Sponsored by 株式会社クジラテラス
大量生産大量消費を前提に成長してきた資本主義の世の中は、ものやサービスで溢れている。ファストフードの広告に囲まれながら同時に栄養食品やサプリメントなどを消費し、新しく開発されたアプリなどを試してみては、そうではないと落胆する。新しいものを作っては、それが引き起こす課題を補うためのサービスが生まれ、私たちはそれらの繰り返しによって、経済を大きく成長させてきた。
「本当に新しいものを開発する必要があるのか?」「本当にそれは外から輸入する必要があるものなのか?」──私たちの人類を豊かにしているかのように感じさせる今の経済構造からうまれるものには、ときにそんな疑問を抱くこともある。
「海外から持ち込んだものではなく、私たちの身の回りに“すでにあるもの”で、社会の課題を解決できないか?」そんな問いを持ち、日々の暮らしの「水」に焦点を当てて、人々の行動変容を促す人がいる。
「森林が豊かな日本で、“木炭”は古くから私たちの生活を支えてきたもの。日本は、炭ととても関わりが深い国なんです」
そう語るのは、「株式会社クジラテラス」の代表である、上神田正利(かみかんだ・まさとし)さんだ。「木炭は、森林の経営資金を生み出し、森林を豊かに守り育てる存在。木炭は、燃料としてもカーボンニュートラルなもので、今こそもっと注目されるべきものです」と、上神田さんは言う。
クジラテラスが手掛けるのは、木炭の生産量日本一である岩手県産の木炭を活用した、日本初の浄水炭サブスクリプションサービス「SUMITCH(以下、スミッチ)」だ。岩手木炭を水道水に入れて、自分でミネラル水を作る暮らしを提案している。同社はスミッチを通して、環境負荷の少ない方法でおいしい水を飲むことで、飲料水利用によるペットボトル削減へのアプローチと森林循環への貢献を目指す。
今回はそんな、都市の生活を支えてくれる自然や地域、社会課題を知るきっかけをつくりながら、水道水を飲むほど森が保全されていくビジネスモデルについて、上神田さんに話を聞いた。
木炭は、森林の経営資金を生み出し、森林を豊かに守り育てる
創業当時、もともと地域創生事業として岩手県久慈市の地域資源である白樺の樹液を使った炭酸水を販売していたクジラテラス。その取り組みのなかで上神田さんは、地域にある日本一の白樺林が老朽化問題に直面していることを知った。
現在、日本で課題では手入れが不足している森林は人工林(里山)全体の約9割あり、土砂災害の危険性や生態系の変化などが問題となっている。
森林の手入れ不足は森林の経営資金と人手の不足が原因だ。森林は、人が手を加えないと 再生能力が低下し、老朽化してしまう。人が森に入り、適切に伐採することで、森は新しく生まれ変わることができるのだ。
そこで当時、上神田さんが出会ったのが、地域で108年ほどの歴史を持つ谷地林業だった。森林面積が全国2位の岩手県では、木炭は古くから里山の伝統的な管理手法の一環の中で生産されてきた。同社は久慈周辺の広葉樹である楢(ナラ)の木を切り出し、その原木を使い職人の手によって良質な木炭を作っている。谷地林業では木炭製造と林業の両方を行っており、植林、手入れ、伐採の森林循環が一貫管理されており、日本で唯一の内閣総理大臣を受賞した木炭製造元でもある。
ナラの木は再生力旺盛で初期成長も早いため、製材用木材の2~3倍早いサイクルで森林の経営資金となる。20~30年で炭にすることが可能で、製材用のアカマツなどと複層林施業として一緒に育ち、アカマツが製材になる約70年の間の森林経営資金を補うのが、ナラの木なのだ。複層林施業は高度な管理技術が必要である一方、天然林に近い形で保全度を高く保つために活用されていたことから、昔から森林の多面的機能に有効といわれる伝統的な手法である。
