【イベントレポ】「捨てる」から考える、まちのサーキュラーデザイン 〜 多摩美術大学TUB × 鹿児島県大崎町の実践 〜

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気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。

気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。

私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上の大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。

Climate Creative企画ではこれまで、数々のイベントを開催してきました。

7回目となる今回は、「『捨てる』から考える、まちのサーキュラーデザイン 〜 多摩美術大学TUB × 鹿児島県大崎町の実践 〜」と題し、多摩美術大学美術学部 生産デザイン学科 プロダクトデザイン専攻教授の濱田芳治先生と、鹿児島県大崎町をフィールドに活動する合作株式会社・取締役の鈴木高祥さんを招いて、循環するまちづくりのヒントを探ります。

この記事では、そのイベントの第一部の様子をお伝えします。

話者プロフィール:濱田芳治

コミンズ・リオ多摩美術大学美術学部 生産デザイン学科 プロダクトデザイン専攻教授。インハウスデザイナーとしてスポーツプロダクトの開発、ブランディング業務に携わった後、Studio Galleryworksを設立。グッドデザイン賞の審査委員を歴任。2021-科学技術振興機構ACT-X 領域アドバイザー。TUBすてるデザイン プロジェクトリーダー。

話者プロフィール:鈴木高祥

コミンズ・リオ合作株式会社・取締役 株式会社カゼグミ 代表取締役。茨城県水戸市出身。ファシリテーション、企画立案を軸に事業をサポート。2006年ごろからソーシャルデザインの文脈に関わる。関東圏に軸足を置きながら、地方での関係人口やシティプロモーション事業に2016年から従事し、合作に2021年4月から取締役として参加。参加型のプロセスデザインや三方よしの企画を考えることで、課題に対する新しいアプローチを生み出し、実行フェーズの裏方まわりをお手伝いすることが多い。

鹿児島県大崎町の自主的な取り組みにより、リサイクル率日本一に

最初に、合作株式会社(以下、合作)の鈴木さんより、大崎町のサーキュラーな取り組みについて紹介がありました。

鹿児島県大崎町は、およそ25年前から町の呼びかけで町民がリサイクルに協力し、2006〜2020年の間に14回、リサイクル率が日本トップを記録しています。その一つの要因として、大崎町は人口13,000人ほどの町で、ごみの焼却処分場がないことが挙げられます。埋立処分場の延命化をするために、月1回町民は指定された場所にペットボトルなどの資源ゴミを持っていき、27種類のごみに細かく分別して資源化しています。それ以外の、長靴や唾液や血液がついたティッシュなど現状リサイクルできないもの埋立ごみになります。

一方で、鈴木さんは「大崎町には普通の町と同じようにコンビニやスーパーがあり、プラスチックのごみもある」と強調します。ただ、「生ごみ以外のごみを捨てられるのは月1回しかなく、臭いがこもらないようにプラスチックのごみなども洗って乾かして保管するため、ごみを捨てる際には綺麗な状態が多い」と言います。

ごみを分別する場所

ごみを分別する場所

これは、結果としてごみが資源として高く売れることに繋がり、そうして大崎町の資源リサイクル率は81.6%と、高い水準を保っているのです。また、生ごみは週3回回収され、微生物の力で堆肥化する有機工場で堆肥化され、町の農地に還元されます。さらに、分別を呼びかけたり、どのように分別するのかを相談したりするプロセスで地域内でコミュニケーションが生まれるようなデザインをしています。

リサイクルへの取り組みをきっかけに、環境のみならず経済や社会に還元していることが特徴的です。

生ごみを堆肥化する有機工場。有機工場の管理する職員は「生き物係」と名づけられている

生ごみを堆肥化する有機工場。有機工場の管理する職員は「生き物係」と名づけられている

企業との連携により、さらに資源循環が進む町へ

合作のメンバーのうち、6人が大崎町に移住し(うち1人はUターン)、大崎町の循環するまちづくりの取り組みを拡大すべく尽力しているといいます。

たとえば、町外との連携です。大崎町では大崎町SDGs推進協議会ができたことにより、企業との連携が進んでいます(合作では、協議会をサポート運営)。その一つの事例として、協議会が地元メーカーと企業を繋いで商品化のサポートをした、紙パックの資源循環のための2つの取り組みが紹介されました。

まずは、紙パック自体の開発です。ジュースなどの飲料に使われる紙パックは、内側にアルミ箔が貼られていると大崎町では固形燃料として分別せざるを得なくなります。そこで、新たな技術を使って内側にアルミ箔が要らない紙パックを開発しました。大崎町では紙パックとしてリサイクル可能となり、資源の循環に繋がります。

また、紙パックの上部にプラスチックのフタがついている場合、ハサミで切って取り外す必要があります。

大崎町でごみの分別を推進してきた町民の高齢化が進み、分別したくても分別しづらいという状況が生じています。鈴木さんによると、今まで当たり前のようにできていたことができなくなると、高齢者の自尊心の低下にも繋がるそうです。

そこで新たに開発された「トルキャップ」は、ハサミを使わず手で簡単にプラスチック部分を取ることができるため、手間がなくなり安全に取ることができます。環境にいいデザインがユニバーサルデザインという社会的側面にもアプローチできるということが分かります。

リサイクル率日本一の町で終わらせない。循環システムを可視化して伝える

合作は、指標や共通認識のデザインも手がけています。

大崎町はこれまで「リサイクル率日本一の町」という紹介をしていました。しかし、鈴木さんによれば「リサイクル率日本一の町」というのはあくまで結果であり、その言葉からコミュニケーションは生まれにくくなるのだそうです。そこで合作は「リサイクルの町から世界の未来をつくる町へ」という言葉を開発し、大崎町の方向性を示しました。これにより、共感・賛同する人々のアクションを引き出すことに繋がったそうです。

