垂直農業とは?
高さのある建築物の階層や、傾斜面をつかって農業をすることを「垂直農業(または垂直農法:Vertical Farming)」と呼ぶ。平たい畑や温室などで野菜を栽培する代わりに、都会の高層ビルや、輸送用コンテナなど屋内環境で行われることが多い。従来の農業のように広い土地は不要で、水の使用も、従来の農業の98%削減できる。また、LED照明や水耕栽培技術、IoT、AIを活用しながら、気候や土壌の影響を受けずに安定的・高効率で農作物の生産が可能だ。
農業にテクノロジーを組み合わせた、アグリテックの領域であり、建築に農業の要素を組み合わせたアグリテクチャーの代表例でもある。垂直農業が解消している課題、直面している課題は下記の通りだ。
解消している課題
- フードマイル削減(生産地と消費地を近づけることによる輸送にかかるCO2の削減)
- 気候変動による農地減少と不安定な生産への対応
- 水資源の効率的な使用
- 虫が発生しない環境下で育てられるため、過度な農薬・化学肥料への依存脱却
- 農業従事者の安全性・労働環境の問題(獣害、重機事故など)
直面している課題
- テクノロジー依存 電力に関する事故があれば壊滅的な被害
- LED、空調、養液循環システムなど、設備投資コストが高額
- エネルギーコストの高騰による運用コスト増加
- 販売価格と消費者の価格許容度とのギャップといったビジネス上の持続可能性の確立
- 販路・市場基盤が未成熟
- 露地栽培よりも病原菌の拡散リスクが高く厳しい衛生管理が必要
- 農業とITの両面に通じる人材の不足
市場拡大の壁
2023年時点での世界における垂直農業の市場規模は約57億ドルとされるが、2030年には501億ドル規模に成長すると予測されている。しかし、まだ全体としては農業全体に占める割合は小さい。
実際に、垂直農業の大手企業であった欧州のInfarmは2023年に、ヨーロッパ最大の垂直農園を建設したJFCも2025年に経営破綻が伝えられた。国内では京都のスタートアップSpread社が垂直農法による野菜工場をけん引してきたが、2024年京都地裁に民事再生法の適用を申請したと発表した。

垂直農業 世界の事例
垂直農業が抱える課題は多いが、将来性もまた高い。例えば、干ばつや極端な高温など屋外条件が厳しい地域では、安定的な食糧供給手段になりうる。また、野菜を国内で必要な量を生産できることで、手軽に栄養価値の高い食へのアクセスを可能にしている。
アラブ首長国連邦(UAE)
慢性的な水不足に悩まされているドバイでは、世界最大級の垂直農場Bustanicaをオープンした。年間100万kg以上、常時100万品種以上の植物を栽培している。植物を通して水を循環させ、蒸発した水は回収されるというクローズドループを実現した。
シンガポール
国内の栄養需給のうち10%しか自給できていないことから、2030年までに30%を自国で生み出すための計画を立てている。立体駐車場の屋上を農園として有効活用する、種を配る、といったアクションのほかに垂直農業が注目されている。
垂直農業と持続可能性
垂直農業が持続可能な形で社会に根付くには、下記のような課題と真摯に向き合う必要がある。
- 再生可能エネルギーとの連携
- AI導入による運用コスト削減
- 政策支援と規制緩和による導入促進
- 教育現場での利活用を通じた次世代人材の育成
特にAIについては、使った温度、湿度、光のレベル、土壌の状態などリアルタイムのデータ収集と分析による最適な資源配分で、生産性と収穫量の向上を試みている。
2050年までには人類の80%が都市に住むと予想されている中、垂直農業は、人口増加や気候危機の時代において持続可能な食料供給と都市のレジリエンス強化を担う重要な存在となる可能性を秘めている。食の地産地消やテクノロジーの融合といった視点からも、今後の動向を注視したい。









