ヒップホップ・レゲエ音楽と環境問題を掛け合わせた音楽フェス「UMIOMOI(うみおもい)」。
2022年に初めて開催されたこのフェスの第2回が、2023年11月に沖縄県読谷村(よみたんそん)にある施設Arman Terrance Okinawa(アーマンテラス沖縄)で開催された。環境に配慮した「なるべくごみを出さない」コンセプトを掲げており、名前の由来は「海を想う」気持ちからきている。
このフェスが開催された背景には、どのような想いがあったのだろうか。ごみを出さない工夫として、何が行われたのか。出演したアーティストは、どんな想いを持っていたのか。主催のNPO法人「UMINARI」のメンバーが、当日の様子をレポートしていく。
なぜ、環境問題にヒップホップ・レゲエなのか
UMINARI(うみなり)は、「日本の未来に豊かな海を残す」をビジョンに掲げ、海洋ごみ問題に取り組むNPO法人だ。ビーチクリーンや、幅広いセクターへの教育活動などを行っている。
▶︎ 語るより、動くZ世代。海洋ゴミの解決に取り組むNPO「UMINARI」
なぜ環境問題とヒップホップ・レゲエ音楽を融合させようと思ったのか。まずは、今回のフェスの企画メンバーである大房宇斗(おおふさ・たかと)さんの話から、音楽フェス「UMIOMOI」が生まれた背景を紐解く。
愛に溢れた世界をつくりたい
大房さんには「もっと愛に溢れた世界にできたら、世界がよりよくなるはずだ」という思いがある。その世界の実現のためには、まずは自分が満たされる必要があると考え、そのツールとして音楽イベントを20歳の時から開催してきた。自身の好きなレゲエとヒップホップの曲をかけ、仲間とつながることのできる空間があることで感じられる身の回りの小さな幸せを大切にしていた。
しかし、世界がよりよくなるキーワードの1つである「サステナブルな要素」を音楽イベントに入れて発信することが難しく、悩んでいたという。そんな折に、沖縄在住のUMINARIメンバー・マナツが参加していたレゲエイベントに遊びに行った際、今回出演したPeace Joint Bandがつくりあげていた空間が、大房さんの目指す「愛に溢れた世界」に近いと感じたという。子どもを持ち上げながら歌っているお父さんや、ラバダブと言われる即興セッションを見たりしたことが、このようなあたたかい世界をつくること、また環境問題とレゲエやヒップホップを組み合わせたいと思うきっかけだったと語る。
環境問題も、レゲエも「普通の幸せを願っている」
レゲエやヒップホップ文化は、もともと黒人差別や貧困からくる、彼らの「普通の幸せ」に対する主張だった。そこに大房さんは、山が焼かれ、海が枯れていく世界で、「これからもずっと下の世代まで、普通に安心して生きられる社会」を願う環境問題への声との共通点を見出した。今回のフェスのコンセプトも「普通の幸せを願う社会に対する声」だ。
「音楽は持続可能性という名の普通の幸せを語ることができる」
音楽の力で海や未来への不安を吹き飛ばし、海を想う心で未来を”書きかえる”ためのフェスが、「UMIOMOI」としてようやく形になったのだ。
出演したアーティストが語る「海と自分のこと」
「海を想う」気持ちがメインテーマとなる今回のフェス。柊人・SUN・YAMATO HAZE・Peace Joint Bandの4組のアーティストの出演で会場が一体となり、あたたかい雰囲気を感じられた。ライブに出演してくれた音楽アーティスト2人に、海にまつわるお話を聞いてきた。彼ら自身のこれまでの人生や、環境問題に興味を持ったきっかけ、海を想う気持ちについて掘り下げていく。
話者プロフィール:柊人(しゅうと)
93年生まれ。オーストラリアで幼少期を過ごし、家族が好きなブラックミュージックに大きな影響を受ける。 2019年、4月20日客演として「Pack back」に参加。その後CHOUJIに才能を認められ、2021年8月3日、CHOUJI・柊人両名で合同でEP「South pack」をリリース。2021年7月17日にEP「好きなこと」をリリースし、その後1年は沖縄をベースにしながらも、全国のLIVEに重点をおき、活動。 2022年8月3日にEP「今はまだ」をリリース。 HIPHOPをルーツにいろんな音楽から吸収した要素を活かしながらの制作活動をしている。