その伝統的に里山の循環に寄与してきた岩手木炭を作る谷地林業の取り組みに感銘を受けた上神田さんは、クジラテラスとして谷地林業と協業し、浄水炭としてナラ炭を使う方法を考えた。
こうして「水道水を美味しく飲む」ことを通して、生活者がこの森林循環の一部になることができるスミッチをスタートしたのだ。
「水道水を美味しく飲む」ことで生活者を森林循環の一部に
ナラ炭を作るプロセスの中には、手作業も多い。炭化する作業や、木を割ったり立てたりすることは機械ではなかなかできないからだ。それを窯に入れるサイズに割り、じっくり窯の中で「炭化」させていく。時間をかけて炭化させているので、炭素率が高く不純物も少ない高品質の炭ができあがるという。谷地林業が作る高品質のナラ炭は、こうした古くからの職人の経験や技術で成り立っているのだ。
「木炭を作る過程でCO2が排出されており、それが環境破壊につながるのでは?」という疑問が湧くかもしれない。しかし、木炭を作る過程にある「炭化」という作業は、燃やしているわけではなく、中の水分や不純物などを高温で飛ばしている工程だ。CO2を吸収し、炭素を含むセルロース繊維で存在しているのが木であり、それを炭化させ、木の中の炭素を固定した黒い塊が「木炭」なのである。
ナラの木は成長している間に光合成によってCO2を吸収しており、体内に炭素を貯め込んでいる。炭を燃やしたときに排出されるCO2は、木の成長過程で大気から吸収したものであるため、木炭はCO2を増やさない、カーボンニュートラルな燃料であるといえるというわけだ。
スミッチの購入者が増えることにより、木炭の仕入れは森林経営資金に回り、さらには梱包や煮沸消毒加工によって福祉施設に資金が回る。水道水を飲むという毎日の小さな行動を積み重ねることで、より大きなインパクトを生み出すことにつなげているのだ。そこでスミッチは、「定期販売(サブスクリプション)」モデルで岩手県の森林と生活者をつないでいる。
スミッチは、月額にして1,000円ほどで利用できることもポイントだ。また、木炭の煮沸消毒がすでにされた状態で自宅に届くので、届いた瞬間にすぐに使うことができる。こうした価格面や利便性も、浄水炭を始めるハードルを下げている。
スミッチで削減したペットボトルを「見える化」することで、行動変容を促す
スミッチが生み出すのは、森林循環だけではない。スミッチは浄水炭による「そもそもペットボトル廃棄を出さない設計」によって、プラごみ問題や、水が運ばれてきた距離を表すウォーターマイレージ削減にアプローチしている。
日本で水道水をそのまま飲む人は減り続けており、日本ミネラルウォーター協会によると、日本は年間44億リットルのミネラルウォーターを生産し、ペットボトルに入れて販売している(※1)。これにより、ペットボトル製造や輸入による無駄なCO2が排出されているのだ。
スミッチの木炭を一つ使うことで、ひと月に最大180リットルの水を浄化することが可能だ。環境省の報告書によると、500ミリリットルのペットボトル一本につき、119グラムのCO2を排出しているという(※2)。これまでスミッチで浄化した水の量のぶんだけ、500ミリリットルのペットボトルを購入したと仮定して計算すると、スミッチによって、すでに47万3,000本、56.2万トンのCO2を削減したことになる(2022年7月18日時点)。
同サービスは、今後5年間で2億3,000万本のペットボトル(日本におけるペットボトル年間消費量の1%に相当)と3,500トンのCO2を削減することを目標としている。
また、スミッチは使用後1か月ほどで新しい木炭に交換する必要があるのだが、同サービスでは使用後の使いみちもユーザーに向けて提案している。
「使用後の炭は、乾かして冷蔵庫に入れて脱臭剤にしたり、砕いて土に混ぜると土壌改良材になるため、土に混ぜたりするなども提案しています」
社会の矛盾と葛藤しながらも、「炭」を通して伝えたいもの
