【イベントレポ】ゼロ・ウェイストのまち上勝町で見た、循環型ファッションの最前線

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ゼロ・ウェイストを町全体の目標として掲げる徳島県上勝町では、現在、とある興味深い取り組みが行われている。

徳島県内における衣服の廃棄削減と資源循環を目的とし、環境省による「令和5年度使用済み衣類回収スキームの構築に向けたモデル実証事業」の採択を受け始まった、「KURU KURU Fashion Project(くるくるファッションプロジェクト)」だ。

上勝町ゼロ・ウェイストセンター

Image via 上勝町ゼロ・ウェイストセンター

このプロジェクトではまず、上勝町ごみゼロ活動の発信拠点でもある上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHYを中心に、上勝町内外から使用済み衣服の回収が呼びかけられた。そして、回収された衣服の組成分析が行われ、パートナー企業との連携により、リユース・リメイク・リサイクルの順番で衣服を再生することで、県内における衣服循環のシステム構築を目指している。

プロジェクトの一環として、回収された衣服のリユースマーケットである、「KURU KURU Fashion Market」が2023年12月24日に上勝町で開催された。上勝町内にとどまらず、県外からも多くの人が訪れたこのイベント。筆者は、サステナブルファッションに関する教育やコンサルティングを行う一般社団法人unistepsが企画するスタディーツアー「ゼロウェイストのまち徳島県上勝町で、衣服の循環について学び考える旅2日間」を通じてイベントに参加した。

ツアー1日目の夜には、unisteps共同代表の鎌田安里紗さんによるトークや、SWAPイベントというツアー参加者による衣服の交換会が行われ、ツアー参加者同士によるディスカッションも通じてサステナブルファッションに対する学びを多角的に深めた。

また、特別企画として、ごみの学校を運営する寺井正幸さんによる「服の分別体験」や、鎌田安里紗さんと、上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHYを運営する株式会社BIG EYE COMPANYの大塚桃奈さんのクロストーク、「いまなぜくるくるファッションか?」が開催された。

本記事では、トークやディスカッションの内容で筆者が特に印象に残った部分をお届けする。

1. 「廃棄物植民地主義」から考える、わたしたちにできること

ツアー初日には、一般社団法人unisteps共同代表の鎌田安里紗さんによるトークが行われた。鎌田さんが共同代表を務める一般社団法人unistepsでは、「多様で健康的なファッション産業をつくる」をミッションに、行政、企業、デザイナー、消費者などと共に多角的にファッション業界をより持続可能な形に変革していくための取り組みを行っている。

近年、先進国から輸出された古着が途上国で飽和状態となり、深刻なごみ問題を引き起こしていることが問題視されている。「Waste Colonialism(廃棄物植民地主義)」とも指摘されるこの問題の背景には、先進国と途上国間の権力関係がある。

実際にケニアを訪れ、古着のごみ問題を視察した鎌田さんによると、ケニアで輸入された古着はヴェールと呼ばれる40〜50キログラムの服の塊のパッケージで現地の古着事業者に販売される。事業者は購入後まで中身を見ることができない。その中で質の良い服は2・3割程度であり、年々質が落ちてきている。販売ができないほど質の悪いものは、現地の人々によりリペアされるが、その直しも使い捨て前提の程度のものに過ぎない。アフリカの国々は、プラスチックの持ち込みに規制をかけている国もあるが、実際には洋服という形でプラスチックが国内に流出し、川などに流れてしまうこともあるという。

衣服はデザインの段階で、環境負荷の8割が決まってしまうという研究があるという。洋服の生産者側が、洋服が使われた後、廃棄処分になった後の工程まで視野を広げることができれば、変化が生じてくるかもしれない。

これらの問題を踏まえた上で、消費者にはどのようなことができるだろうか。unistepsでは、ファッションの社会的責任を重視したアワード兼エデュケーションプログラム「FASHION FRONTIER PROGRAM」などの取り組みを行っているほか、アパレル企業の透明性を評価するための「Fashion Transparency Index」の和訳なども担っており、2023年版の最新の翻訳が発表された。

