学生の頃、電車の中で隣に座る父に「今日生理だからお腹痛いんだよね…」と打ち明けたとき、「下品だからそういうことを外で言うのはやめなさい」と言われたことを、今でも鮮明に覚えている。その日から私は「生理」という言葉を公の場で発することをやめた。
日本でも「アレ」「あの日」「女の子の日」など、生理という言葉を置き換える様々な表現があるように、世界には生理を表すスラングが5,000以上もあるという。なにも悪いことはしていないのに、漠然と「生理は語るべきではないこと」、また生理のない人たちにとっても「触れてはいけないこと」というイメージが知らず知らずのうちに私たちに根付いているのではないだろうか。
2022年6月、台湾の台北市にオープンした「The Red House Period Museum(小紅厝月經博物館)」は、そんな生理に対するあらゆる偏見の払拭を目的とした、世界初の月経博物館だ。
生理に関する女性の権利の擁護や、より包括的な教育に取り組む非営利団体「With Red」によって企画され、3年の月日をかけてようやく出来上がったこの博物館。「生理を語ることが誰にとっても市場に行くのと同じくらい日常的で自然なものになってほしい」という思いがあることから、普段から人の行き交いが多い、伝統的な市場通りの中心に建てられた。
博物館内は、生理の構造や月経前症候群(PMS)の症状を詳しく紹介するパートから、それぞれの時代の偏見やジェンダーの問題を紹介するパート、さらに生理の偏見に対する個人の証言を紹介するパートなどが用意され、あらゆる角度から生理を見つめ、理解できる仕組みが施されている。ギフトショップに並ぶ、生理をモチーフにした可愛らしいステッカーやアクセサリーも、生理をより身近なものにし、気軽に語り合えるきっかけをつくるだろう。
また、この博物館のサブテーマは「生理の貧困」だ。台湾では約9%の女性が生理用品の購入に苦労しているという。2022年2月に実施された厚生労働省の調査によると、日本でも8.1%の女性が生理用品の入手に苦労した経験があるとの結果が出ている。お金を節約するために食事を抜いたり、使用するナプキンの量を減らすために長時間同じナプキンを使用したりする不衛生な状況など、事態は深刻だ。
そんななか、台湾政府は2023年8月1日から全ての教育機関および、その他10箇所の施設で生理用品の提供に1億台湾ドル(約4億5,700万円)以上を投資すると発表。低所得の生徒には、生理用品を購入できるよう追加の補助金も提供するという。生理への偏見をなくすため、「With Red」が地道に取り組んできたことが、ひとつ実を結んだのかもしれない。
時代を経て、生理への理解は確実に深まってきている。筆者自身もそれを肌で実感する出来事があった。2022年、フォトグラファーの鈴木智沙子さんの展示「HONESTY-Tired,but I’m with you.-」に足を運んだときのこと。生理とともに生活する女性の日常をテーマとし、生理前から生理後までの女性の身体の変化を写真と言葉をとおして伝える展示だった。
私がなによりも驚いたのは、夫婦やカップルに加え、男性一人での来場者がとても多かったことだ。女性側の「理解してほしい」という思いと男性側の「理解したい」という思いが交差したとても美しい空間だった。「ジェンダーレスや性の多様性が浸透してきている今だからこそ、全ての人たちに生理についての共有をすることが大切だと考えました。生理中の女性と関わるのは全ての人たちです。伝えることでみんなで優しい世界をつくりたい」
と鈴木さんは語る。
私たちは、未知のものに対して恐怖や不安を抱いてしまう生きものだ。長いあいだ、男性にとって生理はそういった存在だったのかもしれない。
しかし、知ることから始まる想像力の羽ばたきは、優しさを生み、きっと誰かを救うことに繋がるだろう。あなたも恐れずに、もっと生理について語ってみてはどうだろうか。
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【参照サイト】With Red | The Red House Period Museum
【参照サイト】Talking about the period – Taipei Times