日本のサーキュラーエコノミーの現在地と未来。経済産業省・羽田氏に聞く

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2020年5月に経済産業省(以下、経産省)が日本の循環経済の道標と位置付ける「循環経済ビジョン2020」を公表してから、すでに2年が経過した。その間、日本では2020年10月に政府が2050年までのカーボンニュートラルを宣言し、2021年1月には経産省が世界初となるサーキュラーエコノミーに特化した企業と投資家等の対話・開示ガイダンスとなる「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス(開示・対話ガイダンス)」を公表した。

そして同年3月には経産省・環境省・日本経済団体連合会(以下、経団連)による循環経済パートナーシップ(J4CE:ジェイフォース)が設立され、2022年4月にはプラスチック資源循環促進法が施行されるなど、この2年で日本のサーキュラーエコノミーを取り巻く環境は急速に変化してきた。

そのようななか、経産省は2022年5月に開催された産業構造審議会総会のなかで新たに「成長志向型の資源自律経済の確立」という考え方を打ち出した。コロナ禍やウクライナ侵攻など国際情勢の変化により物資や資源の供給リスクが高まり、今後も世界人口や資源利用の増加が見込まれるなか、特定の国に対する物資や資源の依存率を下げ、より自律的で強靭な循環経済システムを構築し、日本モデルの技術・制度・システムの海外展開などを通じて、他国にとっての不可欠性の確保、国際競争力の向上と持続可能な成長を目指すという考え方だ。

2020年からの2年で日本のサーキュラーエコノミーを取り巻く環境はどのように変化し、どのような課題が見えてきているのか。また、経産省が提案する「成長志向型の資源自律経済の確立」の要諦とは何なのか。編集部では、日本のサーキュラーエコノミーの現在地と未来について、経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課長 羽田由美子氏にお話をお伺いしてきた。

日本のサーキュラーエコノミーの現在地

循環経済ビジョン2020の公表から約2年。羽田氏は、この2年間の日本国内におけるサーキュラーエコノミーの動きをどのように見ているのだろうか。

羽田氏「循環経済ビジョン2020では、3Rや廃棄物を減らしていくという環境活動に加え、経済活動として稼ぐモデルを考えていくという視点を盛り込みました。そしてその後に、開示・対話ガイダンスを公表したわけですが、その後の大きな動きはやはりプラスチック資源循環促進法です。国内でプラスチックの法律を作っただけではなく、国際的にもプラスチック汚染対策に関する条約交渉が始まるという意味でも大きなスタート地点になりました。」

2022年3月、ケニアの首都ナイロビで開催されたUNEA(国連環境総会)において175ヶ国がプラスチック汚染対策を目的とする国際条約に向けた交渉を開始することに合意した。この決議は2024年末までに条約案をまとめることを目指しており、実現すれば法的拘束力を持つ世界初のプラスチック条約となるため、環境分野においてはパリ合意以来の歴史的快挙になると評する声もある。

「また、それに伴い企業の動きも非常に加速していると感じます。特にプラスチックの分野は過去からの蓄積があり、リサイクルの技術や関連のビジネスモデルは既にあったと思うのですが、ここにきてさらに、プラスチックのケミカルリサイクル・マテリアルリサイクル等の実証や再利用に向けた新技術の研究開発、2019年に設立されたCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)などの企業間連携も目に見える形になってきています。さらに、企業間だけではなく、神戸市など自治体が旗を振って、競合の関係にある企業を巻き込む形でサプライチェーン全体での取り組みなども進んできています。」

経済産業省資源循環経済課 産業技術環境局 資源循環経済課長 羽田由美子氏

加えて、羽田氏は脱炭素の潮流もサーキュラーエコノミーの加速に大きな影響を与えたと話す。

「昨年のCOPで1.5度という目標が提示されましたし、日本もそれに先んじて2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。カーボンニュートラルに向けた具体的な道筋が見え、そのビルディング・ブロックとしてサーキュラーエコノミーが役に立てるということが改めて企業に認識されたというのは大きいですね。経産省ではGXリーグの下、カーボンニュートラル実現に向けたアライアンスを企業に呼び掛けているのですが、そこでもスコープ3のサプライチェーンを通じた排出量を下げるという点に多くの企業が興味を持っていただいています。」

長いようで短い2年だったと振り返る羽田氏。SDGsや脱炭素といった言葉と比較するとまだまだ浸透度は低いかもしれないが、政府による積極的なアクションと世界的な潮流が重なる中で、日本においても着実にサーキュラーエコノミーに向けた取り組みが前進した2年間だと言えるのではないだろうか。