“食わせてもらった海”だからこそ、大切にしたい
柊人さんは、小学2年生から中学3年生までをオーストラリアで過ごし、帰国後は沖縄で生活。いつも海のある場所で暮らしてきたという。
「音楽だけで生きられるようになるまで、3年前まで沖縄でずっと潜り漁師をしていました。海には食わせてもらったっていうのもあって、大切に思っています」
「漁師をしていた当時の先輩や同期たちは、海の中でごみ見つけたら、たとえ高級な獲物が近くにいても、真っ先にそのごみを拾っていました。そういうことをしている人たちの方が、自然と何かに恵まれていて、結果的に獲れる量も多かったんです。海に対するリスペクトがあれば、ちゃんと食わせてもらえるってマインドですね」
「漁師町のおじい、おばあは、最近魚もサンゴも減ってると言っていて。自分らもメスのイラブチャとか卵を持っている伊勢海老は獲らないっていう意識はありました。生態系を保つために、漁師はみんなナマコも大切にしていましたね」
音楽活動ができるのは、心を支えてくれる沖縄の景色があったから
つい最近まで、海とともに生活をしてきた柊人さん。海に対する想いと今後について語ってくれた。
「ずっと沖縄の海が綺麗であってほしいし、住んでいる魚ももっと増えてほしいという思いがありますね。自分が音楽をできてるのも、沖縄の景色があったからです。つらい時期には、海に行ったり夕日を見たり……とゆっくりすることで、精神的にも支えられたので。最近は沖縄以外の色々な場所にも呼ばれるようになりましたが、やっぱり沖縄に帰ってくると一番休めてるなって」
「カメがめちゃくちゃ好きなんです。漁をするときに、赤ちゃんのウミガメがついてきたりするんですよ。サメがいても僕の近くにいたら安全なんで。めちゃくちゃ可愛いです。毎月漁をしていた場所では、そこにいたカメが自分のことを覚えてましたね。触ると喜んで、ケツ振るんです。
でも、カメってなんでも食べちゃうので、海にごみが浮いている状況は何とかしたいです」
「自分自身が漁師だったからこそ、サンゴや海の問題を支援したいなと思いますね。そういう曲もいずれ作れたらって」
柊人さんからは、沖縄の海と海洋生物、景色を愛するまっすぐで揺るぎない気持ちを感じた。
話者プロフィール:SUN(サン)
船での海難事故をきっかけに弾き語りをはじめ、さまざまな海を旅しアイランドポップスを中心とした独自のスタイルで海を伝える楽曲を作詞作曲。2017年に初のミニアルバム【SUMMERUN】をリリース後から全国各地の Hawaii関連イベント、音楽フェス、インストアライブやショッピングモールなどのイベントに出演。同時に海洋保護の活動も音楽活動とリンクして伝えている。
海難事故でもらった、海からのメッセージ
もともと、深夜のクラブでラッパーとして活動していたSUNさん。海難事故の経験をきっかけに「海を歌う」歌手になったという。
「(事故では)初めて救命胴衣を着て、大パニックで。狭いところに閉じ込められ、空気が重くて、味わったことのない感覚だった。どうしたらいいんだろうと考えていたら、電車の中で閉じ込められたときに、弾き語りで周りを和ませている海外の人たちの映像がいきなり頭に流れてきたんだ。
そのときにチャンスだと思ったけれど、当時の自分はラッパーでダンサーだったから何もできなかった。そこから、胸を張って音楽やりたいって言えなくなっちゃって。耐えられなくなってこれまでやっていたことを全部やめて、いつ、どこででも、誰かのために何かをできるように、ギターで弾き語りをしようと思ったんだ。それが海の上での事故だったから、海にメッセージをもらったんだなって。今はその恩返しをするために活動してるんだよね」
当たり前をかっこよく
沖縄県渡嘉敷島(とかしきじま)に移住したSUNさん。家族や友達の影響で、子どもの頃から海に入ることが好きだったそう。島で子どもたちとビーチクリーンをする機会があり、そこから海で起きている環境問題も知ったという。最初は仲間もおらず、独りでビーチクリーンをしながらSNSで発信していた。そんな折にUMINARI代表の伊達ルークさんと知り合い、一緒に活動をするようになったのだ。
