【イベントレポ】気候危機に、ガラスができることはある?「クリエイティブ・サーキュラリティ」を考える

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気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。

気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。

私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上の大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。

Climate Creative企画では、第1回目は「ワクワクが未来を変える。気候危機にクリエイティブに立ち向かうアイデア最前線」、第2回目は「CO2排出量表示は消費行動をどう変える? ーデータを活用したナッジとコミュニケーションデザインー」、第3回目は「クリエイティビティを民主化しよう。気候危機に立ち向かう『企画』のつくりかた」というイベントをそれぞれ開催。

第4回目となる今回は、地球に還すスマホのガラスなど、廃棄を出さない循環型ビジネスを展開しているAGC株式会社の河合洋平さんと中川浩司さんを招いて、右脳と左脳で創る循環型ビジネスの創り方を探っていくことにしました。本記事では、そのイベントの様子をレポートします。

スピーカープロフィール

河合 洋平さん河合 洋平(AGC株式会社 技術本部 企画部 協創推進グループ マネージャー)
素材の会社AGCで協創活動を行う傍ら、クリエイティブな活動を通じて素材の新たな価値を探求するUNOU JUKUを主催。「人を癒すガラスをつくりたい」という想いからクリエイターとの協創を始め、「空を閉じ込めたガラス」や土地の記憶を素材に込める「素材のテロワールプロジェクト」を通じて素材の情緒的な価値を探求している。

中川 浩司さん中川 浩司(AGC株式会社 技術本部 企画部 協創推進グループ マネージャー)
2006年入社。研究開発から始まり、主にスマートフォンのカバーガラス開発に携わる。その後、シリコンバレーでの技術マーケティングを機に、本場のデザイン思考と出会う。現在は社外との協創活動とデザイン思考により新しい価値創出を担当。素材屋視点のサーキュラーエコノミーモデルの構築と実装に力を入れている。

ハ―チ株式会社 宮木志穂宮木志穂(ハーチ株式会社 IDEAS FOR GOOD Business Design Lab)
在学中は英国リーズ大学に留学し社会学を専攻。2019年よりIDEAS FOR GOODで国内・東南アジア・ヨーロッパを中心にサステナブル企業/団体を取材。世界のアイデアを組織のサステナビリティ推進の加速に繋げたいと思い、2020年IDEAS FOR GOOD Business Design Labを立ち上げる。社内教育支援、オウンドメディア運営や事業開発の伴走支援等に幅広く取り組む。

正解のない課題に立ち向かうアプローチとは

今回のテーマは「アート思考で生み出す循環型ビジネス」。廃棄を出さない循環型のビジネスモデルをつくるうえで、価値の創造や回収の仕組みづくりなど、答えのない複雑な問いにぶつかることも多くあります。

河合さんは、テクノロジー・サイエンスに偏って生み出されてきた従来の事業開発では、その複雑な問いに対処できないと言います。論理的な思考を司る左脳の働きだけでは、不十分なのです。複雑な課題を解くためには「右脳が生み出すクリエイティビティ」を取り入れることが重要になるのだそうです。

しかし学校教育において、右脳を使うような授業を受ける機会はかなり少ないのが現状です。そこで、AGCでは「UNOU JUKU(右脳塾)」と呼ばれる社内コミュニティを設立。300名ほどのメンバーとともに、クリエイティブな情報交換の場を通してコミュニケーションを図りながら思考のアップデートに取り組んでいるそうです。例えば、ガラスの新たな活用方法を模索するため、デザイナーと協同して意見交換やワークショップ、プロトタイピングを実施。そのプロダクトを展示することで、新たなアイデアの発見にもつながっていると言います。

河合さんは、この「UNOU JUKU」の活動が即座にビジネスにつながるわけではないと言います。クリエイティブな思考を身につけ、コミュニティの文化が変容した先に新たなビジネスが生まれることを期待しているそうです。

ビジネスを通して正解のない社会課題を解決するためにも、「まずはアートやデザインのような、右脳側のアイデアを組み込んだ新しい思考サイクルを自分の中に生み出すことが大切だと思います」と河合さんは語りました。