J4CEの成果と見えてきた課題

f2年間の大まかな流れを振り返ったところで、省庁による具体的な取り組みについても見ていきたい。2021年3月に経産省、環境省、経団連の三者により設立された「循環経済パートナーシップ(J4CE)」は、2022年の4月に初年度の活動報告書を公表した。同報告書には、経団連の会員企業・団体を中心とする140件のサーキュラーエコノミー取組事例に加えて、4回にわたる官民対話の議論により抽出されたサーキュラーエコノミーへの移行に向けた課題が非常に分かりやすく整理されている。J4CEの一年の活動成果について、羽田氏はどのように見ているのだろうか。

羽田氏「プラスチックについてはCLOMAという団体もあり色々な企業が連携を始めていたのですが、何よりプラスチックにとどまらないサーキュラーエコノミーに関わる議論の場ができたという点が意義深いことだと感じています。サプライチェーン上の様々なライフサイクルの段階に関わる企業が一堂に会してみたら、企業が悩んでいることや課題は割と収斂していくというのは一つの学びでした。また、私たちは循環経済ビジョン2020の中でもサーキュラーエコノミーに事業戦略として取り組むことの重要性や、規制ではなく企業自身がどのようにストーリーをつくり、ESG投資を呼び込むかという点がとても大事だと思っており、そうした対話を企業と投資家等とが参加する場でできたというのも大きかったですね。」

羽田氏によると、まだまだ啓蒙フェーズとはいえ、金融機関も少しずつサーキュラーエコノミーに興味を持ち始めており、J4CEの活動について個別の問い合わせも来ているとのことだ。実際に、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険が今年の4月1日からプラスチック資源循環促進法に基づく環境配慮設計の認定を取得し中小企業等に対して、一部の賠償責任保険の保険料の割引制度を導入すると発表するなど、金融機関の中でも脱炭素に加えてサーキュラーエコノミーへの移行を後押ししようという動きが生まれつつある。また、リコー株式会社は、日本企業初となる「開示・対話ガイダンス」に沿った形での報告書を2022年3月に公表した。

なお、活動報告書の中では「制度・ルール」「コスト・投資」「消費者・普及啓発」「ビジネスモデル・技術」という4つの視点からサーキュラーエコノミーへの移行に向けた課題が整理されているが、その中でも特に羽田氏が重要だと感じているのは「消費者・普及啓発」だという。

「消費者にどのようにサーキュラーエコノミーの価値を感じていただくかという点では、企業がそれぞれに声を上げるだけでは足りない、というご意見をたくさんいただきました。そのため、2年目の活動としては、カーボンニュートラルとの関わりという点を少しずつ可視化していきたいなと思っています。すでに自動車分野など政府も一緒になって進めている分野もありますが、1.5度という目標の下でカーボンフットプリントの視点から再生材やサーキュラーエコノミーの取り組みの価値が見えてくると、消費者やステークホルダーに対する分かりやすい指標になるのではないかと考えています。」

あらゆるステークホルダーの中でも企業に継続的に活動資金をインプットできるのは投資家・金融機関と消費者しかない。カーボンフットプリントの可視化や環境配慮設計製品の認定など、積極的にサーキュラーエコノミーに取り組んでいる製品をより正確に判断し、投資や消費行動を通じて支援できる環境を整えていくことは、企業にとっても大きなメリットとなる。

プラスチック資源循環促進法の出だしは?

2050年までのカーボンニュートラル宣言に加えて日本のサーキュラーエコノミーにおける大きな転換点となっているのが、2022年4月から施行されたプラスチック資源循環促進法だ。施行から3ヶ月が経過し、国内でも既に多くの企業や自治体による取り組みが出てきているが、政府は今後、プラスチックの環境配慮設計に関する認定基準を、製品分野ごとに定めていく予定となっている。羽田氏は現状の動きをどのように見ているのだろうか。

羽田氏「環境配慮設計については、法律が始まる前から様々な取り組みが生まれています。設計の認定についてはこれから製品分野ごとに認定基準を作っていくのですが、環境配慮設計に関する認定自体が国として初めてのこととなります。既に業界による環境配慮設計のガイドラインがある場合、そのガイドラインに沿って企業等が製品設計に配慮しているところがスタート地点となる訳ですが、ここからさらに一段進めると一体何ができるのか、製品分野ごとに業界団体等と話をしています。製品ごとに強度や衛生面など様々な製品機能に関する要請があるなかで、イノベーションを阻害しないように、また、製品の使われ方や廃棄・リサイクルのされ方にも配慮しながら案を作っていきたいと考えています。」

