【2023年グッドアイデア】社会課題をジブンゴト化させる広告・クリエイティブ事例5選

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私たちの日常のいたるところにある広告。無意識のうちに私たちの行動に影響を与える広告は、行き過ぎた消費を促したり、知らないうちにコンプレックスを植え付けたり、ネガティブな面も少なくない。

その一方で、誰にでもわかりやすく、そしてクリエイティブな方法で、メッセージを伝えることができるのが広告の魅力でもある。とっつきにくい難しい話題や、今まで意識していなかったような社会課題であっても、クリエイティブなアイデアは、人々の関心を惹きつけることができるはずだ。

本記事では、日頃から世界のソーシャルグッド事例を配信するIDEAS FOR GOODが2023年に注目した、ユニークなアイデアをまとめてご紹介していこう。

世界のクリエイティブ・広告事例5選

01. 自力で打破することが難しい、ホームレスの現状を伝えるインスタレーション

ロンドンの駅に突如現れた「終わりのない壁」が教える、ホームレス状態のリアル

イギリスのHSBC銀行グループは、街のまんなかに「登ろうとすると動く」クライミングウォールをつくった。壁には、「No Bank Account, No Job, No Home(銀行口座がない、仕事がない、家がない)」とのメッセージが記されている。

人が壁を登ろうとすると、壁が下の方向に動いてくるため、いっこうに上に行くことができない。銀行口座がない、仕事がない、家がない、銀行口座がない……壁に書かれた言葉だけがループしていく。これはホームレスの人々が陥りやすい貧困のループだ。自分がホームレス状態の立場にならないと想像が難しいが、一度家を失うと、は社会から切り離され、経済的困難から抜け出すことが難しい。インタラクティブな装置を通じて、HSBC銀行グループは金融機関からの支援がホームレスを防ぎ、困難な時期を乗り越えるのにどれほど重要であるかを示した。

02. ピンとこない水不足問題を、自分ごと化する未来の食料品店。

ようこそ、水不足が進んだ未来の食料品店へ

水不足の問題は決して他人事ではないが、飲料水やシャワーの水にアクセスが容易な地域に暮らしていると、なかなかピンとこないかもしれない。この問題を可視化すべく、オランダ外務省は地球全体で水不足に陥った未来に登場するかもしれないオンラインショップ「The Drop Store(ザ・ドロップストア)」を打ち出した。

このショップには、極端に量が少ないのに高額な食品や、不衛生で安全性に問題のある食品などが並ぶ。例えば、この真水(Pure Water)。大さじ1杯で198ドル(2万6,000円相当)という高額な商品で、ただのきれいな水が将来的には贅沢品にもなり得ることを示している。遠く感じる問題を「買い物」という形で身近にあらわし、訪問者にリアルな体験を提供して、アクションを促す好事例といえるだろう。

03. 五感を使って危機を訴える、現代の森林浴の香り

森林火災を啓発する、アルゼンチンの「山火事の匂いがする」芳香剤

国際環境NGO団体・グリーンピースの南米アルゼンチン支部は、現代の森を象徴する香りの車用芳香剤を開発した。「La aroma de la conociencia(良心の香り)」と呼ばれるその芳香剤は、「山火事の香り」だ。定番の松の木の形をしているが、まったく爽やかな香りはせず、煙や木の焼けた強い香りを発する。

アルゼンチンの森を「悲しいほどユニーク」にしているもの、それは「ウッディで、スモーキーで、染み入るような」火の香りであるという皮肉がきいたメッセージも印象的だ。リフレッシュしたいときに使う、森林浴の香りが、近い将来変わってしまうかもしれない。嗅覚を使って問題を伝えるとてもクリエイティブなアイデアだ。

04. 子どもたちのプライバシーを守るための、ゾッとするくらいリアルなAI

子どもの顔をSNSに載せる親に「ディープフェイク」で警告する、ドイツの痛烈広告

通信事業者のドイツテレコムは、親が子どもの写真や情報をインターネット上で公開すると、子どもの将来に悪影響を及ぼす可能性があると警告する動画「Nachricht von Ella | Without Consent(エラからのメッセージ | 同意なし)」を公開した。9歳の女の子エラの1枚の顔写真と、AI(人工知能)を使い、成長したエラのディープフェイクが作られる。そして自分の親に警告する。「あなたたちがシェアしてる写真は、ただの思い出だと思ってるかもしれないけど、データなの。」

何気なくSNSに投稿している子どもの写真。たった1枚で子どもが危険な目に合うかもしれないことを、痛烈に批判した作品だ。AIが発展している現代だからこそ、あまりにリアルで不気味な表現が視聴者に刺さるかもしれない。

05. DV加害者になる前の、サインに気づかせる

「これって自分?」DV加害者にならないために。デート中の隠れたサインに気付かせてくれる広告

DVの問題の多くは、暴力を受けた際に「どう対処すべきか」という被害者からの視点で語られる。一方で、スコットランド警察は、家庭内暴力に対する新たな取り組みとして、DVの加害者になりうる人たちに、自らの言動を振り返り、「サイン」を見つけた場合は行動を起こし、事件を未然に防ぐことを呼びかけるキャンペーンを開始した。

今回のキャンペーンは、加害者側の視点に立つことで、自分の無自覚の言動が、暴力のサインかもしれないことに気づかせる狙いである。実際、DV加害者は自分の行動が暴力的であることに気づいていない場合が多いのだ。「もしかしたら自分も加害者になってしまうかもしれない」と気づかせ、早期の対応を促すユニークな事例だ。

まとめ

クリエイティブなアイデアは、広告を見た人に新しい発見を与えたり、行動変容を促したり、とてもインパクトがある表現方法だ。企業のイメージ向上や商品の販促だけではなく、その過程で社会もよくする広告がますます生まれてくることを期待したい。

近年はオフセットでの「カーボン・ニュートラル」を表現する広告がイギリスで禁止になったり、グリーンウォッシングや誇大広告として批判を受けたり、消費者のミスリードにつながらない表現が求められている。そうした規制が強まる状況も考慮しんがら、クリエイティブなアイデアが持つパワーを信じて、魅力的な広告が作られることを願う。

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