生成AIが、子どもたちに与える影響とは

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日々の仕事から、日常生活まで幅広く使われているAI(人工知能)。これまでも数々のAIが使われてきたが、昨今ではテキストベースでコミュニケーションが取れるChat GPTや、入力した文字をもとに画像を生成するMidjourney、そしてStable Diffusionなど、名前を知られるものも増えてきた。

今回は、そんな生成AIが次世代を生きる子どもたちにもたらす影響について、世界経済フォーラムが掲載したコラムを紹介する。国際連合児童基金(UNICEF)のテック政策に携わるSteven Vosloo氏の寄稿をもとに、生成AIのこれからについて考えていきたい。

(以下、世界経済フォーラムが運営するアジェンダページの「生成AIが子どもたちに与える影響」の全文掲載)


ChatGPTのような生成AI(人工知能)は、AIのアルゴリズムとデータ解析を舞台裏からデジタル体験の最前線へと押し出しました。今や、子どもたちは、宿題の手伝いからワードローブを決めるためにまで、日常的にAIを利用しています。

この急速な普及は、AIの広範な意味についての議論を活性化させました。生成AIには利点がある一方で、長年存在するアルゴリズムの偏りやシステムの不透明性などの課題も残されています。予測困難な出力などの課題を増幅させるだけでなく、新たな課題を生む可能性もあります。

子どもや若者は、オンライン上で多くの時間を過ごす最大の人口グループであり、生成AIの開発と普及のペースを考えると、この技術が子どもたちに与える影響を理解することは極めて重要です。

生成AIとは

AIの機械学習の一部である生成AIは、膨大なデータから学習してパターンを見つけ出し、新しい類似データを生成する能力を持っています。テキストや画像、コンピューターコードなど、人間の出力を模倣したコンテンツを生成するために広く使われていますが、複雑な計画作業や、新薬の開発サポート、前例のない方法でロボットのパフォーマンスを向上させることなどにも応用することができます。

どれだけの子どもたちが生成AIを使用しているか、正確にはわかっていませんが、初期の調査によると、子どもたちの方が大人よりも積極的に活用していることが明らかになっています。米国で行われた小規模な世論調査では、ChatGPTを利用したことのある親は30%に過ぎなかったのに対し、12~18歳の子どもは58%が利用したことがあり、親や教師にそれを隠していたことがわかりました。米国の別の調査は、ChatGPTを知っている人のうち、実際に利用している人の割合は、年長層よりも若年層の方が高いことを報告しています。

AIは、推奨アルゴリズムや自動意思決定システムという形で、すでに子どもたちの生活の一部となっており、業界内で生成AIが受け入れられていることから、子どもたちのデジタル環境の重要な要素となる可能性が高まっています。AIは、デジタルアシスタントやパーソナルアシスタント、検索エンジンヘルパーなど、さまざまな形で取り入れられています。

Sのような子どもたちに人気のプラットフォームは、すでにAIチャットボットを導入しています。同時にメタ(旧フェイスブック)は、インスタグラムやWhatsAppなど、毎日30億人以上が利用するプラットフォームにAIエージェントを追加する計画を進めています

生成AIが、子どもたちにもたらすメリット

生成AIは、宿題のサポートや難しい概念の分かりやすい説明、子どもたちの個々の学習スタイルやペースに合わせたパーソナライズされた学習体験など、さまざまな機会を提供します。AIを活用すれば、子どもたちは、プログラミングスキルがあるかないかにかかわらず、芸術作品の制作や作曲をしたり、物語やソフトウェアを書いたりすることができるので、創造性が育まれます。

障害のある子どもたちは、テキスト、音声、画像を通じて、新たな方法でデジタル・システムと対話し、AIと協力することでクリエイティブな活動をすることができるでしょう。子どもたちが直接システムを使うことで、生成AIは、健康や発達に関連する課題の早期発見にも役立ちます。間接的には、生成AIシステムは、医療データに対する洞察を提供し、ヘルスケアの進歩をサポートする可能性も秘めています。

