賛否沸くフランスの「土地の人工化ゼロ」目標。いま再考すべき、人とLandとの関係

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気候変動の深刻化や人口構成の変化を受けて、「土地利用のあり方」から課題解決を試みる動きが高まっている。日本では、2023年7月に「国土形成計画(全国計画)」の変更が閣議決定され、少子高齢化と気候変動に対応するべく国土づくりの計画が定められた。ここでは、持続可能な国土づくりを目指し、都市と地方の連携強化や、再生可能エネルギーの活用、インフラのデジタル化などが重点的に推進されている。

土地の使い方を規定することは、企業や市民の行動に間接的に影響を与え、マクロな構造的変化にもつながる。またIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、過去10年間に人間の活動で排出された炭素の約30%が、土地を軸とした生態系を通じて吸収されたという(※1)。土壌の力を引き出せる土地利用を行うことで、気候変動の影響を緩和できる可能性があるのだ。

こうしてLand(土地・土壌)に注目が集まる中、フランスでは、2021年8月に施行された気候変動とレジリエンス法に基づき、土地の人工化に対する規制として「人工化ネットゼロ目標(Zéro artificialisation nette:ZAN)」が強化されている。

建築物やアスファルトで覆われている地表の面積を、現状から過度に拡大させないことを目指し、以下のような中間目標と最終目標が定められている。

中間目標:
2021年から2030年の間に新たに人工化される地表の面積を、2011年から2020年と比較して半減させる
最終目標:
2050年までに、新たに人工化される地表の増加分を、すでに人工化された土地の修正・再生によってネットゼロにする

この目標の実現に向けて、2023年11月28日の官報で法令が発表された。かねてより「人工地表」の定義が曖昧であることに対して批判の声もあがっていた中、人工地表と非人工地表の定義が示されたのだ。

人工地表
    1. 建築物(建設、開発、工事、設置物)により床が防水されている地表(*)
    2. 床が塗膜(人工物、アスファルト、コンクリート、敷石またはスラブで覆われている状態)により防水されている地表
    3. 土壌が固定化・圧縮されているか、鉱物質で覆われている、または土壌が複合材料(非鉱物質の混合物による不均質で人工的な覆い)でできている部分的または全体的に透水性のある地表
    4. 土壌が草本植生(**)で覆われている、居住目的、第二次もしくは第三次産業、またはインフラ(特に輸送や物流)に使用されている地域
    5. カテゴリー1~4に分類される地表で、建設中または放棄された状態のもの
非人工地表
    1. 土壌が裸地(砂、小石、岩、石、またはその他の鉱物質で、操業中の採掘活動の表面を含む)、または恒久的に水、雪、氷で覆われている自然の地表
    2. 土壌が耕作地または植生(農業)である作物に使用される区域。これらが休耕地または、水で覆われている場合(漁業、養殖業、製塩業)を含む
    3. 植生土壌を持つ、林業用の地表
    4. 自然生息地を構成する植生土壌のある区域
    5. 植生土壌のある地表で、前のカテゴリーに分類されないもの

(*)床面積が50平方メートル以上。その他全項目は2,500平方メートル以上の設置面積または土地。どちらも、線形インフラストラクチャは最小幅5メートルから認定される
(**)植生が茂った地表は、植物で覆われている部分の25パーセント未満が木である場合に草本植生であると認定される

この定義をまとめると、今後拡大を抑制すべき対象は主に 「水を通さない地表・土壌に複合材料が混ざった地表・第二次/第三次産業に利用される草本植生の地表」であることが分かる。石や砂、草本のある自然の地表を取り戻そうとしているのだ。

しかし、ただ建物やアスファルトを取り除けば良いというわけではない。都市部の土壌は重金属や炭化水素で汚染されており、自然分解に何世紀もかかることが多い(※2)。単に面積だけで測るのではなく、その土地がどのような状態になり、地域内での生態系にどう寄与しているのかまで測ることが大切だろう。

このように土地利用を見直す動きは、欧州で広がりつつある。デンマークは2024年11月、農業用地の15%を植樹によって森林に戻す政策を発表した。これは国土の10%に相当。同国は農業に伴うCO2の排出量が多いことから、この分野での取り組みを優先的に進めている。人工地表への規制よりも非人工地表の増加と改善に焦点を当てた政策だ。

一方で、フランスのように「人工化された面積を減らす」政策に対し「人工化された地表の量よりも、都市開発に適切な計画を求めることこそが重要である」と、目標設定以前から指摘する研究もある。

賛否両論あるフランスのZAN目標。さらに議論が必要ではあるが、ここで「土地の人工化」という表現に着目したい。人工“化”と表現されることで、「本来の土地の姿は非人工的な状態であったが、それが人の手によって人工的な地表へと変化した」という含みも現れてくるだろう。

しかし「人工的」と「非人工的」とは、明確に区別できるものなのだろうか。人間が恣意的に引いている境界についても意識していきたい。

そもそも人間も自然のめぐりの中で生き、生態系の一部である──そう謳いながら土地を人工物で覆い、本来の能力にふたをして「人工化」してはいないだろうか。変化はまさに足元を見直すことから、始まるはずだ。

※1 Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change
※2 Zéro artificialisation nette : une ambition en panne – Balises|Le magazine de la Bpi

【参照サイト】Zéro artificialisation nette (ZAN) : comment protéger les sols ? | vie-publique.fr
【参照サイト】Decree No. 2023-1096 of November 27, 2023 relating to the evaluation and monitoring of soil artificialization
【参照サイト】Zéro artificialisation nette : une ambition en panne – Balises|Le magazine de la Bpi
【参照サイト】Zero net artificialization: good intentions, wrong methodology? | La Fabrique de la Cité
【参照サイト】Land-based solutions offer a key opportunity for climate mitigation | UNCCD
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