上を走るだけでEVを充電。米・デトロイトに敷かれた、ハイテク道路

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2023年は、EV(電気自動車)の売り上げが大きく伸びる年となった。例えば、アメリカではその売り上げは2022年比で46%増加し、購入やリースされたEVの数は110万台に達した(※1)。この成長は、特に中国や欧州、北米での販売増加により支えられており、2024年もその売り上げは引き続き増加していくと見込まれている(※2)

だが、依然として乗り換えのハードルも存在する。そのひとつが、EVの充電スポットの不足だ。アメリカには2022年11月時点ですでに5万6,256か所の充電スポットが存在していたものの、長距離移動が必要な車が多いことも考慮すると、その数はまだ十分ではないという(※3)。また、充電に時間がかかることも課題だ。例えば、電圧110~120Vの標準家庭用コンセントではフル充電に8〜24時間、公共スペースなどの充電ステーションで使われる電圧208~240Vのものでもフル充電には最長で8時間程度かかるという。

そんななか、こうした課題の解決策として注目されているのが、EVがその上を走りながら充電できる「ワイヤレス充電道路」だ。

2023年11月、このワイヤレス充電道路の実験的導入が、アメリカ・ミシガン州のデトロイトで開始された。選ばれたのは一般道である14番ストリートのうち400メートルのセクションで、実際の道路を使っての実証実験は、アメリカ初だという。

この道路は、見た目は普通の道路と変わらない。しかし、その表面のすぐ下に街のパワーグリッドとつながる電磁石コイルが敷かれており、底に充電レシーバーをつけたEVが上を通った際に反応することで、走りながらでも自動的に充電を行えるという。電磁誘導によりエネルギーを伝達するインダクティブ充電という仕組みで、原理としては最近では一般的となったスマートフォンのワイヤレス充電と同じものだ。

この道路の開発を担っているのは、イスラエルのスタートアップ企業Electreon(エレクトレオン)だ。同社はイスラエルを含め、欧州や米国の他の地域など世界各地で19の実証実験を展開している。

現在この技術の実装には、1マイル(約1.6キロメートル)で200万ドル(約3億円)のコストがかかるといい、一部の専門家はその拡大の可能性について疑問を呈している。これに対しエレクトレオンの事業開発部長であるStefan Tongur(ステファン・トンガー)氏は、技術が成熟するにつれ、そのコストは下がっていくだろうとBBCに語っている。

またトンガー氏によると、この道路を街全体に張り巡らす必要はないという。最初はトラックなどの商用車が頻繁に通る高速道路を中心に拡大していくのが同社の計画だ。これにより、バスやトラックが充電のために停車する必要がなくなり、時間やコストの削減にもつながると期待されている。

また、BBCの記事で引用されているスウェーデン政府の分析によれば、交通量の多い250〜300キロメートルの道路でこのワイヤレス充電道路が実装された場合、バスやトラックがEVに置き換えられることにより、20万トン以上のCO2を減らせる可能性があるという。

エレクトレオンは、交通インフラを変革しようとしているミシガン州運輸省から190万ドル(約1.5億円)の資金提供を受け、今後数年間でこの道路を1マイル(約1.6キロメートル)に拡大し、実際の街でこの技術を試すことを目指している。2023年10月には千葉の柏木でも全国初の充電スポットを埋め込んだ道路の実証実験が開始されるなど、その波は日本にも訪れていると言える。

「いま持っているディーゼル車を捨ててまでEVに乗り換える必要はあるのか?」「EV生産工程での環境負荷をどう低減していくのか?」など、EVの導入や拡大のために行うべき議論は多い。その中で、この技術を上手に活用する方法を模索し、適切な環境負荷の低減につなげていけると良い。

※1 Was 2023 An Awful Year For EV Sales? They Grew 46% Over 2022
※2 Global EV market forecasted to reach 17.5 million units with solid growth of 27% in 2024
※3 Alternative Fuels Data Center

【参照サイト】Wireless charging: The roads where electric vehicles never need to plug in
【参照サイト】Electreon
【参照サイト】EV走行中に“ワイヤレス充電” 柏の葉 公道上で全国初の実証実験 電気自動車の普及へ 千葉
【関連記事】走るだけで電気自動車を充電する道路、スウェーデンに誕生

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