SUNさんはマイボトル・マイバックを持ち歩き、マイボトルに麻の布を巻いて、ステージドリンクとして使っている。「当たり前すぎてみんなが気づかないことをやり続けていけば、これが”かっこいいスタイル”として広まるのではないか」と語っていた。
海が汚れるのは、自分が傷つくのと同じ
海難事故に遭って弾き語りを始めたり、渡嘉敷島に移住したりしたことで、海が人生にとって大切なものとなったSUNさん。海を想う現在の気持ちについて語ってくれた。
「海には純粋に感謝をしていて。全ての始まりの場所だと思ってる。そこが汚されてるのは、自分が傷つくのと同じだなって思うんだ。人間の涙や汗がしょっぱいように、人間って海からできてるんじゃないかなって。海のために何かするんじゃなくて、海を想えば自然に自分に返ってくるから。それをみんながやれば、海にごみを捨てる人もいなくなるし、漂着したごみを拾う人が増えるかもしれない」
「自分は、海の音楽をやっている。音楽のバリエーションが少ないと思われることもあるんだけど、そんなことないんだよね。こんなに壮大な海について歌わせてもらってる。ごみを拾いましょうって真面目に呼びかけるのではなくて、メロディーに乗せて伝えると、歌詞としてメッセージが自然と入ってくる。そうやって海に恩返しがしたい」
SUNさんの、海を守ろうという使命感によってではなく、海への想いから自然体で行動する姿が印象的だった。肩の力を抜いて、純粋に海が好きな気持ちを常に大切にすること。これも、環境問題に取り組むときの、一つのあり方ではないか。
2人のアーティストへのインタビューでは、これまでの経験から、海への強い想いを感じられた。あなたのUMIOMOIは、なんだろうか。
イベントに散りばめられた、サステナブルな仕掛け
沖縄県読谷村の美しい海を目の前に開催された「UMIOMOI」。天候にも恵まれ、11月でも真夏のような日差しが降り注いでいた。フェスはビーチクリーンやヨガから始まり、終始あたたかい雰囲気が感じられた。
アーティストのほか、多くのフードやワークショップの出店団体もフェスを盛り上げてくれた。出店者は以下の通り。
こや ・ yoga citta ・Rainbowx ・奥海家 ・BLUE POINT ・jiyukimama ・コンポスト大学生 ・ macoro ・Koza.Skate.Design ・マワリテメクル ・PARLOR FREAKS ・レアーズ ・ キノメノメディスン ・ 蝋燭作家 Kawate Akane ・ マウイ ノ カ オイ フェスティバル実行委員会 ・ Save the ocean. Love the ocean.・ UMINARI
海と未来を守るためのヒントとして、4つのポイントでイベント当日を振り返る。
1. 食器レンタル
フェスでは、当日発生するごみをゼロに近づけるために、プラスチックで包装された商品は取り扱っていなかった。参加者はマイボトルやタッパーを持参してドリンクやフードを楽しむ。それらを持っていない場合も、会場では容器を100円でレンタルでき、プラカップや紙皿、割り箸などの発生を防いでいた。飲み物の提供時に出た缶も、あとからリサイクルされる。
2. コンポスト
会場には、沖縄出身・在住の「コンポスト大学生」ぎんじさんのブースがあった。フェスで出た生ごみを堆肥化してくれるのだ。
ビーチクリーンのイベントを企画するなかで、「そもそもごみを出さないようにするべきだ」と思うようになったという、ぎんじさん。バッグ型のコンポストを購入し、自宅で個人的に始めたところ、分解する過程を見ることが楽しかったそうだ。2021年、21歳でコンポストを広める活動を始めた。
現在、ぎんじさんはプランターにファスナーを取り付けたオリジナルコンポストの販売をしており、これまでの導入件数は200件以上。今後は、農業の視点から水と土壌のサステナビリティにアプローチしていくという。
3. ヴィーガンフード