サーキュラーエコノミー実現の肝となるのは、やはり何といっても廃棄物を出すことなく、資源をできる限り高い価値を保ったまま長く循環させ続けられるような製品・サービスの設計だ。その意味で、環境配慮型設計の標準化および認定制度は、日本におけるプラスチックのサーキュラーエコノミーを加速するうえで大きな鍵を握る。今後の動きに注目したいところだ。

一方で、設計ではなく回収における取り組み状況はどうだろうか。プラスチック資源循環促進法の施行に先立ち、環境省が昨年に市区町村に対して実施したアンケートによると、回答した1,455団体のうち、すでにプラスチック製容器包装とプラスチック製品の廃棄物の一括回収・リサイクルに取り組んでいる自治体は31団体、一括回収後に熱回収等を実施している自治体は66団体、5年以内に実施を検討している自治体は85団体だった。

羽田氏「東京の渋谷区など新たに市区町村でも一括回収が始まる自治体がありますが、まだ数はそれほど多くありません。市区町村の廃棄物の回収や、住民の方々への周知など色々な要素があり、また、コスト面が大きいと感じている自治体も一定数あるようです。先んじて取り組む自治体の学びを展開しながら、徐々に広げていきたいと思います。」

「また、企業による自主回収についても認定を受ける仕組みがあります。認定を取得したいと、様々な企業からご相談を受けるなかで、運送コストの課題が見えてきています。どのように安全や衛生を守りながら効率的に資源回収をするかという点は今後の課題です。物流の2024年問題(ドライバーの時間外労働規制により物流業界全体が人手不足に陥ると予測されている)も影響を与えると思われます。」

羽田氏によると、自主回収については、企業によるサーキュラーエコノミーの取り組みが始まるなかで、再生材の品質を担保したいという企業の動機が強いという。

「設計、生産時における品質保証の観点から、ポストコンシューマーの素材を何でも利用するのではなく、クローズドで回収したいというのが自主回収のひとつの原動力となっているように思います。製品側での再生材の使用基準や、再生材の市場をつくる、というのもまだまだこれからですが、市場化が進んでいく過程ではある程度素材のランク化に向けての課題も考えていく必要がありますね。」

プラスチックの回収やリサイクル、再生材利用によるコストの増加を誰がどのように負担するのか、という点が大きな課題となっている中では、環境配慮設計の認定製品の公共調達による市場づくり、企業同士の連携による規模の経済による回収コストの削減、消費者への啓蒙による付加価値の訴求など、様々なアプローチを同時並行で進めていく必要があるだろう。

国際情勢の変化を踏まえた「成長志向型の資源自律経済の確立」とは?

サーキュラーエコノミーと聞くと、前述のように脱炭素やプラスチック廃棄物の削減など環境面へのインパクトに焦点が当てられがちだが、いま、世界では刻一刻と変化する国際情勢の中でもう一つの新たなコンテクストが加わろうとしている。それが、物資や資源の供給リスクに対処する手段としてのサーキュラーエコノミーという視点だ。

2022年5月に開催された産業構造審議会総会において、経産省は「循環経済ビジョン2020」の具現化に向けた基本的な考え方として「成長志向型の資源自律経済の確立」という概念に初めて言及した。

背景には、コロナ禍やウクライナ情勢など国際情勢の急激な変化により世界的に物資や資源の供給リスクが高まっていることに加え、今後も新興国を中心に人口や資源消費量の増加が見込まれるなか、物資や資源の供給を特定の国に依存し続けることは中長期的に経済の脆弱性を高め、国際競争力の低下につながるという危機感がある。

そのため、日本においては物資や資源の完全な自立や自給は現実的ではないものの、国際的な供給途絶リスクを可能な限りコントロールし、経済の強靭化を進める。また、そのために汎用的な工業用品や消費財も射程に含めた資源循環経済政策の再構築などにより、日本モデルの技術、制度、システムを海外展開につなげることで、他国にとっての不可欠性の確保、国際競争力の向上と持続可能な経済成長を実現する、というのがその趣旨だ。

