日本でLGBTという言葉を認知している人の割合は、2020年の調査で80.1%に及んだ(※1)。
そう聞いて驚く人は少ないかもしれない。しかし、2015年は37.6%、2018年は68.5%だったことを踏まえると、大きく認知度が向上しているのはここ数年であることが分かる(※1)。この言葉を聞くと、レインボーフラッグを掲げたパレードなど、若者を中心としたムーブメントをイメージする人も多いだろう。
一方、LGBTQ当事者は若者だけではなく、高齢者の人々も含んでいることへの理解はあまり行き届いていないかもしれない。LGBTQと自認する高齢者は、日本の福祉・医療施設において差別や偏見を経験したという声が上がっている(※2)。LGBTQコミュニティの「世代」の広さについての理解は、未だ限られている可能性がある。
このLGBTQコミュニティは“多世代”で存在するという観点での取り組みが、アメリカの「ロサンゼルスLGBTセンター」で行われている。同センターは世界最大のLGBTQ+支援組織として多岐にわたるサービスを提供している。
同センターが提供するのは、シニア世代とユース世代の両者を対象とした住居だ。LGBTQのシニア世代のうち55%は一人暮らしで、3分の1以上が社会的な孤立を経験しており(※3)、孤独解消の取り組みが必要とされている。加えて、LGBTQのシニア世代は安定して暮らせる住宅を見つけることが難しいという現状もあるという(※4)。一方LGBTQのユース世代は、うち28%が人生のどこかのタイミングでホームレス状態または居住地が不安定な状態を経験しており、メンタルヘルス面のサポートも必要だと指摘されている(※5)。
そこで同センターは、LGBTQ+シニア世代に向けては安心して暮らせる手頃な住居を提供し、生活支援を実施している。同時に、ホームレス状態にある18〜24歳のLGBTQ+若年層を対象に最大24ヶ月間の一時的な住居を提供し、教育や職業トレーニング、ヘルスケア、カウンセリングなどの「Transitional Living Project (生活移行プロジェクト)」もおこなっている。低コストで参加できるイベントやジョブフェアも開催され、人間関係や社会的な立場を再構築する機会が創出されている。
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各プログラムではシニア世代とユース世代が一緒に学ぶこともある。これについて同センターでユース向けサービスのディレクターを務めるLisa Phillips(リサ・フィリップス)氏は「こうした若者の多くは、彼らのアイデンティティを肯定してくれる大人と出会ったことがありません。クイアであるシニア世代と出会うこと、そして互いを支え合い世代を超えて経験を共有できることは本当に素晴らしいことなのです」
と、Yes! Magazineに語っている。
高齢化が進む日本でも、同様の状況が想像できる。他の世代と同じように多様なニーズを持つシニア世代に対して、彼らを支える世代はいかに多様性を受け止め、互いに無理なく心地よいコミュニケーションを生むことができるだろうか。
一方で、ロサンゼルスLGBTセンターの事例に見られるように、思いを共有できる先輩世代に支えられる環境は、若い世代にとって貴重な場にもなりうる。それならば、シニア世代の割合が増えることを、必ずしもネガティブに捉える必要はないだろう。ヘルスケアや介護など乗り越えるべき課題はあるが、世代を超えて楽しさや心地よさを共有できる場が増える喜びに気づけたとき、高齢化社会の良い面も引き出すことができるのではないだろうか。
※1 電通、「LGBTQ+調査2020」を実施|dentsu
※2 性的マイノリティの高齢者が直面する課題への対応|SOMPOリスクマネジメント
※3 Creating community, battling loneliness among LGBTQ seniors|University of Washington
※4 For LGBTQ seniors, finding a house that is a home can be problematic|Tampa Bay Times
※5 Homelessness and Housing Instability Among LGBTQ Youth|The Trevor Project
【参照サイト】The Rainbow Connection|YES! Magazine Solutions Journalism
【参照サイト】Los Angeles LGBT Center
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