より広い意味では、分析と生成能力をさまざまな分野に応用することで、効率を高め、子どもたちにプラスの影響を与える革新的なソリューションを開発することができます。

生成AIが、子どもたちにもたらす悪影響

しかし、生成AIは、悪意のある人々による悪用や、不注意によって、子どもたちの未来やウェルビーイング(幸福)に悪影響を及ぼし、社会全体の混乱を招く可能性もあります。

生成AIは、人間が生成したコンテンツと区別がつかないほど説得力のあるテキストベースの偽情報を、瞬時に生成することができます。AIが生成した画像は、本物の顔と見分けがつかず、場合によっては、本物以上に信頼できると認識されることもあるほどです(下図参照)。こうした能力は、影響が及ぶ範囲を広げると同時に、それに必要なコストを下げる可能性があります。認知能力がまだ未熟な子どもたちは、誤情報や偽情報のリスクに対して特に脆弱な立場置かれているのです

AIが生成した顔の画像は、本物の顔と見分けがつきません。

AIが生成した顔の画像は、本物の顔と見分けがつきません。 Image: Sophie J. Nightingale and Hany Farid, 2021

特に、子どもたちが長期的に生成AIを利用することへの影響については、疑問が投げかけられています。例えば、チャットボットが人間のような口調で話すことを考えると、こうしたシステムとのやり取りは、子どもの発達にどのような影響をもたらすのでしょうか。初期の研究では、知能、認知発達、社会的行動などに関する子どもの認識や特性に影響を与える可能性が示されています。また、多くのAIシステムには固有のバイアスが存在することを考えると、これが子どもの世界観をどのように形成するかも気になる点です。専門家は、子ども向けと謳うチャットボットについても、より厳密なテストが必要かもしれないと警告しています。

また、子どもたちが生成AIシステムとの対話ややり取りを通じて、個人データを共有するようになると、子どもたちのプライバシーやデータ保護に関する課題も生まれます。オーストラリアのeセーフティー監督官(eSafety Commissioner)は、特に商業目的での子どものデータの収集、利用、保存に対して慎重に検討する必要があると指摘しています。

広範囲に及ぶインパクト

AIがもたらす変化には、チャンスとリスクを併せ持つものもあります。例えば、生成AIが子どもたちの将来の仕事や生活にどう影響をもたらすかはまだわかりません。新たな仕事を生み出す一方で、重要な仕事を取って代わる可能性もあります。これは、今を生きる子どもたちが受ける教育やその方法に関係してきます。

チャンスとリスクはさまざまですが、これらの例はAIが持つ広範な影響を示しています。子どもたちは、生涯を通じてAIに関わることになりますが、特に成長期における関わり方が、その先長く影響をもたらす可能性があり、政策立案者、規制機関、AI開発者、その他のステークホルダーは先を見越したアプローチを取る必要があります。

行動の必要性

出発点として、既存のAIリソースは、今日の責任あるAIのあり方について多くの指針を提供しています。例えば、ユニセフの「子どものためのAIに関する政策ガイダンス(Policy Guidance on AI for Children)」は、AIの政策及びその実践において子どもの権利を守るための9つの要件を定めているほか、世界経済フォーラムの「子どものためのAIツールキット(AI for Children toolkit)」は、テック企業や保護者に向けたアドバイスを提供しています。しかし、生成AIの進化に伴い、これまでの政策は、日々変化する新しい状況に合わせて解釈される必要があり、新たなガイダンスや規制が策定される必要性も出てくるでしょう。

政策立案者、テック企業、そして、子どもたちや次世代の保護に取り組む人々は、早急に行動を起こす必要があります。政策立案者たちは、生成AIがもたらすインパクトに関する研究を支援し、洞察力を持って、将来起こりうる課題に備えるためのガバナンス強化に力を入れるべきです。その際に、子どもたちが取り残されないようにすることが重要です。同時に、透明性の向上、生成AIのプロバイダーによる責任ある開発、子どもの権利の提唱が求められます。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、AIを規制するグローバルレベルの取り組みには、すべての国の全面的な支援が不可欠だと、強調しています。

生成AIと子どもたちへの影響に関する詳しい情報は、ユニセフの資料をご覧ください。

著者:Steven Vosloo(Digital Foresight and Policy Specialist, United Nations Children’s Fund)
※ この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

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