サーキュラーエコノミーをデザインするプロジェクトやアイデアを表彰するグローバルアワード「crQlr Awards(サーキュラー・アワード)」。国内初のサーキュラー・デザイン分野のアワードとして2021年に始まり、今や、持続可能な経済・社会を目指すプレイヤーの登竜門となっている。4回目の開催となった2024年度には、世界各地から約140のプロジェクトが集まり、29組が受賞、3組が特別賞を授与された。
IDEAS FOR GOODでは、アワード審査員への取材や受賞プロジェクトの紹介などを通して2024年度の特別賞のテーマである「サーキュラーバイオエコノミー(※)」の現在地と可能性を深掘りしていく全4回の連載を行っている。今回は、特別賞受賞プロジェクトのひとつである「Bio-Moon Lab」を紹介する。
※ 生物学的プロセスを活用することで、自然のシステムの中でより再生的な循環のループを作ろうとするサーキュラーエコノミーを指す。

Image via crQlr Awards
“生きた光”でバイオライトを作る「Bio-Moon Lab」
Bio-Moon Labは、ビブリオ・フィッシェリと呼ばれる発光する海洋細菌を培養皿や培地(培養液)で育成し、従来の人工照明の代わりとなる持続可能な“生きた光”を開発するプロジェクトである。
ビブリオ・フィッシェリは特に温暖な海域で多く見られる海洋細菌で、増殖して一定の数を超えると一斉に光り出すという性質を持っている。この性質を利用し、細菌の成長を調整することで、自然の光を利用した照明として活用できる可能性があるのだ。
気候変動への危機感が高まり、電力を含めた持続可能なエネルギー生産の方法が議論されて久しい。その議論の焦点は、いかに化石燃料依存型からCO2を排出しないエネルギーへの転換を図るか、というものではないだろうか。
Bio-Moon Labは、人間が電力を得る方法の中に、全く新たな「生物の光」という選択肢をもたらす。ビブリオ・フィッシェリが発光する過程ではCO2が排出されないため、より再生的に光を得ることができるとされているのである。

Bio-Moon Labのライトインスタレーション / Image via crQlr Awards
こうしたバイオテクノロジー(生物工学)は、ともすると難解なものに感じられるかもしれない。だからこそ、Bio-Moon Labはバイオライトでアート作品を制作し、生物発光の美しさや身近な手段としての可能性を広く伝え、議論を巻き起こそうとしている。
今回のアワードには、バイオライトで月の満ち欠けを視覚的に表現したデジタルイメージや、蝶の形をした培養皿を並べたライトインスタレーション、リアルタイムで生物発光を生み出すバイオライトの3つの作品が応募された。
プロジェクトの主導者は、ロンドンを拠点に活動する現代アーティストのローラ・ベネットン氏。自身の絵画表現の延長として、LEDライトを取り入れた実験を行う過程で、LEDライトチューブの人工光をバイオライトに置き換える可能性を分析し始め、今回のプロジェクトに至ったのだという。

生命と自然のリズムを想起させる月の満ち欠けを表現したデジタル・ジークレー版画「Bio-Moon」 / Image via crQlr Awards
微生物に権利はあるのか?自然と人間の持続可能な協働に向けて
アワード審査員の一人で今回の特別賞のテーマ策定に大きく関わったKalaya Kovidvisith氏は、「Bio-Moon Labは、電気に代わり生物発光の儚い輝きで世界を照らすという革命を巻き起こします。この画期的なイノベーションは、従来のエネルギーシステムの限界に挑戦し、最先端の科学と自然界をつなぐ調和の架け橋を築いています」
とコメントを寄せる。
一方で、この技術が広く社会に実装されることを想像したとき、「微生物に権利はあるのか」「人間は“生きた生物”を自分たちの都合の良いように利用しても良いのか」といった倫理的な問いも浮かんでくる。
たしかに、バイオライトの活用によってCO2の排出量は削減できるかもしれない。一方、こうした技術の活用が自然界にもたらす影響まで考えなければ、人間の便利な生活を維持するために生物を都合良く活用するという構図はこれまでと変わらないのではないだろうか。
多様な生物を含めた自然と、どうすれば双方にとって良い協働ができるのか。バイオライトから芽生えるこの大きな問いを、私たち自身に向け続けなくてはならない。
【参照サイト】BIO-MOON LAB
【参照サイト】「BIO-MOON LAB」 ローラ・ベネトン x BioClub Tokyoトークイベント
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