世界遺産モンサンミッシェル、ゼロ・ウェイストを目指す。旅行者の協力を得る工夫とは?

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フランスの観光名所といえばエッフェル塔、凱旋門、ノートルダム寺院に加えて、モンサンミッシェルを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。フランス北西部のノルマンディー地方に位置し、海に浮かぶ神秘的な島として知られるこのスポットは、ユネスコの世界遺産にも登録されている。

年間240万人もの人種や習慣の違う多様な観光客が訪れるモンサンミッシェル。新型コロナによるパンデミックの波が落ち着いてきたことで、観光客が戻りつつあるのは自治体にとって嬉しい反面、それに伴うごみやポイ捨ての増加が悩みの種になっている。モンサンミッシェル内で排出されるごみの量はコロナ前の2019年時点で年間350トンを超えていたという。そしてこの数値は、観光地であることやそれに伴う飲食店の多さに関連付けられている(※)

これらの状況を受け、モンサンミッシェルの自治体は、観光案内所や敷地内の土産店・レストランなどと協力し、観光客を巻き込んだ「ごみゼロ」に向けた2つの取り組みを2021年の10月から行っている。

1つ目は、敷地内にバラバラに設置されていた十数のごみ箱を撤去し、入り口に2つの新しいごみ分別BOXを設置したことだ(2022年の6月より)。ごみ箱を減らし集約することで、ごみ自体の削減を目指し、出たごみに対しては確実な分別を促す方針だ。1つは生ごみ用、もう1つはリサイクル用で、仕分けが一目でわかる表示がされており、フランスでポイ捨ての多いタバコの吸い殻を捨てられる穴も、2つついている。

この「賢い」分別BOXは、ごみの圧縮ができるほか、ごみ箱が満杯近くになると自治体職員にアラートがいくようになっており、それは搭載されているソーラーパネルの電力によって機能するという優れもの。ごみが溢れて地面に散らかる、捨てる場所が埋まっているためポイ捨てされてしまう、ということを防げる。

そして、ごみの投入口はハンドレバーとフットペダルにより簡単に開閉ができるようになっている。従来のごみ箱には蓋がなかったため、カモメによるごみ荒らしが発生していたが、今回はそれを避けるために蓋つきのごみ箱になった。このBOXは2つで1万ユーロ(約136万円)の費用を要したが、自治体が負担したという。3か月のテスト運用をして結果が良好であれば、秋にかけて増やしていき、既存のごみ箱をすべてなくすことも検討されている。

2つ目は、世界中誰が見ても理解できるような情報提供である。観光客にゼロ・ウェイストの実行に参画してもらうためのリーフレットを作成し、観光案内所や店舗への設置と案内所のウェブサイトへ掲載。ごみ分別の方法、ポケット灰皿やマイボトルを使用するという手段、ピクニックで出たごみの持ち帰りを促すことなどが、豊富なイラストを使って英語で説明されている。

このゼロ・ウェイストに向けた取り組みは、2025年までに埋立廃棄物を50%削減することを目標とする、フランスの「エネルギー転換に関する法律」へのアプローチにもなっている。

プロジェクトは、計画して始めるまでが第一の山、そして浸透させることが第二の山だ。現地メディアouest franceによる観光客へのインタビュー動画では、「新しいごみ箱の数も、ごみ箱の場所を示す看板もまだ足りないと思う」という声もあった。人種や習慣の違う多様な観光客に、旅先で発生してしまいがちなごみをできるだけ減らすという意識付けと、出たごみは分別して捨てるという行動を促す仕組みが成功したという事例が残せれば、他の観光地もそれを参考にしながら追随していけるだろう。また、2年後に迫るパリオリンピック開催時にもノウハウを活かしていける。今後の成果に注目していきたい。

Les déchets ménagers et assimilés en Normandie – Année 2019
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【参照サイト】モン・サン・ミッシェル観光案内所
【参照サイト】Vers le zéro déchet, le Mont-Saint-Michel installe ses premières poubelles connectées
Edited by Erika Tomiyama

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