聴覚障害は、「見えない障害」とも呼ばれることをご存知だろうか。その理由は、障害にあまり触れてこない人にとって、聴覚障害はその有無や程度が見た目からは判別しにくいからだ。
そのため聴覚障害を持つ方々は、周囲から誤解されやすく、コミュニケーションに困難を抱えやすい特性があるという。例えば、会話についていけず、返答が満足にできないことで「おとなしい」「やる気がない」「意見がない」というレッテルを貼られてしまうこともあるそうだ。
そうした困難を多くの人に認知してもらうための広告が、英国で話題になった。その広告は、英国の菓子・飲料メーカーのCadbury(キャドバリー)が難聴児を支援する団体と共同で制作したもので、耳の不自由な方が味わう「会話についていけない」という孤独感を体感できる内容になっている。
広告は、女性が手話で「耳が聴こえない私は、会話に置いてけぼりになることがよくあります」と語りかけるところから始まる。
その後も女性は「友達と会話しているとき…」と話を続けていくのだが、手話の意味を表す字幕のところどころに邪魔が入り、広告を見る私たちは、彼女が何を言っているのか、完全には理解できない。
そして女性が話を終えると、動画は次のような字幕で締めくくられる。「話に置いてけぼりになったように感じましたか? そんな孤独感を抱く人が一人でも減るように、できることから始めましょう」。
字幕に邪魔が入って読めなくなるのは、一つの文章につき一つか二つの単語のみだ。しかしそれだけでも、話の内容が理解できず、会話についていけなくなってしまうことはある。健聴者には想像が及びづらい、そうした難聴者の困りごとを、身をもって体験できる内容だ。
キャドバリーは広告の他にも、ウェブサイト上で手話のミニレッスン動画を公開している。レッスンは1から20まであり、内容は「お元気ですか?」「お手伝いしましょうか?」など、簡単な日常会話だ。例え簡単なフレーズでも、手話を学ぶ人が少しでも増えることで、聴覚障害を持つ方々の孤独感を和らげることができる。そんな思いで、キャドバリーはレッスン動画を公開しているという。
ウェブサイト上にはレッスン動画に加え、耳が不自由な人とのコミュニケーションのヒントや、より高度な手話の学習方法についての情報も掲載されている。昨今、社会貢献性の高い広告をつくる事例は徐々に増えてきたが、キャドバリーの事例は広告だけでなく、総合的な支援を行う好例だと言えるだろう。
筆者も今回の記事を書いたことをきっかけに、英国式の「はじめまして」「こんにちは」という手話のフレーズを覚えてみた。例えごく簡単なフレーズでも、いつか耳の不自由な方と出会ったとき、その孤独感を和らげるのに役立つかもしれない──そんな示唆を、キャドバリーの広告から貰うことができたからだ。
手話を本格的に学ぶのはハードルが高いとしても、一つか二つフレーズを覚えるくらいなら、ものの数分あればできてしまう。SDGsで謳われている「誰一人取り残さない(leave no one behind)」社会の実現は、こうした小さな小さなアクションから、始まっていくのかもしれない。
【参照サイト】Cadbury Dairy Milk Fingers | Sign With Fingers Big & Small
Edited by Kimika