UMIOMOIでは5店舗のフード出店があり、スパイスカレーやインドネシア料理、ヴィーガンのカラフルなお弁当、身体にも環境にも優しい素材を使ったスイーツなど、バラエティ豊かなラインナップがあった。
読谷村長浜にある海が目の前のヴィーガンカフェ BLUE POINT FALAFEL & COFFEEは、動物や環境にやさしいジャンクフードを売るヴィーガンカフェ。UMIOMOIでは、お店で人気のあるヘンプ(麻)チーズバーガーが売られていた。
4. サステナビリティを伝える販売
UMIOMOIではフードだけでなく、物販を通して自然に優しい選択を知る工夫もあった。今回は、当日出ていたうちの3団体を紹介する。
jiyukimama(じゆうきまま)
エシカルライフをお洒落に楽しく自由気ままに。海洋プラスチック、廃プラスチックをアップサイクルしたアクセサリー雑貨と、環境配慮を意識したアパレルを展開するjiyukimama。漁網などの沖縄で集めた海洋プラスチックからできたピアスなどは個性的で唯一無二だ。
UMIOMOI開催中にバーカウンターで出たペットボトルキャップは後日アクセサリー作りの材料になるという。
koza skate design
一度役目を終えたスケートボードの板を集めて、一つひとつ手作業で削り出して製作されたアクセサリー。オーナーさんは、もともとスケートボードが好きだったという。当日も「好きなことをやっていたら、SDGs関連の人たちが盛り上げてくれた」と語っていた。環境のために何かをしようというわけではなく、たまたまサステナブルな行動につながった素敵な例だ。
SAVE THE OCEAN. LOVE THE OCEAN.
沖縄県読谷村生まれ・育ちの2人組が立ち上げたアパレルブランド。服にプリントされているロゴには、沖縄の伝統的な織物「ミンサー」が持つ 「いつの世までも」と「SAVE THE OCEAN. LOVE THE OCEAN.」を合わせて、「いつの世までも美しい海があり続けますように」という願いが込められている。服の着用で広まる海への想いを大切にしていて、販売利益の35%は海洋保全活動へ役立てられる。
立ち上げ当初は、アパレル事業は環境に負荷をかけると思い、活動が矛盾しているのではないかと悩んだそう。そこで商品を完全受注生産とすることで、無駄をなくしている。また、沖縄の人たちに海の問題を知ってもらうため、地元の学校での授業や、子どもたちとのビーチクリーンなどを行っている。海が身近すぎるからこそ気づかないこともあるそうで、地元から意識と行動を変えていきたいと語ってくれた。
いち参加者として、フェスを振り返る
環境問題と、ヒップホップ・レゲエを掛け合わせた音楽フェス「UMIOMOI」。主催団体のメンバーでありながら、今回はいち参加者としてその場にいたが、サステナブルな体験や音楽に心踊ったのはもちろん、参加者同士のあたたかなつながりも心地良いと感じた。
今回の企画メンバーによると、イベント会社に委託せず、自分たちで開催までの企画・準備をしたことが大変だったそうだ。なるべくごみをゼロにするために、フードを入れる容器をバナナの葉っぱで代用したところ、出店者が事前に小分けにできなかったり、葉っぱから出た汁を一枚ずつ洗わないといけなかったり……と、サステナビリティとスムーズな運営のバランスを取ることに苦労したという。
今後は、もっと多くの人に海洋ごみについて知ってもらう時間を作りたいと企画メンバーは語っていた。当日、参加者全員に渡したリストバンドはごみになってしまったが、次回開催時は思い出として取っておけるようなものにしたいなど、次につながる新たなアイデアも出てきたという。
完璧ではないかもしれないが、環境問題と音楽への熱い思いを全力で形にして2回目の幕を閉じたUMIOMOI。環境問題へのアプローチは、自分の好きな方法で、無理なく楽しくやることが何より大切なのかもしれない。
【参照サイト】UMIOMOI公式サイト
【参照サイト】UMIOMOIインスタグラム
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Edited by Kimika