いつかは必ず訪れる死。家族、友人、同僚など身近な人が亡くなってしまうのは、とても寂しく、つらい経験だろう。一方で、死について話すことがタブー視されている影響もあり、離別の悲しみとの向き合い方を事前に学ぶ機会はあまりない。そのため、突如として死に直面し、動揺してしまう人も多いのではないだろうか。
そんな中、スペイン・バルセロナでは死との向き合い方を考える教育キットが市内の学校へ提供されることとなった。「悲しみの教育バッグ(La Maleta Pedagògica del Dol)」と呼ばれるこの教材は、 14~18歳の子どもたち向けに開発されており、2025年度から教育現場で活用される予定だ。
バルセロナ墓地とユネスコ宗教間対話協会(AUDIR)によって開発された教材は、「死を悼む」ことを教育現場で考えるキットだ。さまざまな宗教的伝統や非宗教的信念を持つ人々の視点を含めて開発され、死の悲しみに対処する方法を考え、死との多様な向き合い方を学ぶことを目的にしている。
「悲しみの教育バッグ」は①幅広い視点からの「人生」、②宗教の多様性と死に関連する儀式、③死を悼み弔うこと、④日常生活とお墓、という4つのテーマに焦点を当てた構成だ。③死を悼み弔うことについての内容が最も詳しく記載されており、死を経験し、理解することについてじっくり考えることができる。また死に関する文化的・宗教的な違いを尊重しながら探求し、異文化理解も促す。

編集部作成|Image via Servei de Premsa
またこの教材を活用し、死との向き合い方を考えることは、精神的な豊かさを育て、メンタルヘルスのケア方法を学ぶことにも寄与するという。人間関係のトラブルをはじめとした「喪失」に伴う悲しみや痛みの対処方法としても活用できるように設計されているそうだ。
多忙な教育現場では学問的成功が重視され、共感することや感情表現などを学ぶ「感情教育」は後回しにされることも多い。しかし、この教材は人生において最も重要な感情のひとつである「悲しみ」を掘り下げようとしている点で、画期的だ。教材には、授業で活用できるアクティビティなどの解説があり、教師用のサポートもついている。
バルセロナでは、「悲しみ」以外にも多様なテーマの教育バッグが提供されている。例えば「サステナブルな月経バッグ」には、月経について学ぶ教材だけではなく、吸水ショーツや月経カップが含まれている。また「気候変動バッグ」には、遊びながら学べるゲームや実験道具などがある。
進学や就職を見据えて、良い成績を取る学問的な成功が重視されがちな現代の教育。しかし、学問以外にも、たくさんのことが学べるのが学校の素晴らしい点だ。より多くの子どもたちが心豊かに生きられるよう、「悲しみの教育バッグ」をはじめとした教育ツールがさらに活用されることを期待したい。
【参照サイト】Cementiris de Barcelona i l’Associació UNESCO per al Diàleg Interreligiós oferiran la Maleta Pedagògica del Dol als centres escolars de la ciutat aquest 2025
【参照サイト】Maletas pedagógicas
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