障がいがあってもなくても、一人ひとりの創造性を育む場へ。アートセンター「工房集」

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近年、世界的にダイバーシティに関する取り組みが推進されている。一方で、障がい者の雇用に関しては、いまだ限定されているのが現状だ。

障がいのある人々がよく携わるものとしては、例えば雇用契約を結んで行うデータ入力代行やカフェやレストランのホールスタッフなどの仕事、雇用契約を結ばずに行う手工芸や部品加工などの仕事があげられる。厚生労働省の調査によると、前者の働き方における2018年度の月額平均給料は7万6887円であり、後者における2018年度の平均月額工賃は1万6118円であった。後者に関しては、時間給にすると214円となり、同年度の最低平均賃金額の874円にはほど遠い。

このような、いまだ障がい者の雇用に関して賃金面などの課題がある中で、障がいの有無に関わらず一人ひとりの創造性に注目しているのが、埼玉県川口市を拠点に活動する「工房集」である。

多彩な人々が集まる、表現の場

工房集は、社会福祉法人「みぬま福祉会」のメンバーが表現プロジェクトを行う拠点として2002年に開設された。2016年には、表現活動を広く普及することを目指し、障がいのある人やその支援者の課題解決、情報交換やネットワークづくりの場として「アートセンター集」がオープン。施設内には、アトリエやギャラリー、ショップ、カフェなどが含まれている。現在では法人全体で11のアトリエを中心に150名ほどが仕事としてさまざまな表現活動を行っており、国内外での展覧会への出展や企業との協働など多岐に渡る活動を展開している。

工房集

Image via 工房集

施設では、メンバーを「仲間」と呼び合い、福祉関係者だけではなく、建築家やアーティスト、キュレーターなど様々な人が場づくりを行う。その表現方法は、絵画や織り、ステンドグラスや木工、漫画など多種多様だ。もともと美術が得意な人を集めたのではなく、それぞれが好きなこと、得意なこと、その人にしかできないことを引き出す日々の支援の延長線上にこうした多様な表現が生み出された。このような活動によって、本人だけでなく、メンバー、職員、家族などの周りの人の「働くこと」「表現」に対する意識が変わっているという。

個々の独自性を生かした、仕事のかたち

みぬま福祉会では設立当初から一人ひとりが当たり前に生きていくために、「どんなに重い障がいがあっても『働くことは権利』である」ということを活動の軸に取り入れてきた。当初は主に掃除に使うウエス(雑巾)づくりや缶プレスなどの軽作業が行われていたが、入所していたある女性がその仕事を拒否したことがきっかけで、「仕事」の捉えられ方が変わった。ある時、工房集・代表の宮本さんは、その女性がラクガキをする姿を見てお祭りのポスターに絵を描くことをお願いしたところ、拒否せずすんなりと描いてくれたことをきっかけに、これを仕事にするしかないと考えたそうだ。

障がいや能力に焦点を当ててできる仕事を探すやり方は、仲間を枠に当てはめてしまうことになる。そうではなく、本人の好きなことや興味のあること、得意とすることなど、一人ひとりの持つ独自性が活きる仕事を見つけていく方向に工房集はシフトしたという。

表現活動自体には完成形がない。一人ひとりに合わせた対応をする中で、施設職員は指導や指示をするといった直接的な関わりではなく、表現活動ができる環境づくりといった間接的な関わりを大切にし、その人が持つ表現の独自性を引き出す関わりを重要視しているそうだ。今では、国内外での展示会の開催や作品の商品化など、様々な業種の専門家とともに作品を発信している。

表現活動を通して、障がい者の自立へ

今回は、工房集の活動やその背景について伺うため、工房集代表の宮本恵美氏にインタビューを行った。

Q. 実際に工房集で表現活動をスタートさせてから、仲間たちにどのような変化が見られましたか?

仲間たちの一人ひとりが変化していると感じています。そもそも、「発達保障」というのは福祉的な視点で考えると、お金を稼いだり社会と繋がったりするだけではなく、「自分らしく働く」という意味合いもあるのではないかと思っています。だからこそ、本人が豊かに発達していくためにも、仕事の果たす役割は大きいかなと思っていて。健常者と呼ばれる私たちも仕事を通して成長していきますよね。そういった点から見ても仲間たちは豊かに発達していると思いますね。