羽田氏は、この「成長志向型の資源自律経済の確立」という概念についてこう話す。

「物資や資源の供給制約については、半導体の供給不足などは長期化しており、日常生活にも影響が出てきています。全ての物資や資源を備蓄したり、リサイクルしたりすることは難しいとしても、特定の国に依存しているような物資や資源、リサイクルの技術開発が検討可能なものについては、経済の強靭化のために資源循環経済の『高度化』を積極的に考えていくべきだと考えています。ただ、成長志向型の資源自律経済の確立に向けては、資源循環経済政策の再構築を中心に、自律性や不可欠性の観点から、より広範な物資や資源を射程に入れて政策設計を考えていく必要があると考えています。」

経済安全保障を目的とする半導体やレアメタル等の一部の物資や資源の戦略的自律性や戦略的不可欠性、環境負荷低減を目的とする3Rや廃棄物対策ではカバーされない幅広い領域に対する供給リスクも踏まえたうえで、新たな資源循環経済のありかたを描く必要がある、ということだ。

具体的には、どのような領域、分野における取り組みが検討されていくのだろうか。経産省では、成長志向型の資源自律経済の確立の鍵となるモデルを下記の4類型に整理している。

  1. 資源の再利用・再資源化(1×n)
  2. 資源の生成(0→1)
  3. 資源の共有(1/n)
  4. 資源の長期利用(1+n)

「資源の再利用・再資源化(1×n)」は、設計段階からリユース・リサイクルを前提とする製品の普及や回収・選別・リサイクル技術の高度化などによる低コストかつ高水準の資源循環率の達成を目指す。また、「資源の生成(0→1)」は、バイオものづくり技術による輸入資源に頼らないプラスチックや繊維などの高品質・低環境負荷の素材・製品の生産、「資源の共有(1/n)」は自動車や宿泊サービスなどに留まらないシェアリングエコノミーの拡大、そして「資源の長期利用(1+n)」は服飾品や住宅などのレストア、リメイク、リノベーションやセカンダリー市場の発展が想定されている。

バイオものづくり分野への投資を拡大することで、これまで輸入に依存していた資源を国内で代替できる可能性があるといった見方は、環境視点でその価値を語られることが多いサーキュラー・バイオエコノミーの分野に新たな文脈を与えている。

なお、世界情勢が急速に変化するなか、環境対策だけではなく経済安全保障や経済の強靭化の観点からもサーキュラーエコノミーへの移行を加速させようとする動きが起こっているのは、日本だけではない。

欧州では、欧州委員会が2020年3月30日にウクライナ情勢なども踏まえたうえで「持続可能な製品を規準とし、欧州の資源独立性を高めるための新提案」として、エネルギーや資源依存から脱却し、外的影響に対してより強靭なサーキュラーエコノミーへの移行を実現すべく一連の措置を提案している。

また、中国も2021年7月に資源供給の不確実性を背景として、国内の資源循環体制構築と2060年までのカーボンニュートラル実現に向けた「循環経済の発展に関する第14次5ヶ年計画(2021-2025年)」を公表した。

各国や各地域が物資や資源の自律性を高め、できる限り域内で資源循環や調達ができる環境を整えていくことは、資源移動に伴う環境負荷の低減という意味でも望ましいことだ。一方で、こうした動きは各国の視点から見ると部分最適になるものの、世界全体としてはグローバルな経済が分断され、ブロック経済へと収斂していくリスクもあると感じるが、私たちはどのような資源循環のスケールを描いていくことが理想的なのだろうか。羽田氏はこう話す。

「通商政策的な観点で見ると、貿易を阻害するようなルールは望ましくありません。自由なイノベーションを通じてモノが行き来する経済のほうが全体としてのレジリエンスも高いですし、開かれた経済・社会の実現にもつながると思っています。一方で、資源循環に関しては、カーボンニュートラルを念頭に置くと、適した循環の場所や大きさがあるかもしれませんし、世界情勢に鑑みると資源自律経済のあり方も考える必要が出てきています。また、それは世界のどこにファシリティや技術があるか、という点にも左右されます。」

「例えば、有害廃棄物の移動を制限するバーゼル条約に日本も加盟していますが、途上国に対する廃棄物輸出には厳しい制限がある一方で、すでにインフラがある日本や先進国の間では、合理化されているところもあります。モノによって最適な循環の場所や大きさが変わってくることがあったとしても、インフラの所在を考慮に入れないと、最適なオペレーションが損なわれるという可能性はあるかもしれません。例えば、カーボンの観点では移動は短いほうがよいものの、リサイクルのインフラが弱い地域での不適切な処理が課題になっていたりするなか、責任ある形での処理・リサイクルが重要になります。」