“Fashion Transparency Index”日本語版。

「Fashion Transparency Index」日本語版。「情報を開示しているか否かの指標のみで評価しているので、情報開示度が必ずしもサステナビリティ度に直結しているわけではありません」と鎌田さん Image via Fashion Transparency Index 2023

加えて、消費者がファッションブランドのエシカル度を確認できるツールとして、オーストラリア発のアプリ、Good on Youが挙げられるが、このサポートを受けた日本語バージョンとして、「ShiftC」も一般公開されている。

ShiftC

ShiftC。これらのツールを消費者が使いこなし、企業に透明性を高めることを要請しつつ、エシカル度を評価して自分の価値観に沿った満足度の高い買物にシフトしていくことが求められるだろう。Image via ShiftC

2. 洋服が作られる時点で、使われた「後」のことを考える

KURU KURU Fashion Marketの特別企画として行われたのが、ごみの学校を運営し、衣服の廃棄現場に携わる寺井正幸さんによる「服の分別体験」。寺井さんによると、トイレットペーパーなど、色々なものにリサイクルしやすいペットボトルに比べ、洋服は分解が難しい構造でリサイクルが容易ではないという。

寺井さんの講演の後、実際に参加者が洋服を、「リユース」「ウエス(雑巾)用のリサイクル」「反毛用のリサイクル」「廃棄」に分類する仕分け作業を体験した。それぞれの基準は、「リユース」では、汚れがないこと、着古していないこと、冬物衣類でないこと、などがあった。冬物が除外された理由は、リユースされた衣服の送り先が東南アジア地域だからである。

寺井さん講演の様子

寺井さん講演の様子 Image via ごみの学校

リユースに分類する際の基準で印象的だったのは、「友達にあげないような服はNG」ということだ。リユースの一部は途上国に輸送されるが、「こんな状態の服でも着てくれるだろう」という感覚で途上国に古着を押し付けるのは失礼だと寺井さんは話した。前述のとおり、途上国における過剰な古着の輸入が古着のごみ問題を引き起こしており、世界的な問題になっているという背景がここにはある。

ウエス用のリサイクルに分類できるものは、綿100%の服であり化学繊維が含まれないものであること、汚れや黄ばみがついていないもの、色々な種類の糸が混じっていないもの、などの条件をクリアしていなければならない。反毛用のリサイクルに分類できるものは、ウール素材のもの、ジーンズ、ジャケットなどである。それらに当てはまらないものが廃棄に該当するが、廃棄処分のものは、廃棄業者にとっては利益にならないものであると寺井さんは話した。

筆者が体験した、衣服分別の様子。廃棄扱いになる服が大半だった。

筆者が体験した、衣服分別の様子。廃棄扱いになる服が大半だった。Image via ごみの学校

洋服のタグを確認し、繊維成分を確認しながら同じグループの参加者と一緒にひとつひとつ確認していった。驚いたことは、想像以上にリユースにもリサイクルもできない、すなわち「廃棄」に分類せざるを得ない服が多かったことだ。靴下や肌着などの下着類、汚れが目立つ衣服、布のようにそもそも洋服の形状を成していないものなどは、すべて廃棄処分になる。綺麗な状態で捨てられており、なおかつ綿100%素材である洋服はとても少なく、ウエスにリサイクルできる洋服が最も少なくなった。

体験の後、寺井さんは「使い捨て前提で作られているような衣服は繊維の成分が無駄に複雑になっており、リサイクルしにくい設計になっている」と指摘。そして、作られる洋服がその後消費者にどのような使われ方をしてほしいのかによって繊維の成分を調整すべきだと話した。それによって、リペアのしやすさが変化するというのだ。

生産者が、洋服が作られる時点で、その洋服が使われた後のことを意識するということ。無駄に繊維を複雑にするのではなく、メンテナンスをしやすい設計にするということ──衣服の生産現場から廃棄現場を意識するという試みは、循環する洋服づくりに欠かせない重要な考え方だ。

3. いまなぜ、くるくるファッションなのか?

