【イベントレポ】デジタルサステナビリティをどう実現するか?事例で学ぶ、創造力【Be Climate Creative!】

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気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。

気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。

私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズは、その答えを探るために共創プロジェクト「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」を発足。Climate Creativeは2023年1月にデジタル・サステナビリティをテーマにしたイベント「ワクワクが未来を変える。気候危機にクリエイティブに立ち向かうアイデア最前線」を開催しました。

本記事では、そのイベントの様子をレポートします。

スピーカープロフィール

加藤さん加藤佑(ハーチ株式会社・代表取締役)
2015年にハーチ株式会社を創業。社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」、サーキュラーエコノミー専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜のサーキュラーエコノミープラットフォーム「Circular Yokohama」など、サステナビリティ領域のデジタルメディアを運営するほか、企業・自治体・教育機関との連携によりサステナビリティ・サーキュラーエコノミー推進に従事。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。東京大学教育学部卒。

宮木さん宮木志穂(ハーチ株式会社・IDEAS FOR GOOD Business Design Labチーフビジネスデザイナー)
2019年よりIDEAS FOR GOODで国内・東南アジア・ヨーロッパを中心にサステナブル企業/団体を取材。世界のアイデアを組織のサステナビリティ推進の加速に繋げたいと思い、2020年IDEAS FOR GOOD Business Design Labを立ち上げる。社内教育支援、オウンドメディア運営等や事業開発の伴走支援等に幅広く取り組む。

倉地さん倉地 栄子(株式会社メンバーズ)
カナダ政府局(NPO)で難民・移民保護支援活動を経て、メンバーズに入社。Web運用、構築、設計、改善など幅広く従事。 現在は、社会課題解決型のマーケティングやコミュニケーションのプロジェクトを推進。 関心テーマは気候変動・森林と農業・地方創生。趣味は、スノーボード、サーフィン、畑など自然と戯れる遊びが好き。

我有さん我有 才怜(株式会社メンバーズ)
2017年にメンバーズ新卒入社。社会課題解決型マーケティングを推進するほか、幸福度ランキング上位国デンマークのデザインコンサル会社Bespokeとともに「Futures Design」というメソッドの日本展開に従事。また、社内のクリエイターとともにサステナブルWebデザインLab.を運営。気候変動への危機感や市民運動への興味から国際環境NGOでも活動中。

気候危機をクリエイティブに解決する「Climate Creative」

イベントでは、まず株式会社メンバーズの倉知栄子さんから、Climate Creativeの意義の共有がありました。

Climate Creativeプロジェクトを端的に言えば、「気候危機をクリエイティブに解決することを目指す、人や企業のコミュニティ」です。この「Creative(創造的であること)」には、デザインやアート、テクノロジーなどといった狭義の創造的な活動以上の意味合いがあります。切迫する危機を正しく理解し、そのうえで希望を見出し前を向いて立ち向かう。そういった一人ひとりのスタンスも含めて「Creative」としています。

「コミュニティ」という形にしたのは、多種多様なバックボーンを持つ人が集まって、ネットワークを構築し、みんなの力でムーブメントを巻き起こそうとしているからだと倉知さんは言います。

人が複数集まれば、そこからコミュニケーションが生まれます。創造的なコミュニケーションには、人々がこれまで描いていたものとは違う新しい見方を与える力や、分断を生み出してきたナラティブ(物語の語られ方)を変える力があります。

分断を生み出してきたナラティブとは何でしょうか?たとえば、先進国と途上国における気候危機の見え方の違いが挙げられます。今まで温室効果ガスを大量に排出してきた先進国における気候危機の見え方と、環境被害を今まさに受けている途上国における気候危機の見え方の間には大きな隔たりがあります。見えている世界や物語が違う両者の間で対話が生まれ、物語を共有できるようになれば、ともに同じ方向を向いて気候危機に立ち向かえるでしょう。

Climate Creativeでは、気候変動に対するマインドだけではなく、現状を変えていくために必要なスキル・知識などの共有やほかの企業とのコラボレーションなども積極的に行い、実際に行動を起こしていくことを目指しています。

創造力で気候危機に立ち向かう。「Climate Creative」に込めた思いとは?

そもそも「気候危機」とは何なのか?

