料理は畑から始まっている。野菜のためにエゴを捨てたレストラン「WE ARE THE FARM」【FOOD MADE GOOD #14】

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食のあり方や、飲食業界のあり方を変えていくため、より多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している団体がある。英国に本部があるSRA(SUSTAINABLE RESTAURANT ASSOCIATION)の日本支部、日本サステイナブル・レストラン協会だ。そんな日本サステイナブル・レストラン協会の加盟レストランを巡り、先駆者となってサステナビリティへ向かう飲食店の取り組みを紹介していく連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」の第14回目。

「農場から戻りました」と颯爽とレストランに現れた、農場とレストランが一体となった次世代型のオーガニックレストラン「WE ARE THE FARM(ウィーアーザファーム)」の副社長であり農場長の寺尾卓也さん。同店は、2014年にオープン後、現在では東京都内に6店舗展開している。レストランで使われている野菜はすべて、自社農場である「在来農場」にて無農薬・無化学肥料栽培で育てられたものだ。農場は千葉県佐倉市と群馬県にあり、総面積は東京ドーム4個分の広大な土地である。

同レストランでは、年間200種類程の「固定種」と呼ばれる野菜をそこで育て、毎朝レストランに運んでいる。固定種とは、品種改良をせずに「毎年種採りをしながら作られる、性質を固定された野菜」だ。

WE ARE THE FARMは、どのような想いであえて手間がかかる固定種を軸におき、野菜づくりをされているのか。本当の「地産地消」とはなにか。寺尾さんに伺ってみた。

話者プロフィール:寺尾卓也(てらお たくや)さん

ADX 寺尾卓也さん静岡県出身。大学卒業後、大阪の農事組合法人にて2年間農業に従事。従業員として稲や野菜の生産に携わる。この間、農業での独立を決意。資金を貯めるため、1年間建設業に従事する。2012年千葉県佐倉市の有機農家にて農業研修。2013年に独立し、在来農場を開場。2014年に直営レストラン「WE ARE THE FARM」を東京都渋谷区にオープン。2015年に法人化し、株式会社ALL FARMを設立。

「野菜本来の美味しさを届けたい」そんな想いで始めた「固定種」の野菜づくり

野菜に種類があることをご存じだろうか。野菜や花の種には大きく分けて、「固定種」と「交配種(F1種:Filial 1 hybrid)」と呼ばれる2つの種類がある。世の中に一般的に流通している野菜はF1種で、異なる種子同士を交配させた、一代限りの雑種だ。生育しやすいように、形が整いやすいように改良されているので、大量生産に向いている。

現在、日本のスーパーに並べられているのはほとんどがF1種である一方で、固定種は、農家が育てた野菜の中から出来のいい種を選び、翌年その育てた中からまたいい種を採るという、昔から代々受け継がれてきた種だ。F1種より圧倒的に手間がかかる固定種だが、WE ARE THE FARMではなぜこんなにも固定種にこだわるのか。寺尾さんはこう語る。

「食材となる野菜のコンセプトに悩んでいた時があり、3つ星レストランの料理長に、『おいしい野菜を育てている農家を紹介してほしい』という相談の手紙を書きました。そのときに紹介してもらったのが山梨にある農家さんです。そこで食べさせてもらった固定種の野菜が、おいしくて衝撃的だったんです。僕もこんなおいしい野菜を作りたいし、この種を残していきたいと思い、固定種を育て始めました」

WE ARE THE FARM

Image via WE ARE THE FARM

エゴを捨て、「野菜のこと」を考える

作った野菜を自分たちでレストランに出荷するため、都内から1時間半圏内で通える農場を探していたときに、条件が合致したのが千葉県佐倉市の農場だった。そこで固定種での野菜作りが始まったのだ。

最初は失敗の連続だった。もともと教えてもらった山梨の農家と同じやり方で、肥料も与えずに野菜作りをやっていた。しかし、寺尾さんは「山梨と千葉だとそもそも土地も違う。山梨の何十年とやってきた農場とは土の豊かさが全然違う」ということに途中で気づいたという。

