「寝るだけで社会貢献できる」ロンドンの水上ホテルを訪れて感じた、これからの旅の贅沢

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ロンドン東部に位置するニューハム地区。ロンドンシティ空港やO2アリーナからも程近く、近年次々と再開発が進むエリアだ。歴史的な建物が立ち並ぶシティから20分ほど電車に乗ると、ビーチやケーブルカーが現れ、近未来にきたような気分になる。それでもどこか港ののんびりとした雰囲気が残り、高い建物に遮られることのない日光を浴びながら、人々は各々の時間を過ごしている。

good hotel

今回はそんなニューハム地区に、2017年にできたGood Hotelに滞在した。Good Hotelは、環境にもゲストにもローカルコミュニティにも優しい取り組みをするグアテマラ発のホテル系列だ。ロンドンの港の水上にポツンと浮かぶこのホテルが進める新たな取り組みとは?実際にここでワーケーションをしながら、Good Hotelのオペレーション・マネジャーであるマウリツィオ・ザッカグニーノさんにお話を聞いた。

「寝ているだけで良いことができる」ホテルのコンセプト

「すべてのビジネスは社会をよくするために成り立つべきだ」と考えるGood Groupの系列であるGood Hotel。「PREMIUM HOSPITALITY WITH A CAUSE(最高のおもてなしを大義とともに)」というキャッチコピーの通り、社会貢献をコンセプトの中心に置き、非営利のホテル経営を行っている。また、Good Hotelの一番の特徴は、一回の宿泊にあたり5ポンド(約800円)がグアテマラの学校の寄付に回されることだ。彼らが掲げる「#SLEEP GOOD. DO GOOD.」というテーマの通り、まさにゲストは「寝ているだけでいいことができる」仕組みになっている。

ロビーに到着すると、まず大きなブランコがゲストを迎え入れる。このブランコはGood Hotelでの宿泊料が学校の支援につながるということを表しており、全世界のGood Hotelに設置されているという。

また、広々としたロビーは、カフェスペース、ソファースペースなどの区画に分けられている。ロンドンの観光をするためのプランを立てたり、コーヒーやお酒を楽しんだり、仕事をしたりと、過ごし方はそれぞれだ。ザッカグニーノさんによると、ホテルのロビーで過ごしている人々は必ずしもホテルのゲストであるわけではないという。

「Good Hotelのロビーにはゲストだけではなく、近隣の人も来てほしいと思っています。毎日仕事をしにオフィスのように使っている人もいますね。もともとGood Hotelは、地域で雇用を生み出したり、地産地消ができる商品を導入したりして、近隣の地域に対して良いことがしたいと思っているホテルなので、こうやって近所の人々が来てくれることは、大変喜ばしいことだと思っています」

Good Hotelが地元ロンドンを大切にする方法とは?

新たな再開発が次々と行われているロンドンのニューハム地区。Good Hotelがニューハムを拠点に選んだことにはとある理由があった。

「ニューハム地区はもともと貿易港として栄えたところでした。そしてそこには、ロンドンの中でも一層深刻な貧困の問題がありました。私たちがニューハムを選んだのは、ロンドンでも社会的に弱い立場にいる人々の力になりたいと思ったからです」

Good Hotelは雇用の機会を失ったニューハムの若者を中心に、現地の人々を雇用し、ホテルで働く上での4ヶ月間(1ヶ月の座学と3ヶ月のインターンシップ)のトレーニングを実施。のちに彼らをフルタイムの社員として採用している。彼らはホテルのフロントでゲストの対応をするのはもちろん、Good Hotelのカフェやバー、清掃なども手がけている。

Good Hotelで働くだけではなく、ニューハムの地元の企業やパートナーホテルへの就職の斡旋も行われ、選択肢は幅広い。Good Hotelは今までに60名の雇用を生み出しており、トレーニングを受けた人々のうち70%は現在進行形で仕事を持続できているという。

ホテルが取り入れる「地産地消」のポリシー

Good Hotelのバイキングの朝食にもこだわりがある。食材はできるだけイギリス国内、ロンドン近郊で調達したものを使用。チーズや乳製品などはヴィーガンのオプションが設けられている。

breakfast

また、カフェやバーで使われる飲料や食材としても、できるだけホテルの近隣でつくられたプロダクトが採用されている。ザッカグニーノさんはバーで使われるジンについて、このように教えてくれた。

greenwich gin

「これはロンドンのグリニッジ(ホテルから3kmほどの場所)でつくられたジンです。そしてホテルで提供している紅茶『tea people』もロンドンのブランドで、利益の半分が紅茶を育てている地域の教育機関に寄付されることになっています。近隣のプロダクトを使うのは、輸送が簡単で、環境のコストがかからないというのはもちろん、ゲストにはできるだけメッセージのあるものを楽しんでほしいという私たちの想いがあるからです。ホテルに宿泊する中で、そうしたメッセージのあるプロダクトに触れ、気軽にトライすることで、お客さんが日常にそれらの商品を取り入れてくれたらいいなと思っています」

