屋上農園レストランから量り売りまで。パリで訪れたい5つのサステナブルスポット【欧州通信#05】

Browse By

日本に先駆けて、ヨーロッパは行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、現在に至るまで世界を主導してきた。そんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する「ハーチ欧州」。

そんなハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届けする。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。ぜひ欧州を旅する気分で読んでいただけたら嬉しい。

前回は、「休日の過ごし方」をテーマに、フィンランド、フランス、オランダ、ドイツ、イギリスの人々は休日をどう楽しんでいるのか?現地の人々の「労働と休み」に関する考え方にも注目した。今回の欧州通信では、都市をフランス・パリに絞り、「思わず行きたくなる市内のサステナブルスポット」をお届けする。若者の流行の発信地であるマレ地区を中心に、サステナブルなお店が増えているパリ。現地を訪問する際に、ぜひ参考にしてみてほしい。

ゼロウェイストショップ「KazeKo」で多くの人がサステナブルな選択をできるようにするための工夫を学ぶ

KazeKo」はパリ14区にあるゼロウェイストショップ。プラスチック容器を削減できるシャンプーバーや木製の歯ブラシ、弁当箱、生理用の布ナプキン生活など、ごみを出さないようにするためのグッズが販売されている。店内の商品はフランス製のものが多く、中には地元の人が裁縫を担当したものなども置かれている。

KazeKo

店内商品

KazeKoでユニークな取り組みは、なるべく多くの人がサステナブルな選択ができるようになるよう、商品の価格のオプションを必ず2つ設けていることだ。例えば石鹸1つとっても、€8(約1,100円)のものと€10(約1,400円)のプロダクトがそれぞれあり、経済的な余裕に合わせて、好きな商品を選べるようにしている。この価格オプションの取り組みを始めてから、お金に余裕がない学生なども多くKazeKoを訪れるようになったという。

KazeKo

KazeKoの外観

環境配慮方複合施設「La Recyclerie」でサステナブルなヒントを学ぶ

市内北部にある「La Recyclerie」は、環境意識の高いパリの人々が好んで訪れる、カフェ・農園・イベントスペースなどが併設された複合施設だ。地元の食材を使ったご飯が食べられるのはもちろん、カフェのある食堂自体が古い駅舎を使っており、パリらしいデザインの中に環境負荷を軽減させるためのこだわりを垣間見ることができる。

例えば、ここのカフェでは食器返却は客自らが行う。自分が食品ロスを出してしまった場合、それを自覚できるようにするためだ。食品ロスを「隠す」のではなく、「見せる」ことでアクションのきっかけを創出している。

La Recyclerie

残したパンはここに入れる。

また家具もビンテージのものが使われていたり、トイレや調理場の手洗い石鹸のボトルには、レモネードの使用済容器が使われていたりと、備品にも工夫が施されている。農園のエリアには、人間の排泄物がそのまま土の養分になる「コンポストトイレ」や、アクアポニックス、鳥や虫が住めるようになっている「HOTEL A INSECTES」なども設置されている。

コンポストトイレ

コンポストトイレ

アクアポニックス

アクアポニックス

昆虫の家

HOTEL A INSECTES

パリのコンセプトストア「Merci」でサステナブルなプロジェクトを支援

パリの流行発信地の一つであるマレ地区。そんな同地区にあるパリのコンセプトストア「Merci(メルシー)」は、開店と同時にこれまでになかったコンセプトが大きな話題となり、瞬く間にパリの人気店の一つとなった。そのコンセプトとは、単なる店舗ではなく、訪れる人にくつろげる家のような空間を提供すること。天井の高い19世紀の建物を改造した1,500平米の店内には、洋服・バッグ、食器や台所用品、リネン類、家具など「日常生活のアート」となる商品が並ぶ。

メルシー店内

メルシー店内

それぞれの商品はただ陳列されているのではなく、一軒家の中の居間や台所、バスルームのような空間を作っている。また、店内には緑や花に溢れた庭があり、カフェも隣接されている。カフェにある壁の本棚は古本で埋まり、飲み物と一緒に読書も楽しめる。

メルシー隣接のカフェ

メルシー隣接のカフェ

メルシーで販売されている商品は、環境に配慮した製造法で作られたもの、エコ認証を受けた素材、一つ一つ丁寧に作られた手作り製品などだ。洋服・靴・バックに関しては自社メルシーの製品のほか、フランスを主流とするブランドも置いているが、その選択基準は「サステナビリティに関する取り組みを実践していること」だ。

メルシーは、もともとは慈善事業推進プロジェクトの一環として「安定したサステナブルな資金を提供する」という目的で2009年にスタートした。プロジェクトは世界の女性や子どもの社会生活・教育・健康の改善に焦点を当てており、2015年からは特に環境やエコロジカルなプロジェクトを支援している。

メルシー店内

メルシー店内

欧州最大の屋上農園に隣接したレストラン「Le Perchoir Porte de Versailles」

パリ15区にある、巨大な見本市会場「ポルト・ド・ヴェルサイユ」の建物のうちの一つの屋上は「NATURE URBAINE(ナチュール・ユベンヌ)」という欧州最大の屋上都市農園になっている。「エアロポニックス」や「ハイドロポニックス」と呼ばれる、土を使わない水耕栽培・空中栽培を行うことで、通常の農業のおよそ10%の水の量で作物を育てており、無駄のないサステナブルな農法を実践。同農園では、農場見学を開催しており、企業や個人に学びの機会も提供している。