BIG EYE COMPANYの大塚さんによると、KURU KURU Fashion Projectでは、各自治体の廃棄物担当者への周知のほか、徳島新聞を始めとした地元メディアの広報などを通して呼びかけた結果、徳島市内の拠点も含め、一か月半で1,822.6キロの衣服が回収されたという。

クロストークの様子

クロストークの様子

そして、回収された衣服は、上勝町ゼロ・ウェイストセンターにて素材ごとに仕分け作業が行われた。組成分析の結果、回収量の7割近くがリサイクルがしにくい混毛繊維であり、リサイクルがしやすい単一素材は綿100%が16.5%、ポリエステルが12.8%、その他ウール、リネンなどと続いた。この組成割合は、概ね業界平均と一致するという。

衣服の持ち込み理由の大半は、サイズ変更や使用機会の減少などだった。大塚さんは、「今回手作業で仕分けをしてみて、実際に衣類の再生量を増やすには、組成ごとの分類や状態の確認など細かな選別作業が必要となることを実感した」と話した。

鎌田さん

鎌田さん

依然として課題も残る。サステナブルファッションの理想は、衣服が焼却や埋め立てをされず資源として循環することや、服を楽しむ過程の中であらゆる面で負担がないことだ。しかし、上勝町の現状として、完全な循環ではなくいずれは廃棄される前提でのリサイクルになっていたり、資源回収時にマテリアルとしての価値が低かったりすることが挙げられる。そのため、衣服を作る段階から素材の再利用先があること、資源回収が行われやすい制度設計を整えると同時に、消費者も主体的にサステナブルな選択肢を選ぶことが求められる。自治体の課題としては、安定的な資源回収量と、回収先の確保、処理コストの削減、広域回収による付加価値化やルートの構築などがある。

また、鎌田さんは、このトークの前に行われた「ごみの学校」による衣服の分解体験ワークショップの例を取り上げ、「人々が実際に体験できる機会を増やしていくことで、この組成だとリサイクルの際に困るな、などの気づきが実感として生まれる」と話し、どのような組成だとリサイクルが容易なのか、という視点を人々が持つための「実践の機会」を生み出していくことも重要だと話した。

サステナブルファッション構築に向けた取り組みを推進していくにあたり、個人の意識レベルで変革を促すことももちろん重要だが、それと同時に、制度設計を整えていくことも重要だ。大塚さんは、上勝が変わったきっかけは、町でゼロ・ウェイストの宣言をおこない、町のルールとしての制度設計が構築されたことによる功績も大きいと述べた。上勝町の住民全員が意識が高いからごみの分別が達成されているわけではなく、ルールだからと従っている人が多いと大塚さんは話す。

制度設計の取り組み例として鎌田さんからは、EUなどで法整備が進んでいる、拡大生産者責任(EPR)の例が挙げられた。これは、「製品の環境負荷に対する生産者の責任が、製品の設計・製造・使用段階のみならず、消費後の廃棄・リサイクルの段階にまでに及ぶという考え方」であり、生産者は、環境負荷の低い素材を使うことや、リサイクルしやすい設計にすることが奨励されている。鎌田さんは、衣服を生産し、販売して服を生み出した側と、廃棄する側が、より対話をすることが望ましいのではないかと話す。なぜなら、廃棄や再生の現場を、生産側の人が知る機会はまだまだ少ないからである。

鎌田さんは「この仕組みは、日本でもプラスチックや家電などの領域で、すでに実装されている。ファッション産業においても有効な可能性がある」と、期待を込めた。

4. 業界に身を置く人々の、リアルな視点から問題の全容を捉える

アパレルショップの役割

unistepsのスタディーツアーには、アパレル業界に携わっている方、教育現場に携わる方など、ファッション業界に問題意識を持つ多様な人々が全国各地から集まった。ツアーでは主催者も含め、参加者同士の「もやもやトーク」が行われ、そこでは、様々な問題が縦横無尽に議論された。そこで挙がった興味深い議論の断片を紹介していきたい。

私たちは、洋服をアパレルショップで購入するとき、何を決め手にしているだろうか。価格やデザインの好み、気分など購入の理由は人それぞれだろうが、例えば、アパレルショップの販売員の方にその洋服の背景を聞いたり、ファッション業界の構造的問題について話したりする機会はあるだろうか。恐らく、そのような経験をしたことがある人は少ないだろう。

