なぜ、アイスクリーム屋が地域の「場づくり」の役割を持つのか

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暑い日につい食べたくなる、アイスクリーム。手ごろな値段で、どこでも簡単に食べることができる。

アイスクリームスタンドで、バニラにするかベリーにするか、それともチョコレートミントにしようか……人々が笑い合い、しばし興奮に包まれる。そしてアイスはすぐに溶けてしまうので、人々はアイスを買うと、ショップのそばでわいわいと食べ始める──実のところ、そんな「溶ける」特徴を持つアイスクリームが、地域の再生に貢献する可能性があるとして注目されている。

Image via Shutterstock

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プレイスメイキングとは?

プレイスメイキングという言葉を聞いたことがあるだろうか?

プレイスメイキングとは、直訳すれば「場づくり」だが、単に新しい空間や場(スペース)を作るのではない。公共空間を、人々にとって居心地がよく、賑わいと活気あるような場に変え、リラックスした交流が生まれるような新たな価値を産み出す「居場所(プレイス)」へと再生することを指す。公共空間のハード面よりもソフト面を重視した考え方だ。

米国の調査によれば、人々が地域に惹きつけられる要因は、交流の機会、地域のオープンさ、空間の美しさの3点に集約されることがわかっている。意外なことに、雇用や経済、治安面よりも、みんなが集まれる公園や遊び場があるほうが好ましいという結果があるのだ(※1)

それでは、どうすれば人々にとって居心地のよい「居場所」をつくることができるのだろうか。「コストが相当かかるのではないだろうか」そんな心配が浮かんでくるかもしれないが、心配は無用だ。プレイスメイキングは、ちょっとしたアイデアから始まる。

プレイスメイキングとしてのアイスクリーム

アメリカには、アイスクリームを使ったプレイスメイキングの事例がある。アイスクリームショップの周囲は終始なごやかで、リラックスしたムード。そして冒頭で述べたように、アイスクリームはすぐに溶ける特性を持つため、購入後はその場で食べることが一般的だ。これにより、スタンドの周辺は常に人々で賑わっている。ここでは、二つの事例を紹介する。

メイン州・カムデン

例えば、米国メイン州・カムデン。メインストリートから離れた見つけにくい場所にそのアイスクリームショップはある。花で飾られた明るいデザインと、おいしいアイスの掛け算で、お店はいつも大盛況だ。

カムデン地域で採用されている「三角測量 Triangulation」という手法は、まちの人々の活動を活発にするための独特なアプローチだ。この手法では、アイスクリームスタンドや書店、コーヒーショップなどが隣接して配置されている。これらの目的の異なる施設が連携して市民の体験を豊かにし、エリアの魅力を高めることで、人々が長くそのエリアに滞在するようになる。

車の駐車スペースにアイスクリームスタンドのイスを並べれば、早朝のコーヒータイムに始まり、本屋で散策、食後はアイスクリームでおやつと、人々が長居できる場所に早変わり。プレイスメイキングでできあがる場所は、クルマ中心の空間ではなく、「人間中心」の居場所であるのも重要なポイントだ。

ニューヨーク州・ブルックリン

ニューヨークのブルックリンには「Brooklyn Farmacy」と呼ばれるソーダファウンテンがある。そこでは、屋外の座席はお店のものを買った人だけではなく、地域の誰でも利用できるルールになっている。それにより、人々が近所に住む老若男女とアイスクリームやソーダ、シェイクを楽しむことができるエネルギッシュな場所になっている。

 

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米国だけではなく、ヨーロッパの街角にアイスクリームスタンドが並ぶ様子を思い起こす方もいるだろう。ショーウインドーをのぞき込んでいた通行人たちが、ふらりとアイスクリームへと誘われる。軽くアイスの小休止を挟んで、さらにまた別のウインドーに惹きつけられていく。欧米の街がいつもダイナミックな動きに満ちているのは、もしかすると、アイスクリームの力なのかもしれない。

「より軽く、より速く、より安く」

ニューヨークでプレイスメイキングに長年携わってきた非営利団体「Project for Public Space」は居場所をつくるためのステップとして、「LQC、手軽に(Lighter)、速く(Quicker)、安く(Cheaper)」という原則を掲げている(※2)

コミュニティがそもそも持っている資産を活用し、小さく安く短期間で達成できるような実験から開始することが、プレイスメイキング成功の秘訣だというのだ。

人目につきにくい薄暗い公園や広場は、犯罪の温床にもなりかねない。そんな公共空間に、快適さや居心地、社交性などをもたらし、誰もが自分らしく過ごせる「居場所」に変えていく。そんなプレイスメイキングは、方法論であり哲学である。あなたのまちの魅力度アップに、まずは小さなアイスクリームスタンドを置いてみてはいかがだろうか。素敵な人々の「居場所」が育まれていくかもしれない。

※1 The Knight Foundation (2010) Knight Soul of the Community 2010
※2 The Placemaking Process
【関連記事】ポストコロナのまちづくりを小さく実験。バルセロナの「タクティカル・アーバニズム」
【参考文献】三友奈々(2015)「プレイスメイキングの定義・原則と場の評価項目に関する考察」、『デザイン学研究』
【参照サイト】Ice Cream – The Social Life Magnet
【参照サイト】国土交通省「調査概要」
【参照サイト】国土交通省「中間とりまとめ報告書(参考資料)国内事例」
【参照サイト】Project for Public Space 公式ホームページ
【参考文献】Project for Public Space (2007)Placemaking: What If We Built Our Cities Around Places?

Edited by Erika Tomiyama

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