by Erika Tomiyama