栄養が摂れない人に、野菜を“処方”。アメリカの貧困層を救うデビットカード「Fresh Connect」

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季節のアレルギーや感染症、ストレス。毎日忙しなく過ごしている人にとって、体調管理は難しく感じることもあるかもしれない。

ちょっとした風邪の場合は、栄養のある食べ物を買ったり寝たりして治ることがあるだろう。自力で風邪を治すことが厳しいとき、病院では医師の診察を受けた後に薬をもらう処置がとられることが一般的だ。

そんななか、アメリカ・ボストンのマス・ジェネラル・ブリガム病院では、食糧難に陥っている患者や、糖尿病の患者に新鮮な野菜や果物を「処方」している。「Fresh Connect」という専用のデビットカードを渡すことで、健康的な食事を日常的に食べられていない人が、好きな野菜や果物を無料で得ることができる仕組みだ。これは病気を治療するだけでなく、「予防」するための試みとも言える。

医療チームは、栄養のある食材を入手するのが困難な患者をオンラインシステムに登録する。健康状態を鑑みて、デビットカードの月額支給額と使用期間を決定し、患者の元へ郵送することで食材が処方される。

このカードは、食料品店、レストラン、オンラインマーケットなど45の加盟店で利用できる。会計時にカードを読み取ると、野菜や果物を認識し、支払額から引かれるようになっているのだ。

 

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Fresh Connectは、患者の買い物履歴を追跡することで、カードがどのように使用されたか毎月サマリーを作成している。また、この情報を電子カルテに結びつけて、患者の健康状態や医療費、健康的な食材へのアクセスを測定し評価している。2021年までに購入された金額の合計は、36万8,837ドル(約5,000万円)、1人の平均の購入金額は35.23(約4,728円)ドル、食料の売買記録は8,238回報告されている。

利用者は、「食料を無料で得られるのが1回限りでないことに驚いた」とコメントしており、栄養のある食材を十分購入することが可能になったことでストレスが緩和されたことが明らかになった。

Fresh Connect の年間レポート2021によると、アメリカにいる3,500万人以上の人が、低収入や食料の価格高騰、使う店の選択肢の狭さなどによって、健康的な食材を十分に入手できていないという。また、糖尿病はアメリカで慢性的な病気にかかる直接的な費用のうち2番目に高い。

同サービスを運営するのは、非営利団体の「About Fresh」だ。創業者がかつて働いていたヘルスセンター近くの食料品店が長期間休業したことで、患者が健康な食材を入手できなくなったことがきっかけで事業を始めた。はじめはフードトラックで街を走り、従来の食料販売を再考しながら、本当に必要とする人に届ける仕組み作りに取り組んできたという。

団体のビジョンは、「皆が健康で幸せであり、希望を持つための十分な食材を得られる未来に向けて、働きかける」こと。非営利であるため、財団や企業、個人、政府などから資金を集め、フードトラックと「Fresh Connect」の二つのアプローチで食料アクセスの問題について取り組んでいる。

野菜や果物を十分に得ることができれば、生活習慣が改善され、糖尿病などの予防につながることが期待される。オンラインで購入履歴とカルテを結びつけて効果を測定する仕組みも画期的だ。一人でも多くの人が不安を解消し、健康的な生活が送れる取り組みの今後に注目したい。

新鮮な野菜や果物の処方箋以外にも、IDEAS FOR GOODでは、医者がアートを処方したり、自然の中で過ごす時間を処方したりと、さまざまな事例を紹介してきた。どの処方箋を試してみたいか考えるだけでワクワクするに違いない。

【参照サイト】Fresh Connect
【参照サイト】About Fresh 2021 ANNUAL REPORT
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Edited by Kimika

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