「葛藤だらけなんです」。上神田さんは取材中、何度もこの言葉を繰り返した。
「日本って、200年ほど鎖国をしていましたよね。実は日本が進化したのは、この200年ほどの急速な出来事なんです。時代の流れがどんどん速くなってきています。炭は約1万年前からあるもの。僕、昔からあるものでもう事足りていると思うんです。今すでにあるものの中から、活用できるものに気づくことができたら、日本はまだまだチャンスがあると思うんです」
炭を作る炭化の技術も、日本独自の職人の技術だ。海外では薪中心の文化であったため、日本の炭化技術は世界的に見て高く、日本の木炭のように炭素率の高い炭は海外にはないといわれている。日本の高度な炭化技術により刀鍛冶や花火などの日本の伝統技術は支えられてきた。
外にばかり目を向けるのではなく、そうした日本古来からもともとあるものに注目してはどうか。それが、上神田さんの問いである。
「経営学やMBAなどで学び、多くの経営者に出会う中で、よく考えるんです。僕のエゴかもしれませんが、新しいサービスや事業の話を聞く中でもっと世のためになる方法があるんじゃないか?と、感じることがあります。新しいものを生み出すことも重要ですが、あるものを活用することでもできることがあるんじゃないかって」
「葛藤ですよ、僕はすごく葛藤している。いろんな矛盾を抱えながら、僕も会社を経営しています。だからこそ、スミッチを継続させたい。ただ炭を入れて飲むだけ。それだけなんですが、その裏にはいろんな社会課題があり、スミッチを通してそれを伝える必要があるんです」
「炭」を通じて教育分野へ
「木炭ってなんだろう?」「スミッチはなぜできたの?」「なぜスミッチが森林保全につながっていくの?」
上神田さんがスミッチを通してやりたいこと──それは「炭」を通して、生活者が日常で環境問題や社会課題の裏にある背景に想いを馳せ、親子間の会話を促すことだ。
「スミッチを使っていたら、道に落ちているごみが気になるようになった」
「スミッチを使うようになってから、ペットボトル飲料を買わなくなった」
利用者からは、すでにそんな声が届いているという。一方で、課題も感じていると上神田さんは話す。
「当初想像していた以上に、炭と森林保全の関係は全然知られていません。炭を通して伝える難しさも感じています。そうやって伝える方法を悩みながらも、まだ途中ですが、子ども向けの絵本を作りたいと、ずっと思っています」
スミッチが自宅に届くときに同封しているリーフレットでの訴求や、岩手県の高校での講演など、さまざまな教育の方法を模索しながら、スミッチというキャラクターを通じてどう伝えるか、日々試行錯誤している。
「スミッチで、人々の意識を変えるようなプラットフォームを作り、その中でみんなが自由に議論できるようにしたいんです。ただ、今の経済の中だと、やはりある程度ビジネスモデルを立てて、必要最低限の売り上げがないと続けることができない。そうした葛藤は常に心の中にありますが、スミッチに共感していただけるような人たちのプラットフォームを、早く構築したいです」
スミッチというサービスの裏側には、森林循環や環境問題、社会への矛盾などと葛藤しながら「どう伝えるか」を悩み続ける上神田さんの姿があった。
「外にばかり目を向けるのではなく、日本古来からもともとあるものに注目してはどうか」──豊かな森林に恵まれ、世界有数の「森林大国」といわれながら、世界有数の「木材輸入国」でもある日本。
日本人の知恵と技術でこれまで活用されてきた炭が、私たち生活者と岩手県の森林の媒介者となり、日常に多くの気づきを与えてくれている。
※1 日本ミネラルウォーター協会 | 統計資料
※2 リユース可能な飲料容器およびマイカップ・マイボトルの使用に係る環境負荷分析について(p.17) | 環境省
【参照サイト】SUMITCH
【参照サイト】谷地林業