アパレルショップの販売員をしている参加者の方から挙がった意見は、販売員の方の仕事の在り方を考え直す、という点についてだ。アパレルブランドの販売員は、日々多忙を極めているという現状があるという。そして、アパレルショップの店頭で、販売員の方が服の背景を語ることができたら、お客さんもそこでファッション業界の問題を知り、それによって購買選択が変化する可能性があるのではないかという。

「普段買い物をしている中でも伝える手段がたくさんあるのにもかかわらず、情報を社内だけにとどめているのはおかしい。企業が問題を伝える努力をすることも重要だ」という意見もあった。例えば、洋服が生産されてから消費者の手元に届くまでの一連のストーリーをポスターにまとめて店内に掲示したり、洋服のリペア情報などをさりげなくレジに提示したりすることも可能かもしれない。このような取り組みであれば、少しの工夫とアイデアによって実践に移すことができる可能性が高い。それを知れば、ファッション業界の問題に対してあまり知る機会がなかった消費者も、自然な形で様々な情報が視界に入る。

このようなモノ作りの過程と、消費者を直接つなぐ“ハブ”のような役割が店頭にはあり、それは大きな可能性を秘めている。「売り手側も作る側も買う側も気づく場所にでき、双方向のコミュニケーションの場になりうる。お店自体も教育の場でないといけない」という話も販売員就労経験がある方から挙がった。販売員の方の過重労働を再考しつつ、お客さん一人ひとりにファッション業界の問題を伝えることができるように販売員の方々への教育を行うことも必要だろう。

ファッション業界の透明性

また、アパレル企業が情報開示における透明性を今後より高めていくにはどうすれば良いのか、という議論も生まれた。アパレルブランドには「作り手の顔が見えてはいけない、出さない風潮」があり、加えて消費者の命に直接関わる食品などと比較すると、洋服は情報開示の必要性が認識されにくい背景がある。それに加えて、他社と比べて突出も、遅れたくもない、という業界の横並び感覚が共有されているのではないか、という指摘も出た。

このような状況ではイノベーションが起きにくいというデメリットもある一方で、ポテンシャルがあるともいえる。ひとたび透明性を高めていこうという企業文化が生まれれば、それが波及効果を持って業界全体に広まっていく可能性があるからだ。

そして、参加者との間で共通して生まれた意見は、「企業はできていないところも含めて情報を開示してほしい」という願いだ。サプライチェーンにおけるサステナビリティが完璧ではないと情報開示できない、というような一種の完璧主義が業界にはあるのではないか、という指摘が議論で挙がったが、消費者は必ずしも完璧さを求めているわけではない。

企業は、消費者から批判される可能性があることを恐れずに、「ここまでは達成できました。ただここはできていません」というような姿勢で情報を開示できる文化が広まれば、消費者やNPO団体などを含め、より幅広いステークホルダーが包括的にファッション業界の問題を考える環境が生まれる。問いを開き、議論をよりオープンにする機会を提供することが重要なのではないだろうか。

編集後記

イベントを通じて、上勝町というイノベーティブなアイデアが次々に生まれるこの場所で、問い続けることを諦めない情熱を持った人たちを目の当たりにした。理想と現実と矛盾と葛藤の中に身を置いて、それらを丸ごと引き受けて、それでも、その先で考え続けること、問い続けること、変えていくことを諦めない人々。その静かな情熱に触発された日々であった。

実際にファッション業界における様々な分野に身を置いている人々が集まり、話し合うことの意義はとても大きいと感じる。「もやもや」を語り合い、率直な意見を自由に話し合うことで、業界の多層的な問題構造が浮かび上がってくるからだ。

ただし、アパレル業界の最前線を観察し、悩み、考える彼女たち、彼らの声は、なかなか一般の消費者までには届かない。言葉遣い一つひとつから洋服への愛が伝わり、工場見学の話で盛り上がり、業界に身を置いて働いているからこそ見えてくるものがたくさんある人々の声が、会社内や業界内に留まるのではなく、より広がっていってほしい。

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【参照サイト】ゼロ・ウェイストタウン上勝
【参照サイト】上勝町ゼロ・ウェイストセンター
【参照サイト】一般社団法人unisteps
【参照サイト】ごみの学校

Edited by Erika Tomiyama

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