赤と緑の区別がつかない。他の色に見える…… そんな感覚を持つ人は、意外に身近にいる。公益社団法人日本眼科医会によると、日本における「先天赤緑色覚異常(※1)」の発生頻度は、男性5%、女性0.2%だという。男性の場合は、およそ20人に1人という計算になる。
※1 色盲、色覚異常、色覚障害、色弱、色覚多様性などさまざまな呼び方があるが、ここでは特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)に倣って「色弱(しきじゃく)」とする。
いわゆる「色弱」とは、目の網膜にある3種類の錐体細胞、L錐体(赤)、M錐体(緑)、S錐体(青)を感じる細胞のうちのいずれか、すべてが欠損しているか、不完全な場合に使われる言葉だ。
色弱ではない人が多数派の社会のなかで、不便を感じることも多いという。たとえば駅の改札口の進入可否が赤色で表示されていると、文字が沈んで見えてしまったり、非常ボタンが分かりづらかったり、仕事で使う資料やスライドで使われた色の違いが分からなかったりと、さまざまだ。
そこで、今回はそんな多様な色彩感覚を持つ人たちの見え方がどのようなものなのが体験できるサービスやサイトを紹介する。
撮った写真の色彩が確認できる「色のシミュレータ」
一つ目は、医学博士・メディアデザイン学博士の浅田一憲が開発した「色のシミュレータ」。自分のカメラロールから写真を選ぶと4種類の色彩が表示され、色弱の人たちの見え方を体験できる無料のツール。まずは、フルーツの写真で試してみよう。
- 左上のC(一般型色覚)が元の写真
- 右上のP(1型2色覚)は、赤色を感じるL錐体が正常に機能せず起こる
- 左下のD(2型2色覚)は、緑色を感じるM錐体が正常に機能せず起こる
- 右下のT(3型2色覚)は、青色を感じるS錐体が正常に機能せず起こる
元の画像を抜いた3枚を比べてみると、色弱といってもさまざまな見え方があることがわかるだろう。P型とD型では、いちごやオレンジが緑色に見え、一瞬見ただけでは果物の識別が困難である。T型では、ブルーベリーの色が緑色に見え、全体的に赤みが強いように感じられる。
別の画像でも試してみよう(画像の配置である色弱の型は最初のものと同じ)。
左側の写真は、虹の色を見比べて見たもの。色覚の型による違いが一目瞭然だ。また、右側は屋久島にあるウィルソン株の写真。木に緑の葉っぱがついている左上の元写真と比べると、見え方が全く異なることがわかる。
「色のシミュレータ」をダウンロードする以外にも、色弱の世界の一部を疑似体験できる。以下がその例だ。
「色覚障がい」の疑似体験ができるサイト
東洋インキ株式会社が手がける、色をテーマにしたWEBマガジン「1050+」では、色弱の人にとっての世界がどのように見えているかを再現している。
交通標識や洋服など6種類の画像があり、タブを押すと、P・D・Tと3つの型の人が見えるように画像の色彩が変化する。型ごとに写真に説明も書いてあり、特徴がわかりやすい。
サイト名の「1050+」とは、100年以上色彩を世界に提供してきた歴史のある同社の新しいカラービジネスプロジェクト名。色見本帳の色数である「1050」と色弱や環境問題など持続可能な社会のために様々な分野への広がりを「+」で表しているという。
まとめ:色の多様性の視点
色弱の状態の呼び方は、それぞれの人や団体によって異なる。「色覚異常」や「色盲」などの言葉は差別的な呼称であると感じられる人もいるため、さまざまな呼び方が模索されている。
2017年には日本遺伝学会が、ヒトが持つ多様な色覚に着目した「色覚多様性」という概念を提唱。また日本眼科医学会では、学術用語の「色覚異常」に代わるよりよい呼称を模索しているというが、まだ生み出せていないということを2019年発刊の冊子で語っている。
上記のアプリや疑似体験サイトを使うことで、少なくとも公共のマークや街に溢れる広告、そして自分の作ったデザインが「色弱の人にも認識しやすいかどうか」という視点が生まれる。プレゼンテーション用に作成した資料で、目立つように使用した赤が、色弱の人には、かえって見えづらいこともある。
自分や身の回りの基準だけではなく、どんな特徴を持った人にも認識しやすいデザインが増えてきたら、よりワクワクできる世の中になるのではないか。
【参照サイト】TOYO INK 「色覚障がい」の疑似体験
【参照サイト】NPO法人カラーユニバーサル機構 色覚の呼称
【参照サイト】公益社団法人 日本眼科医会 色覚異常を正しく理解するために
【参照サイト】国土交通省 色覚障害者の実態の把握
Edited by Kimika