気候変動に対する取り組みといえば、欧米諸国の事例が注目されがちだ。しかし実はアジア諸国でも、様々な取り組みが進められている。むしろ、気候変動による影響を受けやすいアジア諸国は、欧米諸国以上に対策を急がれている地域であるとも言えよう。
Global Climate Risk Index 2020によると、1999年から2018年の20年間に自然災害などの被害を受けた国のランキングにおいて、上位10か国のうち7か国がアジア圏の国だったという(うち東南アジア4か国、南アジア3か国)。アジア諸国は、その多くが未だ発展の最中にあり、インフラ整備が不十分であるうえ、農業を基盤として経済が成り立っている地域もまだまだ多いため、気候変動による自然災害が人々の暮らしや経済に与える影響が大きいのだ。
また、アジア諸国は人口の多さと化石燃料シェアの高さからCO2排出量が多くなりやすい傾向にあり、世界全体のCO2排出量の削減目標においても、果たすべき役割が大きい地域であるとも言える。
本記事では、アジア10都市の事例を見ることで、アジアにおける気候変動対策の現状を紐解いていく。
アジア諸国10都市の事例
カンボジア・バベットのメガソーラー発電
カンボジアの都市・バベットでは、2017年に同国初となるメガソーラー発電所が誕生した。同発電所は、バベットの電力需要の約4分の1を供給し、年間約5,500トンの温室効果ガス排出量を削減すると推定されている。
同地域はこれまで電力不足に悩まされてきたが、発電所の稼働によって電力不足が改善されたほか、企業などからの同地域への投資が増加し、雇用機会の増加にも繋がったという。
カザフスタン・アスタナのエンジン用電気ヒーター
カザフスタンの都市・アスタナでは、凍てつく冬、自動車のエンジンを暖めるために使用する電気ヒーターの実証実験が行われている。車の使用前にヒーターを使用することで、アイドリング時間を何時間も節約でき、CO2排出量が大幅に削減できるのだ。また、ヒーターの使用は、燃費の向上や車のエンジンの摩耗防止にも効果があるという。
ヒーターは、自動車のエンジンの横に取り付けられ、電気で熱を発生させる小さな装置。同市は、ヒーターの充電ステーションを市内に53か所設置しているそうだ。
モンゴル・ウランバートルのグリーンローン
モンゴルの首都・ウランバートルでは、マイナス40度にも達する厳しい冬の間、家庭用の暖房として長らく石炭が使用されてきた。しかし燃焼時にCO2を大量に排出する石炭は、市内の深刻な大気汚染の原因にもなっていた。
そこで同国のガス会社・GASCOMは、石炭ストーブをガスストーブに置き換えるための、低所得者向け低価格ローンの提供を開始した。ガスも燃焼時にCO2を排出するため、石炭からガスへの転換は完璧な解決策ではないものの、ガスは石炭と比べると大幅にCO2の排出量が少ない。同社によると、住民からの申請はすでに10,000件を超えているという。
中国・湘潭(しょうたん)市のサステナブル建築
中国・湘潭市では、同市の低所得コミュニティに対し、住民の住居やコミュニティ施設をサステナブル建築にリノベーションする実証実験を行っている。具体的には、建物の断熱性の向上、太陽光パネルの設置、LED街灯の導入、石炭コンロからガスコンロへの転換などを行うという。
こうした改修は、CO2排出量の削減のほか、低所得者の生活環境の改善にも大きな効果が期待されている。同実証実験は、中国の他都市への拡大も見込まれているという。
ベトナム・ハノイの都市鉄道システムの整備
ベトナムの首都・ハノイでは、4つの路線からなる都市鉄道システムを構築することで、住民たちのバイク・自動車依存を改善しようとしている。
これまで同市内の公共交通機関はバスのみであり、市民のほとんどがバイクと自家用車で移動するため、渋滞と大気汚染が深刻な問題になっていた。Global Opportunity Explorerによると、同市に都市鉄道が開通することにより、約54万トンのCO2削減が見込まれるという。
ラオス・ビエンチャンの電気バス交通網の整備
ラオスの首都・ビエンチャンでも、バスなどの公共交通網を拡大することで、大気汚染や市内中心部の混雑緩和に取り組んでいる。同市は2022年までに12.9kmの新しい専用バスレーンと28の駅を建設し、45台のバッテリー式の電気バスを利用する計画を打ち出している。
ミャンマー・ヤンゴンの水道インフラの整備
ミャンマーの首都・ヤンゴンでは、気候の影響を受けづらい水道システムが新たに構築された。
