広告といえば競合に負けない「自社の強み」を最大限にアピールするものだ。例えば、互いをライバル視しているコカ・コーラとペプシコーラ。「こちらのほうが相手よりも優れている!」とユーモアたっぷりにアピールする広告合戦は、毎回話題を集めている。
さまざまな企業が競合に負けぬように広告を出稿するなか、自社の広告枠を「競合企業に」「無料で」提供した企業がある。それが、オーツミルクを中心に扱うスウェーデンの食品ブランドOatly(オートリー)だ。
同ブランドは、自社が支払った広告スペースのうち半分を、同じように乳製品の開発に取り組むライバル企業に無償で提供することを決定。出稿する資格があるのは、気候変動問題に取り組んでいるブランドのみだ。出稿を考えている乳製品ブランドは、キャンペーン用のURLにアクセスし 、Oatly が気候に関わる認証を取得するために答えたものと同じ質問に答える必要がある。
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同業者の出稿を募集するこの広告は、2023年5月8日に、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズ、ワシントンポストに掲載。また、翌9日にはタイムズスクエア、ロサンゼルスのハリウッドにある大きな看板でも公開された。
Oatlyが広告スペースを無償で提供することに至ったのは、自社だけでなく業界全体で環境問題に取り組むべきだと考えたからだという。同ブランドのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターである Armando Turco氏はキャンペーン開催に至る経緯を“Sustainable Brands”のインタビューでこう答えている。
「このキャンペーンの最終的な目的は、製品が地球に与える影響の透明性を提唱し、消費者がより多くの情報を得た上で購入できるようにすることです。私たちは、今年初めから製品の気候認証の数値を公表しており、このことをもっと知ってもらいたいと考えていました。これはOatlyにとって普通のことですが、他の企業が追随してこそ、消費者のためになると考えます」
「少ない環境負荷で、多くの栄養とおいしさを届ける」ことをミッションとするOatly。同ブランドは、2029年までに 製品1リットルあたりの気候フットプリントを70%削減することを目標に掲げ、製造過程で発生する麦の廃棄物の再利用や、梱包素材をリサイクル資材に変更することなど、持続可能な社会を作り上げる取り組みを積極的に行なってきた。
一方で、Oatlyは自身の取り組みについて多くの批判を受けてもいる。2018年には、オーツミルクを生産する際に出る残留物を養豚場に販売していることが話題に。その際、「環境フットプリントを減らすためのオプションとして、牛乳よりも優しいとされている植物性ミルクの製品を作っている一方で、これまでの畜産業を支援している」とヴィーガンの人々から批難の声が上がった。
また、とあるCMにおいて、実際には一部の製品のことを指しているにも拘らず、すべてのOatly製品が「牛乳に比べて73%もCO2を削減している」かのようなミスリードと捉えかねられない表現を採用しているとして批判を受けたこともある。
Oatlyの社会課題への取り組みは、まだ完璧ではないのかもしれない。しかし、失敗ににめげてしまわず、自分たちの至らなさを認め、またできることから課題へ取り組もうとするのは、大事な姿勢ではないだろうか。
同業者を巻き込み、一緒に気候変動へ立ち向かう今回のキャンペーン。競合同士で争わず、共創していく仕組みがこれからどのように生まれていくのか、楽しみである。
【参照サイト】 Oatly Challenges Big Dairy to Climate Footprint Showdown (Sustainable Brands)
【参照サイト】Oatly ads banned over ‘misleading’ environmental claims
Edited by Yuka Kihara