突然だが、みなさんはバスタオルを購入してから廃棄するまで、どれくらいの期間使うだろう。数ヶ月?1年?2年?それよりもっと長く?
多くの人は、半年から一年で交換しているという。つまりは消耗品だ。ところが2022年5月、オーガニックコットンを使用し、風力発電で織るタオルメーカーIKEUCHI ORGANIC(イケウチ・オーガニック)が、タオルを「10年持たせる」とするメンテナンスサービスを開始した。
メンテナンスをしたとしても、頻繁に洗うタオルが果たして10年も持つのだろうか。そんな疑問と共に、サービス開始の背景を同社の代表の池内計司さんに伺った。
自宅での洗濯には、限界がある?
IKEUCHI ORGANICによると、そもそも、タオルは正しいメンテをすれば長持ちするものだという。まず、洗剤は石けんや天然油脂由来の液体洗剤を使用すると適度な油分が繊維に残り、風合いを保つことができる。
干すときは、よく振ることがポイント。さらに完全に乾く前に、陰に移動させると乾きすぎでゴワゴワになる事態を防ぐことができる。柔軟剤は、繊維をコーティングすることによって風合いを保とうとする一方、吸水性が損なわれるため、基本的にはおすすめできないそうだ(※1)。
同社ではこうしたタオルのメンテナンスについて、ウェブサイトを通じて情報発信をしたり、8年前に京都と東京にオープンした直営店で相談対応を行なったりしてきた。しかし近年、「教えてもらったようにやってもなかなかうまくいかない」とタオルの持ち込み相談が増えてきたという。
家の洗濯には技術的にも時間的にも限界がある。それに対し同社は、「せっかくいいものを作っても寿命が短くなってしまう」と考えたことから、今回のメンテナンスサービスを開始した。
メンテナンスの流れ
サービスの申し込みはウェブサイトから。対象はIKEUCHI ORGANIC製品のみで、バスタオルであれば7枚程度、タオルケットであれば2、3枚程度を箱に入れて送ると約2週間後には、きれいになったタオルが戻ってくるという仕組みになっている(※2)。
同社に到着したタオルは状態を診断の後、たっぷり水を使い、3時間ほどかけて温水で入念に洗濯される。その後、温風でパイルに空気を含ませながら乾燥させ、弾力を持たせる。最後に糸のほつれなどをチェックして完成となる。
IKEUCHI ORGANICの公式noteによると、利用した方からは「光を浴びているような真っ白さで、えらい別嬪さんになって戻ってきた」「新品なんじゃないのかと目を疑いました」といった声があがっている(※3)。
しつこい「くすみ」が真っ白になるとはにわかには信じがたいが、そもそもタオルが痛む原因は何なのだろうか。
製品を「タフ」に設計したからできたこと
池内さんによると、タオルが痛む要因の一つは、洗濯に伴う石鹸かすを始めとした付着沈着物だという。日本の洗濯機は通常、常温の水しか使えないタイプが多い。また、家庭では手間がかかるためタオルだけを洗うことは難しい。そのため、結果的に石鹸かすが残り、カビが発生し、うっすらとグレーになってしまう。
そして、メンテナンスで真っ白になるからといって、化学薬品を使って白くしたりしているわけではないという。「85度のお湯で3時間くらい洗濯機をかけているんです。煮沸に近いですね。それでも終わらないことも多く、2〜4回洗う場合もあります。ひたすら洗って、沈着した香り・カビなどを落とすという作業ですが、今のところ無理なケースはありません」。
長時間洗濯による生地の劣化を気にすると、「対象は自社の製品に限定しているのは、タオルの設計がわかるから。どこまで洗っても大丈夫か、という限界値を把握できています」とのこと。タオルの設計とは、糸の太さやパイルの長さや織り密度のことで、この織り密度をゆるくしすぎると洗濯の摩耗に耐えられず、寿命が短くなってしまうという。その点、IKEUCHI ORGANICのタオルは少なく見積もっても10年持つ設計になっているため、長時間洗っても耐えうる、というわけだ。
メンテナンスすることによってタオルが長持ちすることは環境面の負荷は下げることはできるかもしれないが、売り上げも大事な企業としてはどうなのだろうか。
「50%くらいシェアのある大企業でだったら違うかもしれませんが、IKEUCHI ORGANICは、今治にある約100社のタオル製造メーカーのうちの1社なので、こういうコンセプトが周囲に広がればよいと思っています」と池内さん。小規模企業だからこそこだわった取り組みができる強みを感じた。
10年持つのが当たり前、の時代を目指して
サービスを開始してまだ約1か月ほどだが、同社には新たな視点が生まれた。それは、洗濯機メーカーや洗剤会社が、一般家庭が普通に洗った場合に洗濯物がどうなるのかを知らないのではないか、ということ。
「普通の家庭が普通に使って長く持つ──私たちの取り組みが広がっていくことで、そんなタオルの作り方に変わっていくかもしれない。SDGs目標12に含まれる 『つくる責任』を再考する機会になっています」と池内さんは、今後の展望を語る。
最後に同社から、 IDEAS FOR GOODの読者に対しこんなメッセージをいただいた。「タオルは誰でも毎日使うものであり、地球をめぐってきた貴重な素材でつくられています。ぜひ大切に使って、サステナビリティを考える入口にしてください」。
「タオルは消耗品」そんな固定観念を覆すIKEUCHI ORGANICのメンテナンスサービス。私たちのタオルとの付き合い方、さらにはタオルのあり方をも変えていきそうだ。
※1 タオルのお手入れ
※2 10年使えるタオルに育てるタオルメンテナンスサービス
※3 note- タオルが生まれ変わって帰ってきた。 イケウチな人たちが語るタオルメンテナンス体験
【参照サイト】今治タオルのイケウチオーガニック