シンプルで快適な客室。部屋が「小さい」のにはワケがある

Good Hotelの客室は2パターンのみ。部屋は決して広くはないが、一人で作業をして、睡眠を取るには十分なスペースだ。またロビーには広々とした共用のスペースがあるため、気分転換にそこでくつろぐことも可能だ。

room

部屋の中のアメニティは、コップ、大小のタオル、詰め替え式の石鹸など、あくまで必要最低限。ザッカグニーノさんいわく、アメニティにもインテリアにもなるべくプラスチックなどを使わないようにしているという。

「アメニティにはなるべくプラスチックを使わないようにしています。歯ブラシがほしいとのリクエストがあれば、竹製のものを提供しています。こちらのパッケージも紙で出来ているんです」

toothbrush

「またこの照明もオランダのデザイン会社が手がけたもので、紙で出来ています。日本の『折り紙』にインスピレーションを受けているんですよ。汚れたときの修復も簡単ですし、移動させる時も畳むことができるのでかさばりません。ロビーの椅子も廃棄されたプラスチックストローを再利用したものです」

light chair

コンパクトなつくりの部屋は、大きなスーツケースを広げることが難しいほどの大きさだ。Good Hotelのもとには、「部屋が小さすぎる」「窮屈だ」というネガティブレビューが届くことがあるという。しかし、Good Hotelが客室をこの大きさにしているのにはある理由があった。

「もともとこの建物はオランダ水上に浮かぶ囚人の部屋(牢獄)だったんです。その建物をオランダ政府が廃棄するというので、『それはもったいない』ということで私たちが買い取ることにしました。そしてこの建物がオランダから海を渡ってロンドンに到着し、そのまま水上に浮いて、いまのGood Hotelになっています」

「客室が小さいと言われることはよくあります。しかし、もともと大きさに規定があった部屋だったので、改変するのが困難でした。ネガティブなレビューをもらうときの状況にもよりますが、直接伝えてもらえた場合は、『昔の建物、しかも海に浮いていたものをアップサイクルしている』というコンセプトを説明するようにしています。そうするとゲストに理解してもらえることも多いです」

「また、この大きさであることでロンドンにしては安価に宿泊をしてもらうことが可能になっています。私たちは雇用の門戸を開くのはもちろん、色んなゲストに気軽に泊まりに来てほしいという想いを持っており、それを部屋の価格設定にも反映するようにしています」

編集後記

Good Hotelに実際に滞在し、さまざまなプロダクトに触れ、「旅の贅沢とは何か」ということを今一度考えさせられた。心身を休ませるためのステイケーションや旅行、頭をリフレッシュしながら仕事をするためのワーケーション。それらが誰かの心身を犠牲にしていたとしたら、とても悲しいことだろう。

客室に入ると枕元にハンドメイドで作られたというグアテマラの人形が置いてあった。この人形に向かって不安なことを呟き、枕に敷いて眠るとその不安を取り去ってくれるという伝説があるそうだ。

そうした細かな部分に「本当の意味でゲストにリラックスしてほしい」という願いが込められていたような気がした。これといった特別なものはない。しかしホテルに入った瞬間から、あたたかみとホスピタリティを感じることができる。ザッカグニーノさんに話を聞く中で、印象的だった言葉があった。

「Good Hotelは空間を華美に・贅沢にすることではなく、ゲストとそして社会が快適(コンフォート)であることを重視しています」

自宅では出来ないようなこと──例えば清掃をしてもらったり、コースの料理を食べたり、大きなベッドで眠ったり──そうしたことも旅行の楽しみ方の一つかもしれないが、その土地ならではの文化やプロダクト、人に触れ、地域の生活の一部になれることこそが、最大の贅沢なのかもしれない。新型コロナによる旅行の制限を経た今、Good Hotelの宿泊を通じてそう感じたのだった。

【参照サイト】Good Hotel
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※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Livhub」からの転載記事となります。

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