すべての人に、インクルーシブなファッションを。アパレルブランド「SOLIT!」

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近年、国内外でダイバーシティに関する取り組みが盛んとなっている。デザインの領域においても、様々なバックグラウンドを持つ人々が使いやすいデザインのあり方が模索されている。

例えば、ユニバーサルデザインは、障がいや年齢、国籍などに関係なく「すべての人が使いやすいように」デザインする手法だ。ラベルを見なくてもボトルに触るだけで中身がわかるよう、側面に突起がつけられたシャンプーボトルや、軽くタッチするだけでオン・オフできる大きな照明スイッチなど、私たちの生活に馴染みのあるものも多い。

そして、近年注目されているのがインクルーシブデザインだ。ユニバーサルデザインは、誰でも使いやすいようなデザインを「デザイナーが」考案する一方、インクルーシブデザインの場合、デザイナーだけでなく、「これまで社会から排除されてきた人(エクストリームユーザー)」を巻き込み一緒にデザインをしていくことが特徴だ。デザインの最初の段階からエクストリームユーザーの気づきや意見、感情に耳を傾け、当事者ならではの着想を活かしてものを作り上げていく。

今回は、こうしたインクルーシブデザインの手法を用いながら、「All Inclusive(オールインクルーシブ)」をテーマに展開しているファッションブランド「SOLIT!」の代表 田中美咲さんをインタビューした。障がいの有無を越え、誰もが楽しめるファッションの形や、その製作過程に迫った。

話者プロフィール

田中さん田中美咲(たなか・みさき)
1988年奈良生まれ。立命館大学卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。東日本大震災をきっかけとして情報による復興支援を行う公益社団法人(現一般社団法人)助けあいジャパンに転職、福島県における県外避難者向けの情報支援事業を責任担当。2013年8月に「防災をアップデートする」をモットーに一般社団法人防災ガールを設立。2018年 第32回 人間力大賞 経済大臣奨励賞 受賞。同年フランスSparknewsが選ぶ世界の女性社会起業家22名に日本人唯一選出、世界一位に。2018年2月より社会課題解決に特化したPR会社である株式会社morning after cutting my hair創設、代表取締役。2020年9月より、「オール・インクルーシブ経済圏」を実現すべくSOLIT株式会社を創設、代表取締役。TED Talksにて「私たちの組織の終わり方」をプレゼンテーション、また二度目のTED Talks「社会課題を解決するクリエイティブ・共に問うデザイン」も発表。

ファッションに対する違和感から、ブランド創設へ

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これまで、防災をはじめとした様々な社会問題解決のために活動してきた田中さん。昨年2020年にスタートしたアパレルブランド「SOLIT!」の誕生背景には、彼女自身がファッションに対して抱える違和感があったと話す。

「これまで、自分自身の身長が低くて身体が大きめの体型だったことから、日本では着られる服が少なかったり、無理して着たりする経験がありました。そうして試着室に入って着たい服が着られない経験を何度もしたことで、『着られないから痩せなきゃ』『着られない自分は醜い存在だ』と、自分を傷つける言葉をたくさん自分に向けて、自己否定してきたんですよね。自由でワクワクするはずのファッションが、いつしか自分を傷つけるものになってしまったんです。」

また、これまで国内外の社会課題の現場や在籍していた大学院で、国籍や信仰、セクシュアリティ、障がいの有無や体型が異なる人々との出会いがあったという。そうした経験を通して、田中さんは障がいやジェンダー、信仰の違いや体型によって、自分と同じように「ファッションを楽しめていない」人がいると感じたそうだ。

世の中には大量の服が生産され、廃棄されているにもかかわらず、選べる服がない。そのような違和感を覚えた田中さんは、多様な人々が自分自身にとって気持ち良い服を選べるようにしたいという思いから、2020年9月にSOLIT株式会社を立ち上げ、アパレルブランド「SOLIT!」の運営を開始した。属性やカテゴリーなどを超えて、お互いありのままの姿が素敵だと言い合えるような社会にしていきたいという思いから、スラングで「SOLIT(素敵)」という名前をつけたという。

SOLIT!に関わるメンバーは、デザイナーやマーケター、医療・福祉従事者といった異なる職種や、国籍・年齢・セクシュアリティ・障がいも異なる様々なバックグラウンドを持つ人々だ。現在、オンラインを中心に約40名のメンバーが運営している。

すべての人に心地よいデザインを目指して

SOLIT!では、インクルーシブデザインの手法を用いてメンバーと製品のデザインを考え、「必要な人に必要なものを必要な分だけ作る」と決めているという。実際に、企画段階から様々なバックグラウンドを持つ人たちと企画開発し、必要とされているプロダクトを、依頼を受けた分だけ受注生産する仕組みだ。その際、好みや体型、障がい特性などに合わせて部位ごとにサイズ・丈・仕様をカスタマイズできるため、「自分だけのもの」を着ることによって商品寿命の長期化も期待できる。

