家庭ごみの3割を占めているといわれる、生ごみ(※1)。生ごみはその約80〜90%が水分であり、処分には多くのエネルギーを必要とする。このため、大量の化石燃料を必要とし、また燃焼効率を上げるために炉の中には、プラスチック廃棄物をくべて焼却しているのが現状だ。
エネルギー効率が悪く、環境負荷が高いといった多くの問題を抱えている生ごみ処理。しかし今、そうした生ごみを「資源」として堆肥化させ、土壌改良に役立てることで問題ではなく「解決策」に変えようという動きが世界で進んでいる。
そんな気候変動緩和と食の持続可能性向上のために日本でうまれたのが、「生ごみを焼却しない社会を2030年までに実現する」をミッションとする共同体「生ごみ焼却ゼロプラットフォーム」だ。
半径2km圏内での栄養循環を目指し、都市型のバッグ型コンポストを普及・継続支援する「ローカルフードサイクリング株式会社」(以下、LFC)代表の平由以子氏と、地域・自治体および事業者におけるゼロ・ウェイストに対して伴走する「一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン」(以下、ZWJ)代表理事の坂野晶氏、そして循環型社会の実現を目指すサーキュラーデザインファーム「株式会社fog」(以下、fog)代表の大山貴子氏が共同で設立した。
「家庭ごみの3~4割を占める生ごみの削減と循環の仕組みづくりは、日本における廃棄物削減、資源循環、脱炭素推進のどの文脈からみても急務です」
そう話すのは、ZWJの坂野氏。同プラットフォームでは、資源を有効利用するための適正な手法の情報提供や、評価、提案を3社から学ぶことができ、その中で「2030年、生ごみ焼却ゼロ」を実現していく。食品系の企業・地方自治体・食品残渣を排出している現場関連(社員食堂、レストランなど)や、家庭向けにコンポストを普及する活動をしている団体などが登録可能だ。
今回は三社の代表と、同プラットフォームフェローの小田一枝氏に世界・日本の生ごみ処理の動きや、今後の展望などを聞いた。
燃やさなかった生ごみの量を「可視化」することが第一歩
三社で顔合わせをしたのは2019年のこと。LFCの「栄養循環」、ZWJの「ゼロ・ウェイスト」そして、fogの「循環型社会の実現」という、それぞれ目的を持って、これまで長年環境課題に取り組んできた三社。地球温暖化をはじめとした環境の悪化の加速化に対し、得意分野を活かしながら協業することにより推進力を高めることができるのではないかと考え、LFC平氏の呼びかけにより生ごみ焼却ゼロプラットフォームの発足に至った。
同プラットフォームの具体的な活動として「生ごみ資源化データ量の回収と報告」、「総量/ソーシャルインパクトのシェア」、「カンファレンスの開催(年1〜2回)」「学習会(隔月)」を予定している。また、会員になると「会員同士での情報交換や取り組みの情報発信」や、「同プラットフォームが提供する情報へのアクセス」、「プラットフォームとして全国での生ごみの資源循環の実績積み上げと共有」、「同プラットフォームが主催するイベント等への参加」が可能となる。
「最終到達点は、日本全国の生ごみ焼却をゼロにすることです」
この目標に至るプロセスで欠かせないのが、燃やさなかった生ごみの量を測って可視化することだという。現在、生ごみ焼却ゼロプラットフォームではすでに堆肥化などの取り組みをしている団体に声をかけ、それぞれの計測値を集計している。
現在地を知ることは、何を始めるにおいても大事なことだ。焼却しなかった生ごみの量を知ることで、計測値の伸びを知ることができる。現時点で数量的な中間目標は設けていないが、今後はなんらかの値を提示していくことを検討しているという。
「生ごみの処理方法を変えていこう」という国際的な流れ
現状、日本では生ごみの「焼却処分」があたりまえとなっているが、実は世界的にみると焼却処分は稀で、「埋め立て処分」が中心となっているという。
しかし、埋め立て処分にも大きな問題がある。その一つが埋め立てることによって生成される大量のメタンガスが、今世界で問題視されているのだ。昨年11月にグラスゴーで開催されたCOP26では、アメリカの声掛けでメタン排出を抑制するという宣言「Global Methane Pledge」が出された。そうしたことを背景に、世界では生ごみの埋め立て処理で発生するメタンガスを再利用したり、堆肥化したりする方向に次第に切り替わっているのだ。(※2)
さらにここ数年で国際機関などから次々に発表されているのが、「土壌改良をすると空気中の二酸化炭素の吸収量が上がる」という事実で、ここに世界中の金融機関が注目するようになってきているという。(※3)
土壌改良とは、劣化した土地を再生することであり、それに欠かせないのが微生物だ。堆肥は多くの微生物を含んでおり、化学肥料や農薬によって劣化した土壌を再生したり、劣化に伴う植物の炭素吸収量減少を食い止めたりすることも可能だ。生ごみ焼却ゼロプラットフォームでは、生ごみが本来持っている「堆肥」としての機能に注目している。
