キャンバスはごみ収集車。NYの人々が描く「ゼロウェイスト・アート」

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みなさんはこれまで、色鮮やかにペイントされたごみ収集車を見たことがあるだろうか。

ニューヨーク市衛生局(DSNY)は、公共プロジェクト「Trucks of art(トラック・オブ・アート)」と銘打って、ごみ収集車の前面、背面、側面を自らの作品で彩るアーティストを募集中だ。

同プロジェクトでは廃棄物ゼロを目指すDSNYの方針に基づき、アーティストは廃棄塗料のみを使用して作品を制作することが奨励されている。市民に対し、廃棄予定の不要な缶・チューブ・スプレー塗料などをDSNYの特別廃棄物の持ち込み場所へ持ち込むように呼びかけている。また、デザイン案にはDNSYのエッセンシャルワーカーを讃える案を優先的に採用する。

このプロジェクトは今回が2度目の開催。2019年の1回目開催時には100人近くのアーティストが応募し、その中から4人のアーティストと美術学校の生徒が選ばれ、エッセンシャルワーカーやリサイクルをテーマに収集車を彩り、一躍話題となった。

当時の衛生局長代理のスティーブン・コスタス氏はGotham ToGoに対し、「Trucks of artは、廃棄物ゼロの挑戦であり、廃棄されるはずだった絵の具をアーティストたちが使うことで、リサイクルを推奨することにつながる」と述べている。

昨年、米国環境保護庁は現在32%ほどに留まっている米国のリサイクル率を、2030年までに50%にするという目標を掲げ、「国家リサイクル戦略」を発表するなどして、リサイクルの重要性を呼びかけている。しかし、私たちはついつい分別の手間が面倒だと思ってしまったり、そもそもリサイクルできる製品の知識が浅いなどの理由から、リサイクルすることを怠ってしまう。

そんな中、街中を走るごみ収集車が廃棄されるはずだった塗料によって、美しく彩られていたらどうだろうか。さらにそのデザインが私たちの生活を影で支える衛生局のエッセンシャルワーカーを讃えるものだったとしたら。きっと目にした人々にとって、自分自身の生活を見直すきっかけとなり、リサイクルの意識づけにつながるに違いない。このプロジェクトは、そんな思想のもとに生まれたものだ。

その一方でこのプロジェクトは、完全にボランティアで行われる。参加するアーティストに報酬が支払われないことについて、SNSなどでは「アートの価値を軽んじているのではないか」と疑問の声も上がっている。ニューヨークで生まれ育ったグラフィック・アーティストのアンドレ・チャールズ氏は「アーティストも他の人と同様に給料をもらうべきだ」という文字をあしらった画像を自身のインスタグラムに投稿。

同氏はHyperallergicのインタビューに対して、「今日のアーティストは高い家賃を払いながら生き延びようとしている。彼らは自分たちのやること(作品)で生きている」と語っている。

大きな収集車に自身の作品を描けることは、アーティストにとって広く世間に知られるチャンスになるに違いない。しかしながら、作品を作ることは彼らの仕事なのだ。いくら機会が与えられたとしても、対価がなければ活動は続けられないだろう。ニューヨーク市民の生活を支え、リサイクルでより良い街づくりを推進し、さらにはエッセンシャルワーカーを大切にしている、そんなDSNYだからこそ、率先してアーティストへの対価についても検討してほしい。

このプロジェクトで、アーティストを含めた全ての立場の人々を平等に評価することができれば、さらに価値のある素晴らしい取り組みになるのではないだろうか。

【参照サイト】America Recycles Day | US EPA
【参照サイト】National Recycling Strategy – Environmental Protection Agency

Edited by Erika Tomiyama

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