レストランから見渡せる、ナチュール・ユベンヌ

レストランから見渡せる、ナチュール・ユベンヌ

その屋上農場を見渡しながら食事ができるのが、隣接するルーフトップカフェ・レストラン「Le Perchoir Porte de Versailles」だ。同レストランでは、ナチュール・ユベンヌで採れた食材を使い、地産地消の食事を味わうことができる。店内の家具は職人によって天然素材で作られていたり、自然光が最大限に降り注ぐ建築デザインが施されていたりと、そのこだわりは細部にまで及ぶ。

Le Perchoir Porte de Versailles

Le Perchoir Porte de Versailles店内

「THE NAKED SHOP」で液体の量り売りを体験

パリには、パッケージのない食品の量り売りのお店が400店舗以上あり、2021年に可決された「気候とレジリエンス法」の中でも、スーパーでの食品量り売り販売の面積を2030年以降、店舗全体の20%以上とすることを義務付けている。

そんなパリには、そうした食品にとどまらず、衛生用品までも量り売りで購入することが出来るお店「THE NAKED SHOP」がある。同ショップでは、石鹸やシャンプー、ボディーソープや食器用洗剤、洗濯用洗剤などを量り売りで販売している。効率性を重視しており、自動ディスペンサーによってボタン一つで購入することが可能だ。機械によって入れた液体の分だけ、自動的にカウントされるため、支払金額もリアルタイムで確認することができる。

THE NAKED SHOP

THE NAKED SHOP店内の様子

同ショップでは、店内商品の95%がフランスまたはヨーロッパで生産されたもののみを採用している。また、オーガニック素材など使用する原料の品質や、生分解性にもこだわってサプライヤーを選定している。

高品質なものとなると、スーパーマーケットに並ぶ商品よりも高価なのではないかと思われるかもしれないが、実は商品パッケージは平均してプロダクト価格の20%を占めていると言われており、THE NAKED SHOPは量り売りで販売することによって、スーパーマーケットで販売されている同等の品質の製品と比べても若干安い価格で購入ができるという。店内は終始ボトルを持ったお客さんで賑わっており、常連のお客さんも多いそうだ。

THE NAKED SHOP

THE NAKED SHOP外観

編集後記

パリでは今回ご紹介したようなさまざまなゼロウェイストショップや、サステナブルなファッションブティックなどをよく見かけるが、2021年5月に行われた調査によると、フランスでは国内に住む消費者の53%がより責任のある消費をしたいと回答しており、市民の環境意識は高まっている(※)。そんななかでもフランスに住んでいて感じるのは、サステナブル文脈だけではない普及要素が大切にされているということだ。

コンセプトストア「Merci」では「訪れる人にくつろげる家のような空間を提供する」というコンセプトに惹かれている人が多かったり、レストラン「Le Perchoir Porte de Versailles」では店内のデザインのおしゃれさや、食事の美味しさを目的に人々が訪れていたりするなど、市民に受け入れられるために、お店独自の強みをまずは強調している。

ヨーロッパ各国に観光客が戻ってきているが、みなさんもパリを訪れる際はぜひ、ご紹介したサステナブルスポットに足を運んでみてはいかがだろうか。

「欧州通信」はIDEAS FOR GOODのインスタグラムでも、随時更新しています。ヨーロッパのサステナブル事情に興味のある方は、ぜひフォローしてみてください。

「欧州サーキュラーエコノミー政策・事例レポート2022」発売中!

ハーチ欧州では、レポート第一弾「欧州サーキュラーエコノミー政策・事例レポート2022」を販売中です。

本レポートでは、「EUのサーキュラーエコノミー政策(規制)」「フランス・オランダ・ドイツ・英国の政策」「4カ国で実際にサーキュラーエコノミーを推進する団体や取り組み」に焦点を当て、サーキュラーエコノミーが欧州で注目されるようになってから現在に至るまでの欧州におけるサーキュラーエコノミーをめぐる議論・状況をより詳しく追っています。以前から欧州で進められてきた「サーキュラーエコノミー」の実験は、今後の日本の政策策定から、企業や市民の活動にいたるまで、役立つヒントや苦い反省を提供してくれるはずです。

レポートサンプル

レポートサンプル

サステナブルな新規事業を検討中で、海外のユニークな参考事例を探している方や、欧州市場参入を検討していて、現地の企業の取り組みや消費者の動向が気になる方、サーキュラーエコノミー実践者(企業やNPOなど)の現場の声を知りたい方など、ご興味のある方はぜひ下記より詳細をご覧ください。

レポート概要

  • ページ数:105ページ
  • 言語:日本語
  • 著者:ハーチ欧州メンバー(IDEAS FOR GOOD・Circular Economy Hub編集部員)
  • 価格:44,000円(税込)
  • 紹介団体:36団体
  • 現地コラム:8本
  • レポート詳細:https://bdl.ideasforgood.jp/product/europe-ce-report-2022/
ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe

▶ぜひハーチ欧州お問い合わせページからお気軽にお問合せください。

※ Vers plus de réparation des objets du quotidien : le ministère de la Transition écologique lance une campagne pour présenter l’indice de réparabilité aux Français
【参照サイト】green bird Paris Facebook
【参照サイト】green bird Paris
【参照サイト】Fruittuin van West
【関連記事】スペイン、賃金を下げることなく「週休3日」の働き方検討へ
【参照サイト】 Four-day working week pilot launched in UK

欧州通信に関する記事の一覧

FacebookTwitter