インターネットやアプリをはじめ、私たちの生活で大きな役割を担っているAI(人工知能)。ポーランドに本社を置く、グローバル企業である酒造メーカーのディクタドールは、なんとAIロボットをCEOに採用し、グローバル企業初の「AI社長」誕生を発表した。
こうしたロボットやAIは、私たち人間に取って代わる脅威となるのか、それとも、民主主義を促進したり、サステナビリティに寄与したりと私たちの社会を豊かにする存在となるのだろうか。
そんな議論があるなかで、デンマークにAIが主導する政党、Det Syntetiske Parti(人工党)が誕生した。人工党は、芸術家集団「Computer Lars」と技術系非営利団体「MindFuture」が協力して設計・プログラミングした政党だ。AIによる政策立案プラットフォームを持ち、政策はすべてAIが担当。2023年のデンマーク総選挙に立候補する意欲を示しているのだ。
人工党は、デンマークに230以上ある極小政党のデータを調査収集してきた。人々は、ボイスチャットツールのDiscordを通じて、AIと直接交流し「対話」できる。人工党は、このようにAIを活用することによって、「一般人の政治意識を代表できる」と主張する。
そして、既存の政党や政治システムに声が反映されている気がしないと不満を感じる人々や、投票に行かない人々(2019年総選挙ではデンマーク全体の20パーセントを占める)の声を反映しようとしているのだ。
それでは、デンマークAI政党の主張する「政策」とは具体的には何なのだろうか。政策の目玉の一つは、月額10万デンマーク・クローネ(およそ194万円。デンマーク平均月給の2倍以上)を支給するユニバーサル・ベーシックインカムだ。もう一つは、AIによるくじ引き民主主義で、国会議員と市民がランダムに入れ替わるという。
デンマーク総選挙に人工党が立候補するには、2万182名の署名を得る必要がある。今のところ署名は21名しか集まっておらず(2022年11月21日現在)、AI政党の挑戦が現実のものとなるかは未知数だ。だが、AIを用いて人々の政治意識を反映し、政策立案するところまで踏み込むのは、世界初の取り組みだといえよう。
もちろん、ここには重大な問題提起も含まれている。たしかにAIは、人々の政治意識を収集し、民意を反映できそうだ。しかし、AIが収集できるデータには、社会構造に伴うバイアスが含まれている。バイアスがあるにもかかわらず「AIが提示したのだから客観的なものにちがいない」と人々に思い込ませてしまうとしたら、どうだろうか。
また、民主主義を進めるためには「結果の正しさ」にかかわらず、「自分たちで決める」ことも重要な要素だ。AIが決めた政策に人間が従うだけだとしたら、そこに正統性はあるのだろうか。「よりよい」社会のために「こうすべきだ」という価値判断もAIに委ねてしまってもよいのだろうか。
人工党は、現在17目標あるSDGsに「人工物(AIやロボットなど)との共存」を加えて18目標とすべきだと主張している。どのようにすれば人間とAIが良好な関係を保てるのか。AIとの共存が問われる時代が到来しているのは、確かだ。
【参照サイト】Human-Like Robot CEOs
【参照サイト】The Danish Party’s Policies are Created Entirely by AI
【参照サイト】Can an AI-led Danish party usher in an age of algorithmic politics?
【参照サイト】Det Syntetiske Parti公式ホームページ
【参照サイト】Indenrigs- og Boligministeriet公式ホームページ
【参照サイト】東京大学未来ビジョン研究センター(2021)「国際シンポジウム:AIと民主主義」。
Edited by Erika Tomiyama