「絵」に関しても成長していると思います。最初はキャラクターだけを描いていた人も、今では多様な表現を見せるようになりました。そうした表現活動を通して、周りに認められ自己肯定感が育って、自分の存在価値や意義も認めていきながら成長していく人たちがたくさんいますね。

他にも、なかなかコミュニケーションが難しかった人が自信を持って自分の作品について話せるようになったり、今まで周囲から認められてこなかった人がここへ来て認められ、自分以外の仲間たちも大切にするという気持ちが生まれたりと、さまざまな変化を感じます。

Q. 工房集の仲間たちの作品を発信していく中で、特に意識していることは何ですか?

この活動を始めた25年くらい前は発信の仕方に悩んでいました。当時は、「障がいがある人が描いているからすごい」と思われることに違和感があり、作品自体が評価されてほしいと思っていましたね。そうした想いもあって、作品を「かっこよく」発信することに軸を置いていた時期もありました。徐々に色々な方たちと繋がり始め、作品だけでなく作者である仲間たちに対して理解を示してくれる方たちも増えてきた中で、最近では作品が制作された背景も伝えながら発信をしています。

今、「ダイバーシティ」という言葉がよく聞かれるように、多様性を認め合おうとする社会の動きがある中で、仲間たちの表現の背景にある職員との関わりや、仲間たち一人ひとりの想いを伝えていくなど、発信の仕方はかなり変わってきています。

Q. 今後、工房集で挑戦したいことはありますか?

設立当初は、社会に障がい者理解を広げたいという想いが強かったのですが、今ではアートには様々な人たちが繋がり、変化を生み出す大きな力があると実感したので、いろんな人が繋がる場として工房集を展開していきたいと思います。

工房集

Image via 工房集

Q. 「ダイバーシティ」に向けて、一人ひとりの個性を活かし合える社会にしていくために大切なことは何だと思いますか?

「分断しない」ことだと思います。お互いを認め合うのと同時に、己を知って常に謙虚な気持ちでいることが大事だと思っています。

今では、学校教育の中でも早いうちに障がいの有無で子どもたちを分けてしまいますよね。私の時代だと、計算は苦手だけど時計のことはよくわかる人や、集団に馴染めないけど算数はできるというような人が必ずクラスに一人はいて、今では発達障害と診断されるような「ちょっと変わっている」人とみんなが同じ環境の中にいたんですよね。今だと、そういう人たちをすぐに分けてしまうから、大人になるまでに障がいのある方たちと関わる機会が少なくなっているのではないでしょうか。だからこそ、アートなどの領域でも、障がいの有無に関わらず交流できる機会を作っていくことが大切になってくると思います。

編集後記

近年、ジェンダーやセクシュアリティ、人種、障がいなど様々な領域で差別問題が顕在化している。これは、今まで社会自体をつくり上げてきた私たち人間一人ひとりの意識によって生み出される複雑な問題である。

この世に、同じ人間は誰一人として存在しない。そもそも「マイノリティ」「マジョリティ」という線引きは、私たちが生きる社会で生み出されたものだ。「マイノリティ」というカテゴリーを意識しすぎると、私たちは自ずと「この人はマイノリティ」というように特定の人々をそのカテゴリーの中に閉じ込めてしまう。

そういったカテゴリーに捉われず、一人ひとりの「人間」に意識を向けると、その人が持つ計り知れない創造力を感じることがある。実際に筆者自身も、工房集の仲間たちの作品を観て、一人の人間そして一人のアーティストとしての彼らの内なる声が聴こえた気がした。仲間たちの作品は観る人の心に訴えかけるものがあり、作品を通して彼らと対話しているように感じた。

ダイバーシティという言葉が盛り上がりを見せる中で、その人自身が持つ創造性に注目することこそ、フラットな対話を生み出し、結果として多様な社会に繋がるのではないだろうか。

【参照サイト】工房集(ホームページ)
【参照サイト】工房集(インスタグラム)
【参照サイト】SSKS月刊きょうされんTOMO2019年11月号
【参照サイト】LITALICOワークス「就労継続支援とは?A型・B型の内容・雇用契約・収入・対象者などを詳しく解説」
Edited by Megumi Ito

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