「SOLIT!は、大手ブランドでは作られていないようなものを作りたい気持ちがあります。最初のプロダクトはジャケットやパンツ、ボタン付きのシャツを製作することにしました。ジャケットやパンツなど部位ごとにサイズ・丈・仕様が選べ、カスタマイズができるようなデザインになっています。人の身体はそれぞれ大きさや形が異なるため、一般的に販売されているような画一的なサイズ展開だと着ることができない人がいたり、どこか無理をして着用していたりすることも少なくありません。また、車椅子ユーザーが移動する際、車輪を回すため袖口が汚れやすいという課題があります。その課題解決として、腕まくりがしやすいように袖の中にリブを付けてカスタマイズができるなど、着る人の視点に立ったデザインを大切にしています。」

「実際に購入者からは、『これでもうファッションを諦めなくて良いと思えた』『これを着てようやく面接に行ける』といった声があり、ファッションは自己表現の一部というだけでなく、社会参加の一助を担うのだと感じました。また、着られる服の選択肢が増えると、自分自身を認めていくことにつながると思っています。身体の可動域に制限がある方や四肢に麻痺がある方は、パーカーやスウェットといった動きやすくて大きめのシルエットのカジュアルな服を選ばれることが多いのですが、そうしたカジュアルな服装では仕事に行きづらかったり、レストランやイベントに行くのにハードルを感じたり、おしゃれしたい時に着られる服がなかったという声もありました。少しでもそうした悩みを解決し、色々なことにチャレンジできるように、今後も商品開発を工夫して皆様にお届けしていきたいと思います。」

「ファッションの民主化」を通して、オール・インクルーシブな世の中へ

SOLIT株式会社では、多様な人が生きやすい世の中を目指して、ファッションブランドだけでなく、病院や企業と連携しデータや知見を企業にシェアする取り組みも行っている。最近ではそうした取り組みの第一弾として病院や研究所と協働を開始し、入院中・退院後におけるファッションに関する課題調査分析や解決策の立案を行い、共同研究や、新たに病院服も開発しているという。

「従来の病院服は、出血したことがわかりやすいような色の生地を使用していたり、介助や採血がしやすい袖口や形状にしていたりするなど、運営側が患者に対して着てほしいものを提供している印象がありました。しかし、いざ調査をすると患者からは『着たいと思えない』『患者だとわかるデザインが嫌』という反応や、医療・福祉従事者としても『脱がしにくい、はだけてしまう』といった課題が多く存在することがわかりました。そこで、SOLIT!では、患者やその家族と医療福祉従事者が本当に着たかった/着てほしかった服をヒアリングし、みんなで作る病院服を企画しています。また、病院内だけでなく、退院後も着続けられるよう、家や街中で着ていたくなるデザインを検討中です。」

機能としても、マグネットタイプのボタンにして付け外しをしやすくしたり、認知症の方でもどこがポケットや袖などのスタートラインかわかるように色を変えたりと、工夫を施しています。服が変わると外出機会や社会参画の機会が増えるため、医療・福祉現場が抱える課題を解決して「マイナスからゼロにする」だけではなく、それ以上のことをしたいと考えています。

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こうした田中さんたちの活動は、「障がい者ファッション」の切り口で発信されることが多いという。しかし、田中さんはあくまで「障がい者」に向けてだけではなく、多様な人々や地球に考慮していきたいという気持ちがあるそうだ。

「よくあるアパレルブランドのウェブサイトには『ウィメンズ』や『メンズ』といった言葉が使われていますが、そういったカテゴリーやS・M・Lといったサイズ一覧など、セクシュアリティやジェンダー、固定化された基準に関する情報はSOLIT!では記載していません。ファッションに合わせて人が体型や価値観を曲げるのではなく、自分に合ったものをカスタマイズできるなど、購入者の主体性を尊重し、『あなたが服を選ぶ』というファッションの民主化を目指しています。」

また、田中さんはこれからのビジョンとして、インクルーシブデザインの手法を通して様々な社会問題にアプローチしていきたいという。

「SOLIT!を通して、多様な人も地球環境も考慮されたオールインクルーシブな社会にしたいという想いがあります。これは、私たち1社だけでは実現できません。ファッションの川上から川下、そして循環に至るまで、そしてファッションだけでなく医療・福祉分野や、生活環境すべてにおいて様々な企業や自治体、NGOやNPOと連携して実現していきたいと思っています。」

編集後記

今回田中さんへの取材を通して、障がいの有無を越えて人や環境に配慮したものづくりのあり方に触れ、あらためてインクルーシブデザインの持つ力に気がついた。普段何気なく使っているものやサービスは、身体に障がいのない人やその国の言葉、文化背景を前提にしていることが多い。そうすると、自ずと「マジョリティ」に合わせたデザインが主流となり、「マイノリティ」の人々の選択肢を狭めてしまうことがよくある。

このような中で、ユーザーの声に寄り添ったデザインを、ユーザーと共に考えていくインクルーシブデザインの手法はますます重要になってくるだろう。こうした参加型のプロセスを通して、個々人の多様な視点を引き出しコラボレーションすることで、真に私たちが求めるものを生み出すことができるのではないだろうか。

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Edited by Megumi

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