サステナラボについて

次に中川さんからシェアがあったのは、AGCが運営している「サステナラボ」について。このプロジェクトのきっかけは、社内でも何かサステナビリティにかかわる事業を始めたいという声があがったことでした。しかし、メンバー間でもサステナビリティに対するイメージはバラバラ。そこでまずは議論を活性化し、テーマを創出することを目的に「サステナラボ」が立ち上げられたそうです。

サステナラボでは、外部からサステナビリティに関する活動をしている人を招いたり、自分たちで学んだことをアウトプットするためのワークショップを開いたりしているそうです。また、サステナラボは基本的にオンライン開催ですが、協創空間を実現するためにサステナラボの部屋を実際に用意し、情報発信やアイテムの展示をおこなっています。

サーキュラーエコノミーの実現と素材メーカーの役割

さまざまなテーマを探索するなかで、現在AGCが目指しているのがサーキュラーエコノミーの実現。「我々が使っている素材が枯渇しつつある。それはガラスの素材である砂も同じ。これからもこの地球で人類が生き続けるためには、この現状に目を向ける必要があります」と中川さんは言います。

これまでの経済活動は大量生産・大量消費・大量廃棄を前提としていたため、廃棄物や大気汚染は蓄積し、限られた資源をやがては使い果たしてしまうことになります。サーキュラーエコノミーによって、投入された資源が再活用を前提にデザインされ、廃棄物がほとんど生まれない状態を目指します。

サーキュラーエコノミーの説明

また、資源の再利用を目指すリサイクリングエコノミーもサーキュラーエコノミーと似ているイメージがありますが、両者は明確に区別されると中川さんは言います。リサイクリングエコノミーでは、製品をつくる過程で生まれる廃棄物の一部を資源として再利用するのにとどまります。一方、サーキュラーエコノミーでは素材の段階で回収や再活用が前提となっているため、廃棄物や汚染はほとんど出ません。上の画像にある図のように、生産と消費を常に循環させることで、持続可能な仕組みを目指しています。

ただ、理想にはまだまだ遠いとのこと。AGCが扱う建築用ガラスの分野では、ビルが解体されたあと工場に戻ってくるガラスは1%ほどにとどまり、ほとんどは他の素材と一緒に埋め立てられているそうです。

この現状について、中川さんは「認識が変わらなければプロセスも変わっていかない」と言います。企業が原料に対する認識を改め、協創することで、これからつくるものの設計をより循環しやすい形にできるのではないかと考えているそうです。

テロワール活動について

素材に対する捉え方を変えていく活動のひとつとして、AGCは「素材のテロワール活動」に取り組んでいます。これはさまざまな土地を訪れ、その土地の砂でガラスをつくるというもの。中川さんによると、砂ごとに成分が違うため、その土地の砂でガラスをつくるとその土地ならではの色のガラスになるのだそう。このように、その土地の記憶を込めたガラスをつくり、現地の人々に愛着を持って長く使ってもらうのがこの活動のねらいだと言います。

これは元々、海馬ガラス工房の村山耕二さんというアーティストが行っていた活動で、その想いに共感したAGCが現在ともに活動を行っているそうです。

このテロワール活動の一環で、東京藝術大学の学生とともに、長野県の諏訪(すわ)市でガラスのプロダクトをつくるという企画を実施したとのこと。諏訪湖に流れる上川の砂を用いてガラスをつくったところ、写真のような真っ黒なガラスになったと言います。

諏訪でできた黒いガラス

中川さんは「諏訪にいる人たちが自ら関わり、考え、続けていく仕組みづくりをこの活動を通してこれから行っていきたい」と話しました。

コミュニティの多様性が新たな視点を生み出す

イベントの後半では、「正解のない問いに対してどう向き合っていくか」というテーマで議論が行われました。河合さんは、正解のない問いに向き合っていくためにはコミュニティの多様性がもっとも大切だと言います。さまざまなバックグラウンドを持った人と意見を交わすことで、お互い刺激になって新たな視点が生まれるのだそうです。

今後もClimate Creativeでは、多様なバックグラウンドを持った人と協同して気候危機に立ち向かっていきます。

次回のClimate Creative企画にも、ぜひご期待ください!

※1 What Is Climate Change?- United Nation

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