「気候の危機とはなんなのか?」

次に、IDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社の加藤から、気候危機の複雑性についてのお話がありました。気候危機における「危機」とは、単に気候変動で環境が悪化することのみを指すものではありません。気候変動によって、社会や自分たちの心などにも大きな危機が生まれているのです。

加藤さん

たとえば社会面では、気候変動の影響が少ない地域に富裕層が移住する「気候ジェントリフィケーション」と呼ばれる現象が起きています。富裕層が移住することでその土地の価格が上昇し、今までそこに住んでいた人が住めなくなってしまうなどの問題が指摘されています。

また、気候変動による心理的な影響も見逃せません。気候変動に敏感になるあまり、「自分が息を吐いて二酸化炭素を生み出してもいいのか」とまで追いつめられてしまうような「エコ不安」や、環境に配慮した行為ができなかったときに自分を過剰に責めてしまう「エコギルティ」を感じている人も少なくないのです。

そんななかでClimate Creativeが注目するのがデザインの力です。人々を取り巻く製品やサービス、インフラの環境負荷の80%がデザインの段階で決まると言われている中で、だからこそ「一人一人が持っているクリエイティブをどう引き出すか?」「どう想像的に立ち向かっていくのか?」を考えていく必要がある、と話しました。

デジタルをサステナブルなものに

そんなふうに実現したい未来に向かっていくために、今回のイベントで注目したトピックが、「世界中のクリエイティブなデジタル・サステナビリティ」です。

IDEAS FOR GOODの宮木からは「デジタルビジネスをどうサステナブルなものにしていくか?」という問題提起がされました。

デジタル上の活動は、排気ガスなどが目に見えないので、環境に優しいものと思われがちです。しかし、インターネット使用による二酸化炭素排出量は、世界全体の温室効果ガス排出量の約3.7%を占めると言われているほど、多くの環境負荷がかかっているのが事実(※2)。デジタルは確かに目に見えませんが、サーバーやデバイスなど物質的なものから支えられています。見方を変えると、デジタルテクノロジーを使ったビジネスをサステナブルなものにしていくことは、それだけ大きな効果が期待できると言えるでしょう。

ハーチの取り組み

宮木さんは、デジタルビジネスをサステナブルなものにしていく取り組みの例として、IDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社の事例を取り上げました。ハーチでは、海外などに出張に行く際に一定の出張ポリシーを設けています。例えば、飛行機の直行便とトランジットで環境負荷が少ないほうを選んだり、現地でも公共交通機関を利用したりするというもの。ポリシーを持って出張したあと、そこで学んだことを独自の視点としてコンテンツに活かしていきます。

ハーチが運営するコンテンツも、サーバーにかかる温室効果ガスが発生します。そのため、ハーチでは地方のカーボンクレジットを購入したり、地方と連携してイベントを開いたりして、排出した温室効果ガスを価値に変えていくようにしています。

ハーチ

サステナブルなウェブデザインとは

続いて、メンバーズの我有さんからシェアがあったのは「サステナブルウェブデザイン」という考え方です。

そもそも、サステナブルウェブデザインとは「ウェブデザインも地球環境に配慮したものにしよう」という考え方。そこで大切になるのが、温室効果ガスとエネルギー消費量の削減です。そのためには、ウェブサイト上での演出を極力シンプルに抑えたり、色をモノトーンにしたりといった工夫が必要になってきます。

例えば、イタリアのデザインスタジオ「Formafantasma」のサイトでは、背景の動きなどはなく、使用している色もシンプル。写真も小さなものを使うことでエネルギー消費を抑えています。

CO2を削減。イタリアのデザインスタジオが作成した「簡素化されたWebサイト」

次に挙げられた事例は、ドイツの高級車ブランド「Volkswagen(フォルクスワーゲン)」のサイト。サイトに大きく表示された、車が浮き出て見えるデザイン。しかしよく見てみると、浮き出て見える車は写真ではなく、すべて文字からつくられています。読み込みに大きなエネルギーが必要な画像ではなく文字を使うことで、エネルギー消費を必要最小限に抑えているのです。

Volkswagen

Image via Volkswagen

さらに我有さんは、メンバーズの取り組みを紹介。メンバーズではサステナブルウェブデザインに則った年末あいさつページをつくっています。いつまでもサイトページがサーバー上に残っていると、それが負荷につながってしまうため、年末年始の約1か月間だけオープンしているのだそうです。

多くの人との協業が必要不可欠

イベントの後半では、「デジタルとサステナブルで気候危機に立ち向かうには?」というテーマで議論が盛り上がりました。

気候危機という複雑かつ巨大な問題に立ち向かうためには、多くの人との協業が必要不可欠です。Climate Creativeは、これからさらに多くの人を巻き込みながらムーブメントを起こしていきます。

今後のClimate Creativeに、ぜひご注目ください!

※1 What Is Climate Change?-United Nation
※2 Why your internet habits are not as clean as you think-BBC

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