医療の進歩によって、私たち人類の平均寿命は右肩上がりに伸び続けている。その一方で出生率は下がり続けており、少子高齢化社会に向けた動きは世界的に顕著になってきている。そうした中、近年問題となっているのが家庭内で身内の介護をする「無給ケアワーカー」の存在だ。
1990年代から無給ケアワーカーが知られるようになったイギリスは、地域規模での社会的ケアが早々に確立し、こうした問題における先進的立場にある。しかし、イギリス国内には依然として880万人もの無給ケアワーカーが存在し、さらにそうした人々の半数近くが過去5年間一度も休暇を取れていないとして問題視されている。
そんな現状を解決するプロジェクトとして、イギリスの慈善団体「Carefree」は、無給ケアワーカーが宿泊施設の空室に無料で泊まれるプロジェクトを始めた。
同プロジェクトは、18歳以上のフルタイム(週30時間以上)で無給のケアワークをしている人々が対象。宿泊施設にはホテルとコテージがあり、ホテルの場合は登録者と同伴者1名、コテージの場合は追加で扶養家族の子供2名までが無料で宿泊できる。ケアワーカーが休んでいる間は、連携するコミュニティパートナーが、ケアが必要な人々のサポートを行うという。
なお、交通費や食費、旅行保険といった宿泊費以外の費用は自己負担となるため、全てが無料というわけではないが、日頃休みの取れないケアワーカーにとって、こうしたひとときのバケーションが大きな意味を持つことは想像に難くない。実際、利用者の98%はウェルビーイングが向上したと回答している。他者をケアする立場から離れ、1人で散歩をしたり、音楽を聴いたりすることは、自分自身のケアに繋がる大切な時間となるのである。
この取り組みの背景には、イギリスが抱える宿泊施設の課題も大きく関与している。同団体の調べによると、国内のホテルには毎週100万室もの空き室があり、さらには何千もの休暇用コテージが一年の半分も使用されていないという状態であった。Carefreeはそうした宿泊施設の課題にもアプローチし、使われていなかった施設を、最もケアを必要とする人たちへと届けられるようになったのである。
現在の登録施設数は81にまで達し、サービスの利用者は1,000人を超えている。同プロジェクトは、フルタイムで働く無給ケアワーカーの誰しもが気軽に休暇を取得できる未来を作ろうとしている。さらに長期的なビジョンとしては、介護における責任意識を社会全体で共有し、介護を「私たちが抱える問題」ではなく「私たちの生活に不可欠なもの」として捉え直すことを掲げている。
少子高齢化社会の先頭に立つ日本にとって、家庭内介護をはじめとした無給ケアワーカーは切迫した問題となっている。特に最近では、家族の介護を余儀なくされるヤングケアラーが話題に上がることも増えている。
無給ケアワーカーになる、またはそうした助けが必要になる可能性は、現代に生きる私たち全員に当てはまる問題なのである。ケアワーカーのケアは誰がしてあげられるのか、Carefreeの活動にその答えの一つを見つけた気がする。
【参照サイト】Carefree
【参照サイト】Fertility rate, total (births per woman) – THE WORLD BANK
【参照サイト】ヤングケアラー支援の先進地イギリス ソール・ベッカー教授に聞く
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Edited by Tomoko Ito