社会課題に捉われない心の持続可能性を探求するプログラム「TSUNAGU Fashion Laboratory」

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社会全体でサステナビリティやエシカルに対する取り組みが加速する中、様々な領域で「より良い社会とは何か」が模索されている。同時に、マインドフルネスなど、自身の内側に向き合う動きも見られる。

DATA BRIDGEの調査によると、瞑想に関する市場は2020年から2027年までに90億米ドルを占めると分析されており、世界規模で瞑想など個人の内面性における意識の高まりが見られる。

こうした自身の内面を捉える動きは、サステナビリティの分野でも「インナーサステナビリティ(心の持続可能性)」という切り口で注目を集めている。今回は、草木染めランジェリーブランド「Liv:ra」やミレニアル世代向けのエシカルファッションのプラットフォーム「TSUNAGU」を展開し、個人の内省を起点にエシカルなものづくりを模索されてきた小森優美さんに、インナーサステナビリティについて、そして今後TSUNAGUで開催するインナーサステナビリティに関するワークショップについてお話を伺った。

小森さん

小森さん

エシカルファッションを追求する中で芽生えた葛藤

小森さんは、2013年に草木染めランジェリーブランド「Liv:ra」を立ち上げ、日本の伝統技術を用いたエシカルファッションの形を模索してきた。

そうした活動を通して、多くの若者たちがエシカルファッションに対して意欲的である一方で、価格やデザイン面が障壁となり実際に触れる機会が少ないと感じたという。そこで小森さんは、ミレニアル世代にエシカルファッションを届けるため、2018年に一般社団法人TSUNAGUを設立した。

TSUNAGUは、徳島県の藍染めとコラボレーションした商品開発を行ったり、生産背景などの情報の透明性を心掛けたりと、ミレニアル世代の目線でエシカルファッションを発信してきた。

TSUNAGU

Image via Kevin Kazuyuki Evans

これまで小森さんは、TSUNAGUで生産者や消費者を繋げるプラットフォームを作り、エシカルファッションへの理解を深めていくきっかけを作っていきたいと考えていた。しかし、「エシカル」を他者に理解してもらう取り組みは、ときにエシカルに関心のない人たちを説得するような感覚になり、そうした経験から自分自身が消耗していくと感じたそうだ。

「社会活動を頑張るほど、無意識に自分自身が消耗してしまうことがありますよね。私自身もそういった経験を通して、本当に自分の大切なものを重視するよりも、他者や社会を変えようとすることが目的になっているから自分が消耗してしまうのだと気付きました。」

自分の心に寄り添う「インナーサステナビリティ」

他者から「エシカルファッションデザイナー」として見られる中で、小森さんは自分の内面をどう変え、その変化がどのように自身の人生や人間関係を変容させていくか、という自己の内側(心)と外側(行動)の変化の機微を捉えてきた。

現状のエシカルファッションのビジネスモデルは、従来の大量生産型のモデルと同じく、ものづくりにこだわればこだわるほど価格が高くなる。そうした中で、自らのブランドをそうしたモデルに合わせていくのが正しいのかどうか、小森さん自身が自分の内面と向き合い、本当にしたいものづくりを探求していった。その結果、原価が高額ではあるものの、人や環境に優しい日本の伝統技術を用いて自然と共生したものづくりを大切にしたいという気持ちが強くなり、従来のビジネスモデルから離れ、規模を拡大しないビジネスを選択することに至ったという。

また、新型コロナウイルスによる生活の変化をきっかけに、社会全体として外側の豊かさよりも内側の幸福を求める方向へシフトする動きを感じてきたそうだ。小森さん自身も、社会的な評価や経済的な豊かさよりも、自分が興味のあることに意識がフォーカスした感覚があるという。

「表現としては万人受けするテーマからどんどん離れ、マニアックな世界になってきています(笑)。その流れで、同じような感覚の仲間とより濃く深く繋がってきたので、そういう意味で今はより社会的価値から解放されて自分らしくいられる感覚がして、とても楽しいです。そういう方は、実は多いのではないでしょうか。」

そして、プラットフォームを作るのではなく、より一人ひとりの内面に根ざした形でエシカルを考えていきたいと思うようになった小森さん。その鍵となるのが「心の持続可能性(インナーサステナビリティ)」だった。具体的に小森さんは「インナーサステナビリティ」を「心が安定している状態」だと考えている。

「他者の意識や行動を変えようとするのではなく、自分自身の内面を変化させることの大切さは、これまで理解されにくいことだと思っていました。しかし、自分の内面の変化から起こる物事のインパクトを話したり、実際の行動で示すことで、その世界観に共鳴してくれる人が増え、深く繋がることができる機会が増えたと感じています。」

握手

Image via Shutterstock

サステナブルな社会を作っていく上で、自分のやりたいこととビジネスとして成り立つこと、人のためにすることと自分のためにやりたいことのバランスに、小森さん自身も葛藤してきた。一見一致しないように見えるこれらの現象は、小森さんの内面の変化により繋がっていったという。