また、「循環型社会を目指す上で大崎町に何ができるか、その周辺との関わり(システム)を可視化して伝えることも重要だ」と鈴木さんは訴えます。下の図を作ったことにより、循環は大崎町だけでは成立せず、様々な主体との連携が重要だということが多くの人の共通認識となりました。

連携するための「関わり代(しろ)」をつくることも大切だと言います。鈴木さんは「素敵な目標だけでも、連携の重要さに気づくだけでも、実際の協力関係は生まれません。しっかりと連携するためのしくみをつくることが、多くの連携を生み出していきます」と話しました。

デザインの持つ力を循環型社会の実現に活用する

大崎町でのユニークな取り組みから、「リサイクル」で広がる可能性が感じられましたが、事業者や自治体として「すてる」をどのようにデザインすればよいのでしょうか。続いて、多摩美術大学美術学部 生産デザイン学科 プロダクトデザイン専攻教授の濱田先生より「すてる」をめぐるさまざまな観点についてお話頂きました。

濱田先生によると、サーキュラーエコノミーの重要性が叫ばれているにもかかわらず、解決できている事例がほとんどないのは今まではリニアエコノミー(無限に捨てることが可能)という前提で社会のしくみが成り立ってきたためだと言います。

サーキュラーエコノミーを実現するために、濱田先生は「デザインの持つクリエイティブな力によって『すてる』を考え、社会や産業を支えていきたい。また、より多くの人の注目や賛同を得て、行動変容を引き起こすために、そうすることが『格好良い、面白そう』と思ってもらうことを入口にしたい」と、強調します。人の行動変容をどのように引き出すか、美術大学だからこその中立の関係を使って何ができるかというのを常に念頭に置いて活動されているのだそうです。

また、「すてるデザイン」では、その枠組みを更に拡大させた「循環TAGプロジェクト」にも取り組んでいます。

産業廃棄物処理業、一般廃棄物処理業、フードロス処理業は一般の人から見るとごみを処理するという点で一緒に見えますが、実際はそれぞれが縦割りになっていて、横の連携はほとんどないのだそうです。そこで、デザインの力を使って繋がりを作り、お互いの知見を活かし合うプロジェクトとして「循環TAGプロジェクト」を始められたそうです。

繋がりを作るプロジェクトから生まれた事例として、BOOKOFF、伊藤忠リーテイルリンク株式会社、伊藤忠プラスチックス株式会社、株式会社ナカダイと協働して取り組んでいる「CDプラ」プロジェクトがあります。

BOOKOFFはCDやDVDの買取りサービスを行っていますが、その過程で値段のつかないディスクの買取りも行なっています。リセールもしていますが、結果として年間約1,700トンのCDやDVDを廃棄せざるを得ない状況となっています。そこで、廃棄されるCDやDVDを再びプラスチック樹脂に生まれ変わらせるのが「CDプラ」プロジェクト。BOOKOFFが再生プラスチック樹脂の製造メーカーとなって取り組んでいます。現在はバージンのプラスチック樹脂(未使用のプラスチック樹脂)と同等レベルの品質に引き上げられるよう改良している段階だそうです。

CDプラプロジェクト

小さく始めて、形にしていく

日本には世界のごみ焼却炉の半数以上が存在しており、79%以上の廃棄物が焼却処理されています。しかし焼却処理されるとごみは消えて見えなくなってしまうため、ごみ問題を意識しなくなることにも繋がりかねません。そこで、廃棄物処理の現場の情報を正確に掴み、その情報を見える化しようとされています。濱田先生は、その際「何をすればいいか」という先を見通せる選択肢を同時に伝えることを大切にしているそうです。

三菱ケミカル株式会社や自治体と一緒に取り組もうとしているのは、靴の油化のプロジェクトです。油化とは、プラスチック樹脂を油に戻す技術で、精製した油から再び同じプラスチック樹脂を作れるところまで、油化の技術は進歩しているとのこと。まず着手しようとしているのが、小学校の上履きです。小学生の履く上履きは汚れもひどく、サイズアウトもし易いため頻繁に買い替えます。また記名して用いることもあり、リユースや修理も不向きです。そこで、油化でのリサイクルができるよう上履きの素材をすべてプラスチック樹脂化し、小学校で回収するシステムを構築されようとしています。その際、履きやすく、洗いやすく、デザインも良い上履きにして、自然と手に取るようにしていく。循環型社会の実現に向けた第一歩を踏み出すため、まずは小さく始めて形にすることを大切にしているのだそうです。

小学生の上履きの回収

デザインの持つ力によって周囲の人々をポジティブな感情とともに巻き込み、循環するまちづくりに繋げていく。気づいたら循環型社会の実現に結びついているような、そんなワクワクした未来が見えてきそうです。

次回のイベントも、ぜひご期待ください!

第2部では、「『捨てる』を考える共創のまちづくり」をテーマにさまざまな観点でClimate Creative事務局とディスカッションし、第3部でも捨てるデザインに大切な姿勢やまちの循環をつくる要素について対話をしました。
第2部のクロストークのアーカイブ動画はClimate Creativeコミュニティ参加者のみのご覧いただけます。(コミュニティには主にイベントご参加の皆様をご招待しております。参加者募集中・過去のイベントはこちらから。)

※1 What Is Climate Change?-United Nation
※2 Global temperatures set to reach new records in next five years-WMO
※3 「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」日本財団
※4 What Is Recurring Giving? A Guide to Recurring Donations-Network for Good

【関連記事】ヤフーと大崎町に学ぶ。企業と自治体によるサーキュラーエコノミー実践のポイントとは

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