同市の給水量の約6割を担う貯水池はこれまで、気候の影響を受けやすい、開いた灌漑用水路に大きく依存していた。そこで同市では灌漑用水路とは別に、34kmに及ぶ地下パイプラインを建設し、降雨量や気温の影響を受けづらい水道システムを構築したのだ。
また、パイプラインを地下に移動することで水の汚染の危険度も減り、感染症などの蔓延防止効果も期待できるという。
インド・コルカタの洪水予測
インドで第二の人口を誇る都市・コルカタでは、洪水予測・早期警報システムを導入し、コルカタをスマートでレジリエントな都市にするための取り組みが始まっている。
コルカタは、地形が平らなうえ、排水システムが不完全であるため、洪水のリスクが高い。そこに世界でも有数の人口密度の高さが加わり、脆弱性が非常に高い都市だと言える。
同システムでは、市内に設置された350個のセンサーから降水や湿度に関するリアルタイムの情報を収集することで、洪水リスクのリモート管理を可能にしているという。同システムが導入されることで、避難情報の迅速な計画と発信が可能になり、洪水被害の軽減が期待できる。
バングラデシュ・ダッカの排水インフラの整備
バングラデシュの都市・ダッカとクルナでは、排水システムの整備が進められている。
ダッカとクルナはどちらも、世界最大の河川デルタであるガンジス川デルタの近くに位置するため、洪水に対して特に脆弱な地域だ。150kmに及ぶ排水システムの改善や、余分な水を吸収するための造園、貯留貯水池の拡大などにより、洪水に対するレジリエンスを向上させているという。
またクルナでは、ごみを堆肥化するプラントや、バイオガス発電施設の建設も予定されている。廃棄物処理を強化し、都市の衛生状態を改善することで、洪水が発生時の感染症蔓延リスクの低下が期待できるそうだ。
韓国・釜山(プサン)の水上都市
韓国の沿岸都市・釜山では、海面上昇の危機に備え、世界初の水上都市「OCEANIX Busan」を2025年までに建設すると発表された。海面上昇への対策として、街自体を水面に浮かべるという大胆な発想のイノベーションだ。
同プロジェクトの開発を進めるのは、ニューヨークに本社を持つ、持続可能な海洋開発を目指す企業・OCEANIX。OCEANIX Busanの広さは6.3ヘクタールあり、1万2,000人の市民と観光客のコミュニティからスタートし、将来的には10万人が住める街になりうるという。
おわりに
今回紹介した事例は、インフラ整備や再生可能エネルギーの導入など、日本で暮らす我々からするとあまり目新しいものではなかったかもしれない。しかし、かつてベトナムに住んでいた経験のある筆者が感じるのは、新興国の成長スピードの目覚ましさだ。そのスピード感たるや、半年、一年で街の様子がまったく様変わりしてしまうことも珍しくないほどだった。
そのため今後、気候変動に対するアッと驚くような解決策が、新興国からもたらされる可能性は大いにあるだろう。韓国・釜山の水上都市がその好例だ。
アジアに暮らす一員として、アジア諸国の現状についても引き続き情報を集め、新興国からも学ぶ姿勢を大切にしていきたいと思う。
【参照サイト】Saving The “3 Ts”: Traffic, Time, And Trees – In Ha Noi
【参照サイト】 Flood Forecasting Enables Quick Responses And Smart Planning
【参照サイト】 Heating Homes Without The Smog
【参照サイト】 Expanding Public Transport To Cut Congestion
【参照サイト】 Cambodia’s First Utility-Scale Solar Plant
【参照サイト】Block Heaters Blunt Idling Emissions
【参照サイト】 20 Communities Commit To Low-Carbon Transformations In PRC
【参照サイト】 Improving Water Resilience And Livability Through Climate Modeling
【参照サイト】 Increasing Resilience In Bangladesh’s Rapidly Growing Cities
【関連記事】移住先は海の上。韓国・釜山のサステナブルな水上都市「OCEANIX Busan」
Edited by Motomi Souma