ハレだけでなく“ケ”を楽しむ。蒜山の循環レストラン「ケナル」【FOOD MADE GOOD #17】

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「SDGs未来都市」に選定された岡山県真庭市の蒜山(ひるぜん)高原に、2023年3月で1周年を迎えた『トラットリア ケナル』(以下、ケナル)はある。

運営会社はサンマルクホールディングスの新事業会社、サンマルクイノベーションズであり、初の「サステナブル」を主軸としたイタリアンレストランだ。2022年11月14日に東京・大手町で開催された「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」において、中四国初の3つ星レストランとなったのが、ケナルだ。

食のあり方や、飲食業界のあり方を変えていくため、より多くの飲食店・レストランがサステナビリティに配慮した運営ができるよう支援している日本サステイナブル・レストラン協会(以下、SRA)による連載シリーズ「FOOD MADE GOOD」。第17回目の今回は、ケナルの店長である榎本さんに、大手チェーン店が新しく挑戦する、誰ひとりも取り残されない、サステナブルなレストランの誕生までの歩みと、実際の取り組みを聞いた。

話者プロフィール: 榎本育恵(えのもと・いくえ)さん

宮本芳彦氏1989年大阪府出身。高校卒業後、長野県で就職。4年後に大阪へ帰省し色々な職業を経験。両親がたこ焼き屋を営んでいたのもあり、飲食に興味を持つ。23歳からアルバイトとして飲食の世界に入り、仙台でラーメン屋の立ち上げ・お好み焼き・たこ焼き・イタリアンバル・天ぷら・給食調理さまざまなジャンルを経験。昔から1から何かを作り上げていくことに興味があり、サステナブルレストラン・SDGsという言葉に惹かれ、2022年1月に株式会社サンマルクイノベーションズに入社。

ハレの面だけではなく、蒜山の日常=ケの部分を知ってもらいたい

日本有数の観光地である「蒜山高原」。岡山県の県北の真庭市にあり、鳥取県との県境に位置する。真庭市は、持続可能な開発目標SDGsの達成に向けた優れた取組を行う都市として全国29都市の「SDGs未来都市」に認定されている。

ケナルには「ケ」という文字だけが書かれた印象的なサインがある。日本では、古来より祭礼や年中行事などを行う特別な日を「ハレ」。普段通りの日常を「ケ」とし、日常と非日常を使い分けてきた。ケナルは、観光で感じられるハレの面だけではなく、「蒜山の日常=ケ」の部分を知ってもらいたいという思いから「ハレとケ」をコンセプトに、食品ロスゼロを目指した店舗運営を実施している。

榎本さんは、「蒜山は観光客が多く来る場所(ハレの場所)だが、ケナルは日常の中にあるいつもの場所(=ケ)として存在したい。蒜山で暮らす人々、蒜山の大自然の恵みを提供しながら、共にお店を育てていきたい」と話す。

ケナル

「本格的なイタリアン料理」と「店舗オペレーション」という対極にあるものを両立

サンマルクグループにおいて初めての挑戦である「サステナブルなイタリアンレストラン」のオープン。その道のりは平坦なものではなかった。調べていくなかで、「日本サステイナブル・レストラン協会」に行き着いたそうだ。そこで知人から紹介されたのが、サステイナブル・レストラン協会の評価基準で3つ星を獲得した国内第1号店である兵庫県芦屋市のイタリアンレストラン「BOTTEGA BLU.(ボッテガブルー)」の大島隆司シェフだった。

気付いたら食品ロス「ゼロ」に。兵庫芦屋のイタリアンBOTTEGA BLUE【FOOD MADE GOOD#1】

大島シェフの料理は、食材の良さを最大限引き出し、余すことなく使い切り、かつ料理の美味しさを比例させていくところにある。できるだけ地元のものを使い、添加物を使わない。そして人との繋がりを大切にしているので、自ら生産者に会いにいき、食材を選ぶことでトレーサビリティを実現している。

しかし、大島シェフが考案するメニューは、チェーン店で扱うメニューとは大きく異なる。チェーン店ではオペレーションを重視する傾向にあるので、誰でもスピーディーに料理を提供できるということが重要視される。大島シェフのメニューはソースもゼロからスタッフが作っており、2時間ゆっくり火入れして水分を飛ばすということもある。

「本格的なイタリアン料理」と「店舗オペレーション」という対極にある二つを両立させていくことに頭を悩ませたという。しかし、どんなときも「どうすればよりサステナブルになるのか」をスタッフ全員で考え、試行錯誤することで二つを実現する工夫をしているという。

ケナル

地元で育ったものを、その地域で消費する大切さ

ケナルでは地産地消の食材を存分に味わうことも出来る。卵はアニマルウェルフェアを考慮した岡山県産の平飼い卵。乳製品は地元蒜山の蒜山ジャージーを取り入れるなど、積極的に地元・国産の食材を使用している。