葛藤を抱える中で最大限に自分にできることは、自分らしく居続けること。そのために、インナーサステナビリティが必要だと小森さんは話す。

「コロナを通して日常生活が変化する中で、他者を変える必要はないということに気が付きました。他者を説得して変えるというエネルギーを自分自身を見つめることに向けると、本来の自分の素晴らしさに気付くと同時に、その自分に正直に生きることが結果的に他者へ大きなインパクトを与えるということに気付きました。」

「自分らしさ」の延長にあるエシカルファッションを求めて

昨今「自分らしさ」という言葉が様々な場面で発信されているが、そもそも自分らしさとは何なのか、明確ではない人も多いのではないだろうか。小森さんは「自分らしさ」を、よりナチュラルに捉えている。

「『自分らしい』とは、発信力や発言力があるという、光り輝いている状態ではなく、自然体であることだと思います。怒りや悲しみもあるだろうし、綺麗ごとだけではないと思いますが、それは作られた美しさではなく、本質的に美しい生き方だと思いますね。」

そうした「自分らしさ」を求める中で、本当にやりたいことがあったとしても、なかなか上手くいかないこともあるはずだ。その背景には様々な要因があるが、多くは世間一般的な考えや固定概念が邪魔していると小森さんは感じている。最も重要なのは、そうした思い込みを手放し、その先に自分の中にあらわれてくるものを丁寧に見つめることだと小森さんは話す。

TSUNAGU

Artwork by Niky Roehreke

小森さんがLiv:raを始めたのは、「本物」だと思えるものを作りたいと思ったからだという。デザイナーとして働いていたファストファッションブランドでの仕事を辞め、Liv:raを展開する現在は日々の仕事の中で自分自身が求める「本物」から外れることは断っているそうだ。

「私にとって『本物』とは、自分の内側に存在するものを繊細に、正確に、表現している様だと思っています。その繊細さと正確さの捉え方が深ければ深いほど美しく、本物だと感じますね。」

「エシカル」という言葉ひとつにしても、どのくらいの深さでその言葉を扱っているかでまったく意味が違ってくるという。

「私にとっての『エシカル』は、『本物を目指す姿勢』です。自分も、まだまだ本物だと思えるものを作れていないので、理解できていない部分も多いですが、常に一歩先のビジョンは見えています。そのビジョンを目指す中で、本物に近づくことは理解しているのでそれに向かって歩んでいる感覚ですね。」

「自分らしさ」の延長で、自分が心から美しいと思えるものを求めて形にしていく中で、自然と「エシカルファッション」になると小森さんは考えているのだ。

リジェネラティブデザインを実践する「TSUNAGU FASHION LABORATORY」

今春からTSUNAGUでは、「TSUNAGU Fashion Laboratory」という半年間の実践型プログラムを実施する。このプログラムのキーワードである「リジェネラティブ」という言葉は、「持続可能なだけでなく、積極的に修復していく」という意味がある。小森さんは、個人の心の「リジェネラティブ」なあり方が自然だけでなく人や社会、自分をとりまくすべての存在を癒し、再生していくと考えている。

「ファッションの勉強や技術を学ぶ場というより、自分の内面と徹底的に向き合う空間にしたいと思っています。人間には、物事をマイナスからゼロにするのではなく、プラスに変えていく、まさに『リジェネラティブ(再生)』の力があると思っています。現社会のものさしでは測れない、本当の自分の力を使って社会を再生していきたい人にぜひ参加してもらいたいです。」

TSUNAGU Fashion Laboratoryのワークショップは、個人の哲学からあらわれるソーシャルイノベーションの概念やリジェネラティブビジネスデザインなどを切り口に、多彩な講師をゲストに迎えた講座が毎月開催される。また、自己の内面と向き合うワークショップも同時に開催され、リジェネラティブな社会と個人のつながりとは何かを探求していく。

ワークショップの公式サイトは5月12日より募集が開始されている。詳細は、下記のリンクからチェックしてみてほしい。

TSUNAGU FASHION LABORATORY 0期生

公式サイト:https://tsunagu-fashion-laboratory.earth/
日程:2021年6月19日~2021年11月27日 半年コース全12回(月2回・土曜開催)
場所:オンライン(ZOOM)
定員:20名
価格:
・SEED ¥25,000 【0期生特別価格】 学生応援プラン(限定5名まで)
・FLOWER ¥35,000 【0期生特別価格】 通常プラン
・ FRUIT ¥50,000 【0期生特別価格】 TSUNAGU支援/恩送りプラン
申込み締め切り:2021年6月18日(金)

【参照サイト】一般社団法人TSUNAGU「TSUNAGU FASHION LABORATORY」
【関連ページ】「見える距離感」で本質的な「エシカル」を目指す。草木染めランジェリーブランドLiv:ra

Edited by Megumi

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