「肥料を与えず野菜の力だけで育てようというこだわりで始めたのですが、肥料をあげていないのは、自分のエゴだと気づきました。野菜のことをちゃんと見て、今どんな環境にいいて、何を欲しているのか、もっと考えてあげることが大切。2年目でエゴを捨てましたね」

そう笑いながら話す寺尾さん。そこから、徐々に野菜が育つようになってきたという。

人が育つのも、野菜が育つのもベース(土壌や組織)が大切

農場とレストランを行き来している寺尾さんだが、WE ARE THE FARMではアルバイトを含む従業員全員が、毎週希望制で農場スタッフとともに畑仕事も行っている。農場スタッフもまた、WE ARE THE FARMの店舗やマルシェで野菜の販売を経験し、お互いの立場に立って仕事をしている。

また、年4回は従業員総出で畑仕事をする「全体畑DAY」があり、全スタッフが固定種野菜の生産に何らかの形で関与しているのが特徴だ。そこにもWE ARE THE FARMという店名にこめられた想いがあるように感じた。「お店は、野菜を食べて喜んでもらう場所」。「農場は喜んでもらうための野菜を作る場所」。場所が違うだけであり、「安全で、美味しいものを食べて喜んでもらいたい」という気持ちは農場もレストランも同じなのだ。

「従業員教育で大切にしていることは?」と寺尾さんに問うと、「目標があったらそれを達成するために、自分で考える人になってほしいと思っています。マニュアルにはあえてせず、コミュニケーションの中で、こちらの想いを伝えていくようにしています」と答えてくれた。

赤坂店でお昼に提供されている「固定種野菜のスープカレー」は、当時アルバイトでホールスタッフとして働いていた花岡理子(はなおかりこ)さんが「作ってみたい」と声をあげ、色々な方々の協力で作り上げたもの。花岡さんは、北海道旅行でスープカレーに出会って衝撃を受け、それ以来ほぼ毎日食べている無類のカレー好きということからこのアイデアが生まれた。

このスープカレーは、肉を一切使わずに作られたプラントベースのカレーで、在来農場で作られた野菜が10種類入っている。この日の野菜は、大根、人参、ケールの茎、牛蒡、菜の花、小松菜、菊芋、蓮根、えのき、しめじの10種類。プラントベースでありながら想像を見事に裏切る濃厚な味わいで、生命力あふれる野菜それぞれの個性を生かした調理がされており、まさにすべての野菜が主役なのだ。

このように、スタッフが得意を生かし主体となって新しいことに取り組める環境は野菜作りの哲学にも通ずる。共同経営者で社長の古森啓介(ふるもりけいすけ)さんの言葉に「人が育つのも、野菜が育つのも土壌というベースが大事。野菜も土がいいとちゃんと育つ、同じように人が育つには組織が大事だと思う」というものがあった。野菜を育てる際に失敗を重ねた経験があるからこそ、土壌作りの大切さがわかり、それが人材育成にも活きているのだ。

スープカレーを作るスタッフ

Image via WE ARE THE FARM

スタッフが企画したスープカレー

Image via WE ARE THE FARM

現在、千葉県の佐倉市と群馬県に農場を構えるWE ARE THE FARM。毎朝、収穫したての野菜を東京にあるレストランに運んでいる。また、東京にいる人たちに畑を近くに感じてもらいたいという想いから、「農業体験ツアー」を実施。東京から畑にバスで向かい、栽培や収穫などの畑仕事を体験した後、とれたての野菜を使った「まかない料理」を味わってもらう企画だ。

しかし、「本当の地産地消ということを考えたときに、佐倉市の人にも自分たちが作った野菜を食べて欲しいと考え始めた」と、寺尾さんは語る。

その理由を聞いてみると「野菜を作った場所で消費してもらったほうが、輸送におけるCO2の削減にもつながるしサステナブルでもある。そして何より、美味しいですしね。しかし、飲食店として農業として、経営的にも合理的だということだということも大事な理由の一つです」と、正直な気持ちを話してくれた。

