馬鹿にされた「湖畔の発電所エリア」が、カナダ随一のウォーカブルシティに変わるまで

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近年、大気汚染や気候変動への対策として、街の在り方を見直す動きが世界各地で起こり始めている。フランス、パリでは2024年までに誰もが車無しでも15分で職場、学校、公園などあらゆる街の機能にアクセスできる都市を目指す「自転車で15分の街」という新たな都市計画を発表。同じく大気汚染に悩まされていたスペイン・バルセロナでは「スーパーブロック・プロジェクト(Superblock Project)」と称して、歩行者と自転車専用のスーパーブロック(特別区間)を設けることで、市民の安全と健康を守るプロジェクトが行われた。

そして今回新たな動きが見られたのが、カナダ最大の都市トロント郊外のミシソーガに位置するオンタリオ湖畔だ。この場所には40年以上にわたって、皮肉の意味も込めて「レイクビュー(湖の見える)発電所」と呼ばれる巨大な石炭火力発電所があった。美しい湖がすぐそばにありながら、発電所の大きな建物に遮られ、住民は長い間その水辺を楽しむことはできなかったのだ。それどころか、街は日々煙霧に包まれていた。

その発電所が、二酸化炭素排出量削減のため2005年に閉鎖され、「15-minute city」と呼ばれる、日常の用事のほとんどを徒歩か自転車で15分以内に済ませられる都市に生まれ変わろうとしている。地区の名は「レイクビュービレッジ(湖の見える村)」。

レイクビュービレッジには何十年と遮断されていた、人と水の関係を再びつなげるための仕掛けが施されている。内部にはカナダで最も長い600メートルの桟橋が作られ、水辺ではカヤックやスタンドアップパドルなどのアクティビティを存分に楽しむことができる。また沿岸沿いの一部区画には湿地帯、自然保護区域を設け、野生動物が生息することができるよう整備される予定だ。

敷地内にはカナダ最大の研究・技術開発を行うためのイノベーション地区が作られ、新しく9,000人の地元雇用を創出する計画だ。業界を超えたビジネス革新の中心となり、気候変動、医療、エネルギーなどにおける問題解決が期待されている。

またレイクビュービレッジは、サステナブルな複合施設を目指して設計が進められており、地区内のすべての建物でガスやエアコンを使わずに冷暖房を利用できるよう、近隣の下水処理場の廃熱を利用した地域暖房システムの利用を検討している。また、排出されるリサイクル物・コンポスト可能物・ごみを地下のパイプに吸い込んで中央集荷場に送る「バキュームウェイスト方式」といった自動ごみ収集システムにより、リサイクルやコンポスト率の向上を目指す。このシステムにより、公園に設置されたごみ箱は満杯になると自動的に空になる仕組みとなる予定で、道路の美化や、プラスチックごみを水に流さないことにも一役買いそうだ。

当初、レイクビュー発電所は、石炭火力発電よりは多少汚染度の低い、ガス火力発電所に置き換えることが検討されていた。しかし、地域住民の強い想いによって、レイクビュービレッジのプランが採択されることとなった。

自然の美しさと共にある生活を長期間奪われていたからこそ、オンタリオ湖畔周辺の人々は、揺り戻しのように自然と共生する道を強く望んだのだろう。

IQAirによると、2020年における大気汚染ランキングにおいて日本は調査対象の106カ国中82位と比較的空気の綺麗な環境にある(※1)。青空が見られる日も多く、朝焼けや夕陽の美しさも、冬の冷たくも澄んだ空気の美味しさもすぐそばに当たり前のようにある。

しかし、その当たり前のようにそこにある自然の恩恵を私たちはしっかりと受け取れているだろうか。足早にA地点からB地点に向かい、空も見上げることなく1日を終えてしまっていないだろうか。オンタリオ湖畔の人々がレイクビュー発電所ではなくレイクビュービレッジを心から求め、そこにある自然を深く見つめて生きようとする姿勢から、学べることがあるように思う。

※1 IQAir 2020年 世界で最も汚染された国(PM2.5)

【参照サイト】Lakeview Village(公式サイト)
【参照サイト】Lakeview Village(公式パンフレット)

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