「地元で育ったものを、その地域で消費するということは、資源の保護にも繋がると考えている」と榎本さんは語る。大変さはないのだろうか。

「もちろん自然なものなので、例えば平飼い卵は夏と冬では見た目も味も全然違います。ケージで育った卵は餌の量も全て管理されて決まっていますが、平飼い卵は違います。夏は走り回り、喉が渇くので水分を多くとる。その影響か、夏は卵の味が薄く感じるんです。なので、夏と冬でレシピも同じとはいきません。季節に合わせて、素材の状況に合わせて調整が必要なところが大変な面ですね」

循環を意識したお店作り

ケナルの店内で目を引くのが、あらゆるところに使用されている木材だ。テーブル、ベンチ、テラス、そして上を見上げると天井にまでさまざまな木材が使われている。それらの木々、一つ一つにストーリーがある。「繰り返し使えるか」、「自然に還すことができるのか」、「廃棄されるはずだったものを活用できないか」、そんな視点から選ばれた木々たちなのだ。

ケナル店内

一際存在感のある天井の丸棒は、2020年の東京オリンピックで使用する予定だった木材だ。コロナ禍で規模が縮小してしまい、不要になったものを再活用しているそうだ。店内に置いてある大きな丸太のベンチも、あえて最低限の加工しかしないことで、発生するCO2を減らし、廃棄部分も減らす工夫がされている。

また、スタッフが着用しているオリジナルユニフォームはバナナデニムという生地を使用。毎年大量に焼却処分されているバナナの木の繊維を使用したデニムがバナナデニムであり、岡山県・児島にある株式会社ジャパンブルーが開発している。

ケナル

バナナ繊維は天然繊維の供給量を増やす第四の繊維として注目されている素材だ。また、エプロンの深い茶色は、コーヒーの出涸らしを捨てずに染料として使用しており、廃棄物を減らす工夫が至る所にされている。

掲げる目標は、食品ロスゼロ

ケナルは、「FOOD MADE GOOD Japan Awards 2022」で、部門賞として環境賞を受賞した。「廃棄物ではない、価値のある資源である」という考え方に基づいて、廃油は有限会社エコライフ商友のBDF事業(バイオ・ディーゼル・ヒューエル)へ還元し、野菜の端材はブロードの出汁に再利用、食べ残しやコーヒーかすのたい肥化など、廃棄物を出さずに資源として活用することを実践している。

また、食品ロスを防ぐ取り組みとして、食べ残しチェッカーを導入し毎日食品廃棄量をお店で計測、独自のシートに食べ残しの量と内容を記入し、可視化している。可視化して食べ残しの量が減った1つの具体的な事例として、「フォカッチャの食べ残し」があると言う。オープン当初はフォカッチャの食べ残しが、1か月の食べ残しの中で8割を占めるほど多かったそうだ。オープン当初はメインのパスタと一緒に提供していたそうだが、なぜフォカッチャの食べ残しが多いんだろうと、大量の食べ残しを目の前にしスタッフのみんなで考えたそうだ。

「メイン料理であるパスタを食べてしまった後に、フォカッチャを食べようとしても、パスタにボリュームがあるからおなかいっぱいで食べられないのではないか」と想像。「パスタより先に提供してしまえば、食べてもらえるかもしれない」と仮説を立て、フォカッチャの提供時間を、パスタより先の、サラダや前菜と同じタイミングで出すよう早めた。その結果、フォカッチャの食べ残しの量が大幅に減ったそうだ。

榎本さんは、「普段の業務を行いながら、毎日毎日食品廃棄量を計ることは簡単なことではありません。しかし、スタッフと共にどうすればよりサステナブルになるのかと常に考えています」と話す。

出汁をとった後の野菜の端材やお客様の食べ残しは畑の堆肥に、卵の殻とあさりの殻は、飼育している烏骨鶏の餌になり、生ごみ0・食品ロス0を実践している。

「牛乳パックのリサイクルも行なっていますが、どうすればいかに手間をかけずにやれるか、 YouTubeから簡単にパックを開ける方法を見つけ、なるべく面倒にならないように工夫しています」と楽しそうに話す榎本さんが印象的だった。

編集後記

サンマルクホールディングス初の「サステナブル」を主軸としたイタリアンレストラン、ケナル。効率を追い求める大手外食チェーンが、取り組むサステナブルなレストラン。いったいどのような取り組みを行っているのだろうか?本当に出来るものなのだろうか、正直最初は半信半疑だった。しかし、実際には大きくイメージを覆させるものだった。

蒜山という地域コミュニティにおよそ10年通い、丁寧に関係性を構築。地域に根ざしたサステナブルなレストランを作るコンセプト作りから、建築、メニュー開発、全てにおいて想いが詰まったこだわり抜いたレストランだった。

効率性という点から行くと、逆走しているように感じられるサステナブルだが、スタッフ一人一人がどうすれば両立するのかと試行錯誤しながら今のケナルをつくっている。こういった挑戦的な取り組みは、サンマルクホールディングスの他の飲食店にも影響を与え、日本の外食産業、そして日本のフードシステム全体を大きく変えていく一歩となっていくように感じた。

【関連記事】2022年版、日本をリードするサステナブルレストランまとめ【FOOD MADE GOOD 特別番外編】
【参照サイト】トラットリア ケナル
【参照サイト】ケジャーナル

Edited by Erika Tomiyama

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