現在は、佐倉市の畑付近での野菜販売を検討しているそうだ。

畑作業の様子

Image via WE ARE THE FARM

喜んでくれる人を増やし、それが経済的にも持続していけることがサステナブル

お店がオープンして8年がたち、店舗数も増えた今、寺尾さんにとっての「サステナブルとは何か?」を訊ねてみた。

「店舗数が増えたことで良かったこともありますが、各店舗の数字を気にしていかなければならないので、大変なこともあります。生活を守らなければいけない従業員も増えました。農場やレストランは、美味しい野菜や料理を作って、それによって喜んでくれる人を増やすことが一番大切だと思います。しかし、継続できないと意味がないので、喜んでもらうためのものづくりが、経済的にも持続していける状態を作っていくことが自分にとってのサステナブルです。理想と現実のクロスポイントをいつも探していて、それを叶えるのは口で言うほど簡単ではないんですけどね」

ビジネスをしていく上では、環境や社会の持続可能性だけではなく、経済的な持続可能性も必要になってくる。そこで思考停止をすることなく、現実と向き合い続けながら、「体によく、美味しいものを届けたい」という強い信念を抱き、次の未来を描いているWE ARE THE FARMの取り組みにこれからも注目したい。

WE ARE THE FARM

編集後記

WE ARE THE FARMオープンから8年。日本の食料自給率(カロリーベース)は40%を下回り続けている一方で、食における持続可能性については注目される機会が増えている。その中で、「固定種」という代々受け継がれてきた種で育つ野菜にこだわり、価値を生み出し、畑からおいしさを伝えてくれているのがWE ARE THE FARMだ。

寺尾さんの「料理は畑から始まっている」という言葉にあるように、自分の口に入れるものが、どこから来て、どのようにして作られているのか?考えてみるのもいいかもしれない。

2022年4月25日(月)、サステナビリティのフレームワークに「地産地消と旬の食材の推進」を掲げるSRAが主催で、農業しながら飲食店を営むゲストを迎え、ウェビナー【農業しながら飲食店を経営する3人と「ほんとうの地産地消」を考える(SRA-J)】を開催する。

地産地消には多くのメリットがある一方で、流通段階でのハードルや、都市部での実現の難しさもある。そうした課題に取り組む三者三様の事例から、地産地消の可能性に触れてみてはいかがだろうか。

SRAイベント

Image via WE ARE THE FARM

■ イベント概要
開催日時 2022年4月25日(月)15:00~16:00
講師 ・株式会社KIMIYU Global 代表取締役 松本達也氏
・株式会社ALL FARM 取締役副社長兼農場長 寺尾卓也氏
・kiredo 代表 栗田貴士氏
・一般社団法人 日本サステイナブル・レストラン協会 代表理事 下田屋毅氏
参加費 無料
タイムテーブル 19:30- イントロダクション
・15:00- SRA-Jが地産地消を評価する理由
・15:05- 「株式会社ALL FARM」の取り組み
・15:15- 「株式会社KIMIYU Global」の取り組み
・15:25- 「kiredo」の取り組み
・15:35- パネルディスカッション
・15:50- Q&A
開催方法 Zoomを使用したウェビナーでの開催となります
Zoom参加 Peatixより申し込みください
▷Peatixページ:https://foodmadegood-webinar-no13.peatix.com/

【参照サイト】店舗リスト|株式会社ALL FARM
【参照サイト】WE ARE THE FARM赤坂店
【参照サイト】日本サステイナブル・レストラン協会
【参照サイト】「モチベーションを育む! サステナブルな飲食店の従業員教育」SRA-J ウェビナー 2021/3/1
【参照サイト】農林水産省|日本の食料自給率

Edited by Erika Tomiyama

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