最適な資源循環のループは、物資や資源の質・量やそれを処理できる施設や技術力の問題など、様々な要因によって変わってくる。グローバルレベルで最適なサーキュラーエコノミーを実現するためには、全ての物資や資源について域内における循環を優先させるということではなく、それぞれの実情に沿った形で一つ一つ丁寧に循環のループをデザインしていくことが重要となりそうだ。

サーキュラーエコノミーの役割

循環経済ビジョン2020では、「環境活動としての3Rから経済活動としての循環経済への転換」という大きな方向性が示された。一方で、現在の世界のサーキュラーエコノミーを取り巻く動向を見てみると、カーボンニュートラルの実現、コロナ禍によりさらに関心が高まった人々のウェルビーイングの実現、生物多様性の保全・再生、そして国際情勢に端を発する物資や資源の供給リスクへの対応など、サーキュラーエコノミーへの移行の必要性を説くナラティブは拡散しつつあるようにも感じる。こうした様々な視点に対し、羽田氏はサーキュラーエコノミーを全体の中でどのように位置づけているのだろうか。

羽田氏「サーキュラーエコノミー自体はあくまで手段だと思っています。サーキュラーエコノミーの追求により資源の利用量が少なくなる。それ自体は目的ではあるものの、カーボンニュートラルに反する資源の循環利用は難しいですし、生物多様性を損なってまでリサイクルをするのも難しい。一方で、資源循環という方法が役に立つ場面は増えていると思っており、以前であればそれは最終処分場の逼迫に対する対応だったわけですが、今ではサプライチェーンの寸断や物資や資源の効率的な利用などの視点から考えることができます。」

「また、経済安全保障の話もあるのですが、それ自体は対象が狭く限定された議論ではあります。経済安全保障では捉えがたい広い範囲において、たとえ完全な自立は難しいとしてもある程度自分でコントロールし、レジリエンスを保てるかという観点からも、循環的な物資や資源の循環利用という考え方が出てくるのかなと思っています。」

様々な文脈の中で語られることが多く、未だその目的や概念について一つの統一した定義があるわけではないサーキュラーエコノミーだが、昨今の国際情勢の変化が資源循環型の経済・社会システムへと移行する必要性に対する認識をますます高めていることは間違いない。

現在、世界ではサーキュラーエコノミーの国際標準化に向けたISO/TC323の検討も進められており、日本も議論に加わっているが、今後、サーキュラーエコノミーに関してどのような共通認識が形作られていくのかにも注目したいところだ。

まずは手を動かす

ここまで循環経済ビジョン2020公表以降の日本の動きと、今後の方向性についてご紹介してきたが、これらの流れを踏まえ、私たち一人一人や日本企業はどのような点に意識してこれからサーキュラーエコノミーに取り組んでいけばよいのだろうか。最後に、羽田氏よりエールの言葉をいただいた。

羽田氏「ぜひ、一緒に進めていきましょう。サーキュラーエコノミーへの移行の鍵は連携だと思っています。世界ではサーキュラーエコノミーを標準化しようとする動きが進んでいます。なるべく早めに考えて早めに手を動かしてみることで、大きなビジネスチャンスもあると思っています。私たちもこれから循環経済ビジョン2020を具現化していきたいと思っていますので、日常的に色々な企業の皆様と対話させていただきながら、課題や機会を可視化しながらサーキュラーエコノミーへのトランジションの絵姿を描き、その動きを大きくしていきたいですね。」

編集後記

2020年5月に公表された循環経済ビジョン2020。すでにこの2年間で様々な動きが起こっているものの、その具現化はこれからだ。経産省では、産業構造審議会総会での「成長志向型の資源自律経済の確立」の打ち出しを皮切りに、同ビジョンの具体化に向けて検討を始めるという。そして、そのビジョンを具現化できるかどうかは、紛れもなく私たち一人一人にかかっている。サーキュラーエコノミーの実現に向けて、企業人として、消費者として、投資家として、どのような立場にせよ私たちにできることはたくさんある。ぜひ、持続可能な未来に向けた新しい経済・社会システムをつくるという壮大なビジョンの実現にあなたも加わってみてはいかがだろうか?

【参照サイト】経済産業省「循環経済ビジョン2020
【参照サイト】経済産業省「第30回 産業構造審議会総会
【参照サイト】環境省「プラスチック資源循環
【関連記事】IDEASF FOR GOOD 「循環経済ビジョン2020」から紐解く、日本のサーキュラーエコノミーのこれから。経済産業省インタビュー

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。

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