「堆肥は有機廃棄物から生み出されるもので、よくイメージされる肥料は堆肥ではありません。肥料のほとんどは鉱物などから作る化成肥料で、微生物はいません。世界が注目する土壌改良の要は、実は私たちが捨てている生ごみからも作ることができるのです」と、同プラットフォームフェローの小田さんは話す。
土壌改良は今や、再生可能エネルギーに比肩するほど注目度が高い炭素吸収の手法にまでになっており、地球上の炭素吸収量を飛躍的に増加させるカギにもなっているのだという。
日本の生ごみ脱焼却処分の流れ
一方、日本では生ごみに関してどのような動きがあるのだろうか。小田さんは、日本の現状を以下のように説明する。
「日本も生ごみの焼却をこのまま続けることを、政策上も是としていません(※4)。脱炭素の文脈からも、循環型社会移行の文脈からも、また、有機農業を促進するという農業政策の観点からも生ごみの単純な焼却処分からの脱却は求められていく流れです」
「しかし、廃棄物の施策はそのほとんどが自治体マター。生ごみが堆肥となれば、そこからはごみではなく有価物となり取り扱いの法律が変わるという仕組み上のややこしさがあるため、トップダウンで変えていくことに大きな時間がかかることが課題です」
生ごみ焼却ゼロプラットフォームは、こうしたトップダウンで埋められない、草の根の活動を束ねて見える化し、促進していくことを目的としているのだ。
私たち一人一人の心がけと行動によって着実に成果を生み出すことができる
最後に、今回の提携にあたって三社代表からコメントをいただいた。
LFC・平氏「互いの活動に共感した私たち三社が、焼却ゼロを目指しはじめました。そして、協業により達成できるという未来を見ています。地球の生命の危機は、もう迷っている暇も、悩んでいる暇もありません。本事業で、生ごみ資源化に取り組む多くの組織が理解し合い、一緒に達成する数値や目標を共有すること。まだ取り組んでいない人々が、すぐにでも導入できるような事例を出していけたらと思います。小さいけれど、大切な取り組みであることの評価や、まだ見ぬ新たな価値を生み出していけると期待しています。生ごみの栄養が本来の土に戻り、日々の暮らしでの適正化をつくっていきたいと思います」
ZWJ・坂野氏「日本のリサイクル率が20%以下と、OECD加盟国内で圧倒的に低いことは有名ですが、その要因は水分を多く含むがゆえに重量加算が大きな生ごみを資源化せず焼却処分していることにあります。自治体や地域社会と廃棄物削減と資源循環のしくみづくりに取り組む中で、この生ごみへの施策をメインストリームにしていく必要性を強く感じていました。私自身にもゼロ・ウェイスト・ジャパン単体にも、生ごみの堆肥化などに特化したプロフェッショナルな知見はありませんが、今回協働する二社をはじめ、全国で多くの方が取り組んできた知見を、着実にこれから始めようとする自治体や地域の推進力に変えていくことは出来ると考えています。着実な前進の一歩が見え、今本当にワクワクしています!」
fog・大山氏「土壌から生産されたものをごみとして焼却するのではなく、資源として有効的に活用する。生ごみ焼却ゼロは、社会構造を変えるといった骨を折ることではなく、日常生活において私たち一人一人の心がけと行動によって着実に成果を生み出すことができる取り組みです。立ち上げの三人は発起人でありつつも、主体はこのプラットフォームに参加する全ての団体であると考えています。みなさんとともに生ごみ焼却ゼロに向けた叡智を持ち寄り、共同体として気候変動の抑制にむけて大きなインパクトをもたらしていきたいです」
編集後記
「よく考えれば気づくことですが、土は微生物など有機物の塊です。今、私たちはそこから生み出された食べ物を、循環させずに燃やしてしまっている。小学生でもわかる『それって変だよね』という感覚を軸にし、ループを閉じるあたりまえを作り出していきたいと思っています」
フェローの小田さんの言葉だ。本来、自然界に廃棄物という概念は存在しない。土から生まれたものは、決して燃やして「無かったもの」にされるべきではなく、循環させて自然界にまた還すべきものなのではないだろうか。
LFC、ZWJ、fogの三社がつながり、そこにまた多くの企業や団体が参画してインパクトを大きくしていくことで、”ループを閉じるあたりまえ”が社会に浸透していく。興味のある方は、生ごみ焼却ゼロプラットフォームに参加してみてはいかがだろうか。
※1 生ごみ資源化と活用に関する住民アンケート調査報告書(上田中央地域協議会)
※2 Global Methane Pledge
※3 New investor guide to negative emission technologies and land use
※4 廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)
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【参照サイト】脱炭素・資源循環を推進する、市民・企業・自治体参加型「生ごみ焼却ゼロプラットフォーム」発足
【参照サイト】生ごみ焼却ゼロプラットフォーム