アートやサーフィンを“処方”する。メンタルヘルスをケアする「社会的処方箋」アイデア7選

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長期化する新型コロナ、紛争、経済不安──そんな状況に、孤独感や孤立感を深め、メンタルヘルスを悪化させている方も多いのではないだろうか。

社会の変化や経済の問題、家庭の事情など、私たちを取り巻くさまざまな要因は、健康やウェルビーイングに大きな影響を及ぼす。そうした場合「薬」だけでは解決できないことが多いのも事実だ。

そんななか、薬の処方だけではなく、社会的な活動と人々をつなぐ“処方”をすることによってメンタルヘルスの回復やウェルビーイングを実現するアプローチがある。これを「社会的処方」と呼び、昨今では多くのエビデンスが蓄積されている。今日はそんな「社会的処方」の素敵なアイデアをのぞいてみよう。

世界の「社会的処方箋」アイデア

01. ブリュッセル発、美術館や博物館に無料入場できる「アート処方箋」

ベルギーの医師が美術館への無料入場を「処方」。コロナ禍の心のケアに

ベルギーの首都、ブリュッセルでは、医師が患者に「美術館や博物館への無料入場」を処方する試験的プロジェクトを2021年に実施した。カナダでも、カナダ医師会とモントリオール美術館が提携して行っている「美術館の処方箋」がある。アート鑑賞は、不安や抑うつを軽減し、幸福感をもたらすという研究もあるのだ。

02. 劇団が自転車でやってくる「演劇処方箋」


HandleBardsは自転車の荷台に小道具や衣装など、演劇に必要な道具を詰め込んでやってくるプロの演劇集団だ。彼らはシェイクスピア演劇、参加型ストーリーテリング体験、演劇を通じた自信回復ワークショップなどを提供している。

  • 国名:イギリス
  • 団体(企業)名:HandleBards
03. オーダーメイドのクラシックコンサートはいかが?「ミュージック処方箋」

その名もSong Surgeryというプロジェクトは、聞く人の気分やテーマに応じて、30分間のピアノと歌のオーダーメイド生演奏を提供する。人気を博しているプログラムで、ロンドンのミニコンサートは完売状態。ヨークシャーのスキップトン市役所では、ヨガと音楽の融合セッションを開いている。

  • 国名:イギリス
  • 団体(企業)名:Song Surgery
04. スコットランド森林局の「森林浴処方箋」

スコットランド森林局は、メンタルヘルスの屋外治療プログラム、Branching Outを提供している。週3日、3か月のプログラムで、森林のなかでのウォーキングや太極拳などの身体活動、鳥小屋作りや焚火などのクラフト作り、写真撮影や柳の彫刻などの環境芸術などに取り組む。プログラム修了者は修了証明書を授与され、地域のボランティアなどに貢献することが期待されている。

05. 自然で過ごす時間の「自然処方箋」

カナダで「自然のなかで過ごす時間」を患者に処方へ


カナダで2020年から始まったPaRxでは、医師が患者に対して「自然のなかで過ごすこと」を処方する。患者がPaRxのプラットフォームに登録すると、1人ひとりに最適な「自然処方」のアドバイスを受けたり、自然体験時間を記録したりできる。

06. お金の苦労を和らげる必要も。「ファイナンシャル・アドバイス処方箋」

心身の健康と経済問題は密接に連関しており、経済と健康の負のスパイラルも指摘されている。現在、ロンドンのランベス区とサザーク区では、こうした課題を抱える患者に対して、一般開業医がファイナンシャル・アドバイス・セッションを処方することができるようになっている。すでに約500人が、給付金の請求、補助金の取得、借金の処理などの支援を受けているという。

07. サーフィン、ローラースケート、ダンスなど若者向け「アクティビティ処方箋」

イングランドのナショナル・ヘルス・サービス(国民保健サービス)は、メンタルヘルストラストは、不安や抑うつ状態を感じている11歳から18歳の若者600人を対象に、本格的な医療を開始する前に、症状を悪化させないためサーフィンやローラースケート、ガーデニング、音楽、ダンス、エクササイズなどの各種活動に参加させる社会実験を開始した。これまでの小規模実験では、こうした社会的処方によって個人的・精神的なウェルビーイングが改善し、孤独感が軽減したと報告されている。

「社会的処方箋」の可能性

いかがだろうか。「薬づけ医療」と言われて久しい現代の医療。薬だけで解決するのではなく、社会・経済的状況に介入して、根本的に「治療」することが求められているといえる。こうした「社会的処方」は、メンタルヘルスに課題を持つ人々が地域で主体的に生きていくための有力な手段となるとともに、社会保障のコスト削減にもつながると期待されている。

もちろん、医師に「処方」されなくても、私たちの周囲には、趣味、ボランティア、地域のサークルなどいろいろな活動があるはずだ。そうしたなかで感じるやりがいや人とのつながりが心身を癒してくれることもあるだろう。紹介事例にとどまらず、さまざまな活動に思い切ってチャレンジしてみるのはいかがだろうか。

【参考文献】澤憲明/堀田聰子(2018)「社会疫学に関連した取り組み・研究と総合診療、英国における社会的処方」、『ジェネラリスト教育コンソーシアム』138‐144頁。

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Edited by Erika Tomiyama

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